21/10/2020:『My Buddy』
朝起きた時に体はいつも火照っている。そして、ベッドの中で冷たいところを探しながら手足をもぞもぞと動かすのが好きだ。ひんやりとしたシーツと羽毛の間のスペースを見つけると、熱いフライパンに水をかけて一気にジュッと冷やす感覚になる。
「ねぇ、なんで、寝る時に何にも着ないの?もう秋だよ。」
と、彼女は言った。別にいやらしい意味ではなく純粋に。
「なんで、履いてるじゃん。パンツ。」
と、僕は反論した。
「それはカウントされないの。」
彼女はいつも呆れたようにして呟いた。
いつかテレビで見たのだ。日本に旅行できていた外国人の青年4人組だった気がする。真冬の日本に来て、スキー旅行をするのだが、節約のために車内泊や野宿をしながらグルグルと国内のゲレンデを回っていたーところを取材陣が付いて回るー。
白い息を吐きながら寝袋へ包まっていく彼らは往々に、皆裸だった。
「なんでだい?みんなも裸で寝るべきだよ。こっちの方がいいんだぜ?」
と、一人のロン毛の青年がカメラに向かって微笑んだ。
スタジオの画に切り替わって、タレントたちが驚いた表情をする。
そして僕は、
「あ、これだ。僕も今日からこうやって寝よう。」
と、思い立ち、本当にその日から彼らのように下着一枚で寝る生活を始めた。
今となっては、もう服を着てベッドに入る方が、逆に煩わしく感じるほどに、僕の体は順応していた。
どうして急にそんな気持ちになったのかは今になっても分からない。なんなら、その時は下着メーカーに勤めていた知り合いから貰った、メンズ用の快眠パジャマの試用モデルを愛用していたほど、申し分ない睡眠ライフだったのに。
まぁ、でもそのパジャマはその時ですでに着倒して2年は経っていたはずだから、そういう意味ではいいタイミングだったのだろう。
その話を彼女にすると、
「いいと思ったものをすぐに取り入れて実践する姿勢は評価しましょう。」
と、言いながら、ベッドから出てトイレに行った。
彼女は逆に何かを着ていないと落ち着かないからと、テロテロとヨレヨレの間くらいのスウェットを履いて、旅先で買ったTシャツを被っていた。一台の原付に4人が乗っているイラストが書かれていたり、その土地のビールのラベルがプリントされていたりするものだった。
でも、僕は今一人でこうしてベッドから出ないまま、手足をひたひたと動かし伸ばししている。
まだ同棲していない僕らは、会うのは週に3、4日くらい。それぞれの時間を尊重しつつ、無理をしない範囲で。
時折、寂しさと孤独が、その3、4日じゃない日に重なった時は、ちょっと辛いこともあるけれど、それでも充分にやっていけている。
「うん、そうなのよね。でも、一緒に住み始めたらどうなるかしら。楽しみと、心配と。」
ぼーっと天井を見上げながら、彼女の言葉を思い出した。
僕も似たような気持ちだった。
「まぁ、でもやってみないと分からないことなんだから、さ。」
と、自分で自分に言い聞かせた。
裸の手足をまた動かす。
冷たいところは、少しずつなくなっていくようだった。
・・・
今日も等しく夜が来ました。
Chet Bakerで『My Buddy』。