40中14名が感染しクラスターになった介護施設を経営している私が伝えること⑥
2022年3月、私が運営する介護事業所『よろこぼう屋』のサービス付き高齢者住宅施設。ここで新型コロナウイルスによるクラスターが発生しました。
これまで5回に渡って、その記録をお伝えしてきました。
今回は『よろこぼう屋』のクラスターの傍らにあった、私自身の暮らしを書き綴り本シリーズを締めたいと思います。
車中泊・事務所暮らし・江津へ通う日々
よろこぼう屋でコロナクラスターが起こっている傍ら。
私は車中泊や事務所暮らしをしていました。
コロナクラスターが終息するまでの間、自宅のある浜田市からよろこぼう屋のある江津市に毎日通い続けていました。それが、今の自分に出来ることだと思っていたからです。
車中泊
2022年3月13日(日)、よろこぼう屋でコロナ陽性者が発覚した当日、私は車中泊をしました。
浜田には自宅の他に、私の運営する介護事業所の一つ居宅介護支援事業、福祉用具貸与事業を行う「ほほえみライフ」があります。その事業所の駐車場で二日間ほど車中泊しました。
自宅には、進学を控えた息子もいましたし、感染のリスクを考えると接触しない方がいいと考えたからです。
事務所暮らし
車中暮らしを経て、後に事務所暮らしに切り替えます。
福祉用具貸与事業所の2階が開いていたので、そこで寝泊まりをするようにしました。
幸い事務所には、トイレやシャワー、洗濯機、冷蔵庫もありましたので、なんとか暮らせていました。
江津へ通い続ける暮らし
自宅のある浜田市から、よろこぼう屋のある江津市。
横に長い島根県は、隣市同士でも思いのほか距離があります。
それでも『クラスターが終息するまでは』と、決めたことがあります。毎朝誰よりも早く出勤し、仮設トイレ、休憩所のコンテナの掃除を行いました。私に出来ることは、これくらいしかなかったように感じ経営者として少しでも職員の方々の後ろ盾となれたらと考えました。
私は、よろこぼう屋の前社長から事業承継の話を持ち掛けてもらったことで事業を引き継ぎました。社長に就任してから、事実3年しか経っていません。前社長と比べると経営者としての私への信用が少ない中『少しでも、よろこぼう屋の力になれたら』とも、思っていました。
ただ、現場の職員に比べて自分に出来ることは限りなく少ないです。もちろん、シフト管理や声掛けなど出来ることはしましたが、現場で支援する職員の方々に比べるとその差は歴然。だからこそ『そこに居ることが大切なのでは』考えました。
嘘か本当化は分かりませんが、職員の中には『社長が居てくれることで安心できた』と言ってくれる人もいました。そうした労いの言葉が、片や私のエネルギーとなりました。
息子の自立
事情があって、私はこれまで男手ひとつで育ててきました。
その息子が、この騒動の間に進学に向け上京しました。
電話で状況を連絡しチケットを購入させ、息子は空港から一人飛び立っていきました。息子に感染させて、入学に影響を与たくはなかったためです。
人生の節目を親として、最後まで見送ってあげることができなかったことは、親として心残りでしたが、立派に育ってくれて嬉しいです。
こうして非日常となる日々をくり返す中でなんとか、私の暮らしは立ちまわっていました。
【これからの課題】職員のQOL、利用者のQOL
最後に、入居者と職員の双方のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)について綴っておきます。
入居者のQOL
介護施設では本来『入居者の方々の生活の質を維持』しつつ、暮らしてもらわねばなりません。
ただ今回、コロナクラスターにより部屋から出られない状況を作ってしまいました。致し方なかったと言えばそれまでですが、本当はなるべく制限無き生活を提供する責任が私どもにはあります。
正直なところ、感染を重視して制限を掛けるのは簡単です。しかし『暮らしを整える』という視点では、それが良いことのはずがありません。
コロナ禍が続く中『入居者の方々の暮らし』について、今後も大きな課題となるでしょう。
職員のQOL
また、職員の働き方に見るQOLも考えたいところです。
コロナ禍となって3年が経ちます。最初は何者か分からないコロナウイルスに社会全体が拒否反応を示し怯えていました。ただ、長引くコロナ禍によって人々は共存を目指す方向に向かっているように見受けられます。
それを証するように、世界の国交は次々と開かれ、国内でも次々と制限が解除されます。旅行を楽しむ人も増え始めましたし、各種エンターテイメントも確実に開かれ始めています。
職員の中でも、旅行に行ったり会食を楽しんだりしたいと考える人もいるでしょう。また、県外にご親族がいるご家庭にとって、今の制限ある暮らしは堪え難いものだと思います。一方では、コロナが終息しない中で社会が開かれていくことに不安を感じる方も少なからずいるはずです。
正直なところ私は、社会が通常に戻る中で介護事業の過度な制限に違和感を感じています。
『社会の暮らし』と『働き方の様式』に温度差がある介護業界。この現状について、何を優先すべきか今一度考える時期が来たのではないかと考えます。
最後に
これまで6回に分けて、島根県江津市『よろこぼう屋』のサービス付き高齢者住宅を襲ったコロナクラスターについてお伝えしました。
事実、私がここに綴った文字以上に大変な出来事でした。
ただ、その中で得たものもあります。それは、人々の温かさだったり、よろこぼう屋で働く職員の人達の姿を改めて知ることだったり。それが私の心を温めもしてくれました。また、職場全体の感染予防の意識もかなり高まりました。
私は、今後もよろこぼう屋で起こったコロナクラスターのことを忘れません。そして、コロナ禍が早く終息することを心から願っております。
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