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有識者会議に協力しなかった宮内庁?──ご負担軽減の失敗を暴かれたくないからか(2017年5月7日)


 先日、ある新聞が伝えていた情報にはしばし唖然とし、やっぱりそうだったのか、問題は宮内庁当局なのか、との疑いをあらためて抱いた。

平成29年5月2日の産経ニュース



▽1 「プライバシーに関わる」


 記事によると、安倍総理の私的諮問機関である「公務負担軽減等有識者会議」が、陛下のご公務の実態について宮内庁に情報提供を求めたところ、陛下のプライバシーを理由にして、十分に協力しなかった。そのため会議の議論は当初から難航し、最終報告に具体策を盛り込めなかった、というのである。

 会議側は守秘義務を守るという前提で、陛下の一週間のスケジュールや季節ごとのご活動について情報を求めた。これに対して宮内庁側は、ご公務の年間件数や見直し状況に関する資料を提示するにとどまり、それ以外は拒否したらしい。

 耳を疑わざるを得ない話だが、ほんとうなのだろうか。

 記事では、宮内庁側は、ご負担削減などはすでに実施していて、これ以上の見直しは困難だとの認識を示したという。しかし、万策尽きたというのなら、いまさら何のために、政府は「公務の負担軽減等」を検討しなければならないのか。政府の作業に水を差す行為といわねばならない。

 それとも、もはや「退位」していただくほか方法はない、というのが宮内庁の願いなのか。「退位」は陛下のご意向ではなくて、当局側の意向だったのではないか、とも疑われる。

 宮内庁は、記者の取材に対して、「陛下の起床時間や就寝時間、食事の時間など、公務に関係のない全くプライベートに関わることは、どこから求められても公にすることはできない」と答えたらしい。何ともトンチンカンである。

 ご公務について議論しようというのに、プライバシーはないだろう。

 それでいて「有識者会議のメンバーに不満が残ったり、それ以上、要求されたりすることはなく、会議の議論に何も支障はなかったと認識している」と語ったという。開き直りだろうか。


▽2 報道しようとしないメディア



 ただ、ご公務ご負担の度合いを客観的にデータ化することは、口で言うほど簡単ではない。元日や天皇誕生日のようにほとんど終日、分刻みで祭祀や祝賀行事が続く日もあれば、御所での執務や勤労奉仕団へのご会釈だけの日もある。

 これをご公務日数として数えれば、同じ「一日」となる。日数だけではご負担の程度は分からない。

 であればこそ、有識者会議は詳細なデータの提供を宮内庁に求めたのだろう。それに応えられなかった宮内庁は、問題意識も分析能力も高くないということか。

 けれども宮内庁ばかり責め立てることはできない。こういうときこそ役割が期待されるメディアも同様なのである。

 陛下の御不例を発端として、ご公務ご負担軽減と平成の祭祀簡略化が始まったのは、ちょうど拙著『天皇の祈りはなぜ簡略化されたか』のあとがきを書いているときだった。


 本が店頭に並んだあと、取材を申し込んできた旧知の新聞記者から、ご公務の実態について聞かれたので、ご負担を細かく数値化し、報道したらどうかと逆に勧めたが、試みようとはしなかった。

 一口にご公務といっても、多岐にわたる。新年など祝賀行事、一般参賀、首相や最高裁長官の親任式、外国元首とのご会見などなど、いったい何が陛下のご負担となっているのか、データ化しなければ、議論は雲をつかむようなものとなる。

 いまや情報公開の時代で、陛下のご日程は宮内庁HPに細かく載っているが、分析には手間暇がかかる。専門知識も要求される。結局、私が自分で挑むことになった。

 その結果、判明したのは、じつに驚くべき事実だった。

 当初、御在位20年のあとに予定されていた宮内庁のご負担軽減は、陛下の御不例後、前倒しされたのだが、ご公務の件数は減らないどころか、逆に増え、他方、古来、天皇第一とお務めとされる宮中祭祀へのお出ましは文字通り半減したのである。

 ご負担軽減策が当初から完全に失敗しただけではない。ご公務の見直しを名目に、宮内庁が「皇室の私事」、つまりプライバシーと認識する、天皇の聖域である祭祀に介入し、変更させたのは許されることではなかった。


▽3 「退位」で埋められた最終報告



 いまさらながらだが、先月、公表された有識者会議最終報告の「参考資料」には、70ページに「天皇陛下の御活動の概況及び推移」と題する一覧表があり、昭和天皇57歳(昭和33年)、同82歳(同58年)、今上天皇57歳(平成3年)、同82歳(同27年)について、国事行為、ご公務、その他、それぞれ項目ごとに件数が数値化されている。


 表の説明書きには、「御活動の推移について、国事行為には大きな変化が見られない。公的行為については行幸啓や茶会などの国民と接するご活動や外国ご訪問など全般に増加傾向」と解説されている。

 たしかに、いずれの年次でも国事行為の御署名・御押印は約1000件と変わらない。一方、いわゆるご公務は、昭和天皇の場合は20数年で減っているのに、今上陛下は逆に増えている。鳴り物入りのご負担軽減策にもかかわらず、である。

 宮中祭祀簡略化の実態は、昭和、平成とも、一目瞭然だが、表には説明がない。

 しかしこの程度の検証は、私が当初からメルマガで明らかにしてきたことだ。

 有識者会議が「公務の負担軽減」を謳うのなら、「退位」認否の前に、宮内庁の削減策がなぜ失敗したかを具体的に点検すべきだったのではないか。有識者たちも「退位」よりご負担軽減策について論ずるべきだったと思う。

 そうすれば、最終報告書が「退位」問題で埋め尽くされることはなかったかも知れない。ことの発端が「生前退位」表明報道だったことがつくづく恨めしい。

 宮内庁はもしかして、失敗の原因を暴かれたくなくて、有識者会議への積極的協力を拒んだのだろうか。もしそうだとすると、陛下のプラバシーを口実にするとは許容範囲をはるかに超えている。そんなことがあり得るのだろうか。

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