えっ、皇太子殿下と安倍総理が対立?──朝鮮日報・車特派員の驚愕記事(2014年3月9日)
皇太子殿下のお誕生日会見について、前回のメルマガでは、日本のメディアを代表する朝日新聞が、あながち誤報とまではいわないまでも、全体の事実を歪める記事を載せているとお話しましたが、完全に客観的事実から逸脱しているのが韓国で最大部数を誇るという朝鮮日報の記事です。
刺激的な記事を書くことで知られる車学峰特派員が、安倍総理が進める憲法改正の動きに、天皇陛下と皇太子殿下が不満をお持ちだ、と伝えているのですから、驚きです〈http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/24/2014022400882.html〉。
▽1 護憲派に仕立て上げる
記事によると、殿下は「日本は戦後、憲法を基礎として平和と繁栄を享有してきた。憲法は順守しなければならない」と述べたとされています。
最初の前提からして、トンチンカンです。
正確には、宮内庁の発表では、殿下は「日本国憲法には『天皇は,この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ,国政に関する権能を有しない。』と規定されております。今日の日本は,戦後,日本国憲法を基礎として築き上げられ,現在,我が国は,平和と繁栄を享受しております。今後とも,憲法を遵守する立場に立って,必要な助言を得ながら,事に当たっていくことが大切だと考えております」と語られています。
これは、皇室のご活動と政治の関わりについての質問(問4)に対してのお答えで、現行憲法では天皇は国事行為のみを行うと規定されていることを確認されたのですが、車記者の手にかかると、護憲か改憲かに問題がすり替えられています。
記者会見の問3では、陛下のご公務を引き継がれることについて、「殿下は過去の天皇が歩んでこられた道と,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致して」と述べられていますから、もっぱら憲法遵守のみを表明されているわけでもありません。
▽2 陛下もまた平和憲法擁護?
けれども、車記者によると、じつは陛下もまた護憲派だというのですから、開いた口がふさがりません。
「今上天皇も昨年12月の記者会見で『戦後、連合軍の占領下に置かれた日本が、平和と民主主義を重要な価値と位置付け、新たな憲法を制定し、さまざまな改革を通じて現在の日本を築き上げてきた』とし、現在の平和憲法を高く評価している」というわけです。
しかし、宮内庁の発表はかなりニュアンスが異なります。
陛下は、記者会から問1として、80年の道のりを振り返ってのご感想を求められ、戦争と戦後の歴史を回顧されて、「戦後,連合国軍の占領下にあった日本は,平和と民主主義を,守るべき大切なものとして,日本国憲法を作り,様々な改革を行って,今日の日本を築きました」と述べられました。
さらに、問3で皇室のご活動と政治との関わりについてお考えを聞かれて、「日本国憲法には『天皇は,この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ,国政に関する権能を有しない。』と規定されています。この条項を遵守することを念頭において,私は天皇としての活動を律しています」と述べられたのでした。
車記者の記事にある「平和憲法を高く評価」はどこにもありません。
▽3 憲法改正にご不満?
ところが、車記者は、ありもしない事実に基づいて、「天皇と皇太子が相次いで憲法の順守を強調したことは、安倍首相による憲法改正の動きに対し不満をあらわにしたものとも解釈できる」と論理を飛躍させています。
「平和憲法」遵守の立場を強調する陛下と殿下は、憲法改正を推進する安倍総理とまっ向から対立するという構図です。
韓国歴史ドラマ風で、お話としては楽しそうですが、まったくの見当違いでしょう。
たとえば、陛下は御即位20年の記者会見で、憲法が定める「象徴」という地位についての質問を受けて、「長い天皇の歴史に思いを致し,国民の上を思い,象徴として望ましい天皇の在り方を求めつつ,今日まで過ごしてきました」とお答えになっています。
当メルマガで何度も言及してきたように、陛下にとっての「象徴」天皇とは、日本国憲法が定める「象徴」のみならず、長い歴史のなかで培われてきた「象徴」でもあります。
殿下が「過去の天皇が歩んでこられた道と,天皇は日本国,そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致して」とおっしゃったことと、同じ意味でしょう。
▽4 ジャーナリズムが育たない
一方、自民党は「日本を取り戻す」をキャッチコピーとしています。日本の長い歴史を重視し、伝統的価値を回復するという意味でしょう。とすれば、陛下や殿下と対立することはあり得ません。
車特派員の記事はまったくの的外れです。
ある韓国・朝鮮研究者は「韓国には資料や事実に基づいて、実証的に考察する文化がない」と指摘します。韓国文化専門家の友人は、「儒教文化が根強い韓国社会では形式が尊重され、現実が軽視される。あらまほしき幻影の正当化に全精力が傾注され、人々は気分だけで突っ走る」と分析します。
客観的事実が軽視される社会では、まともなジャーナリズムは育ちません。
しかし、車特派員の記事を笑うことはできません。皇室を現行憲法の枠組みに押し込めようとする人たちは、前回、お話ししたような日本のメディアのみならず、いまや陛下のお側近くにまでいるからです。
それかあらぬか、宮内当局者からの抗議の声は、聞こえて来そうもありません。
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