朝鮮人「強制連行」──こんな人たちが書いてゐる高校の「世界史」教科書(「神社新報」平成16年7月5日号)
今年(平成16年)の大学入試センター試験の世界史で「第2次大戦中に朝鮮人の強制連行があった」を正解とする出題があった。
「史実かどうか疑はれてゐるのに」といふ国民的批判が沸き上がると、同センターは
「教科書に載ってゐる」と強弁し、文科省は
「教科書検定は一般的学術状況を踏まへてゐる」と正当化した。
それならどんな教科書をどんな人たちが書いてゐるのか。「強制連行があった」と記述する主な教科書を読み返してみた。
▢ 著書が一冊もない
「70万人に及ぶ朝鮮人が日本に強制連行され、鉱山や土木事業などで低賃金と民族差別のもとに激しい労働に従事させられた」
と書いてゐるのは、実教出版の『世界史B新訂版』(平成14年検定済、15年発行)である。
ここにいふ「強制連行」は昭和19年9月に始まる国民徴用令による「徴用」を指してゐるのだらうか。「70万人」は「自由募集」による動員をも「強制連行」として数へ上げる朝鮮大学校教員・朴慶植氏(故人)の「政治宣伝」を採用した結果なのか。しかし日本の外務省は「強制連行」を否定してゐる。政府資料によれば、当時、労務管理の粗悪な事業所には徴用が避けられた。奴隷のごとく扱はれたかのやうな記述は正確ではない。
執筆者は横浜国立大学名誉教授で山梨県立女子短大学長の鶴見尚弘氏ほか9人。鶴見氏は中国史研究家だが、国立国会図書館の書誌検索で見る限り数冊の共著(論集)のほかに著書はない。東京大学教授の木畑洋一氏は20世紀の戦争を再検討する著書などを共産党系出版社から数多く上梓してゐる。愛知大学助教授の三好章氏は中国人民解放軍史の研究者だ。
▢ 朝鮮史家がゐない
第一学習社の『新世界史B』(9年検定済、15年発行)は
「朝鮮の人びとは太平洋戦争が激化すると、日本の炭坑や軍需工場などに強制連行され、また軍人・軍属として徴発された」
と記述する。この教科書の特徴は著者のほとんどが広島大学教授および名誉教授で占められてゐることだが、中国史の研究者は2人ゐるものの、朝鮮史の研究者はゐない。
多くの受験校で採用され、もっともシェアの大きい山川出版社の『詳説世界史改訂版』(9年検定済、15年発行)は
「戦争中の日本の労働力不足を補うため、朝鮮では労働者の強制連行もおこなわれ」
と書いてゐる。代表筆者には東大教授の山本達郎氏(東洋史)もゐたが、3年前に亡くなった。山本氏ばかりではない。江上波夫東大名誉教授、村川堅太郎元東大教授ら、長らく日本を代表し、受験生が絶大の信頼をおいてきた歴史家が鬼籍の人となってゐる。このため14年検定済、15年発行の新しい版では筆者の顔ぶれが一変した。「歴史の大家」なきあと、記述内容は「変はる」と指摘されてゐる。
一橋出版の『世界史A新訂版』(9年検定済、15年発行)は
「日本軍による強制連行や強制労働が朝鮮半島や中国大陸で多くの民衆を巻き込んだことはよく知られているが、これらの日本軍の犯罪行為は全アジアで展開されたのである」
と書いてゐる。「強制連行」で飽きたらず、「強制労働」と記述してゐるのはほかの教科書にはない特徴だが、執筆者代表3人の中には、軍人らの戦果至上主義の作戦が当然のごとく掠奪や殺戮を生み出したと主張する『南京事件』や『南京事件と三光作戦』の著者、都留文科大学教授の笠原十九司氏がゐる。3人の大学教授以外、ほとんどの筆者が高校教諭で占められるのもこの教科書だけだ。
▢ 「美味しい仕事」
教科書編集の実態は各社各様で、しかも社内機密に属してをり、真相はつまびらかではない。しかし事情通によると、奥付の執筆者名は名目に過ぎず、実質的な筆者はおほむね別にゐるといふ。
教科書は「特殊な商品」で、採択が決まれば10万部単位でさばけるばかりでなく、次の検定まで4年間は販売がほぼ保証される。教科書が売れれば各種教材も売れる。出版社にとっては「美味しい仕事」で、それだけに熾烈な営業活動が展開される。
代表執筆者などには年間数百万円の印税が入り込むといはれ、引退することはまづない。しかし彼らが執筆することもむしろまれで、実際は編集部が社の営業方針に基づいて編集するとの指摘がある。
教科書を使ふ教員の意向も重要で、しばしば教員自身が執筆者として顔を出す。専門知識が乏しいまま、マスコミ報道などに流されて教科書の内容が定まっていく傾向は否めない。
韓国・朝鮮問題の専門家によれば、「強制連行」が「歴史の歪曲」であることは大方の朝鮮史研究者は知ってゐるといふ。けれども良識派の声は左翼学者などで固まった教科書編集の現場までは届かず、他方、事なかれ主義の文科省は「歴史教育の偏向」をほとんどチェックしようとしない。かくて「歴史の歪曲」は野放し状態となる。
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