皇太子妃の公務とは何なのか──皇太子妃殿下『運動会観戦』に朝日新聞名物記者が噛みついた?(2008年10月21日)
(画像は朝日新聞社。同HPから拝借しました)
▽1 皇太子妃のプライベート優先?
「週刊文春」10月16日号がトップに「雅子さま『運動会観戦』に朝日名物記者が噛みついた」という記事を載せていました。
記事によると、10月3日の金曜日、東宮大夫の定例会見で配られた「動静表」には、「10月11日の学習院初等科運動会」に皇太子妃殿下がお出ましになることが記されていました。
しかし同じ日に大分県で全国障害者スポーツ大会があります。この大会は皇太子同妃両殿下の公務のなかでもっとも重要とされる「8大行啓」のひとつですが、東宮職は妃殿下がこれに欠席したうえに、愛子さまの運動会にお出ましになるという予定が発表されたのでした。
案の定、「大事な行啓よりプライベート優先と見られないか」と記者から質問があり、さらに朝日新聞のベテラン記者・岩井克己編集委員が「とんでもないこと。危機感すら感じられる」と迫り、東宮大夫は弁解に終始したというのです。
岩井編集委員は週刊誌の取材に対して、「質問があったともなかったともいえない」と答えているくらいですから、真相がどうだったのか、分かりません。公務よりプライベートを優先したというような事実があるとすれば、指摘はもっともなことです。
▽2 役所のイベント出席が公務か
しかし正確にいえば、大分県行啓のメインである身障者スポーツ大会開会式は11日(土曜日)で、愛子さまの運動会は翌12日(日曜日)です。同じ日ではありません。
もっと基本的なこととして指摘しなければならないのは、原武史教授の宮中祭祀廃止論や西尾幹二名誉教授の東宮批判に関連してすでにお話ししたように、そもそも皇太子妃の公務とは何か、ということです。
いみじくも「週刊文春」に記事に「8大行啓」とありますが、重大な公務とすることに何の根拠があるのでしょうか。
皇族の公務について確たる法的根拠があるわけではありません。
憲法第1章には天皇の国事行為について規定があり、「この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」とさえ定めています。皇后、皇太子、皇太子妃の権能についての定めはありません。
公務とは何なのでしょうか。
記事にある全国身障者スポーツ大会は大切な行事ですが、つまりは厚労省の関係団体である日本障害者スポーツ協会が主催するイベントです。
皇族がお出ましになる行事は行政関連、あるいはマスコミ関連が大半のように見えますが、行政主体のイベントに出席されることが皇族に期待される公務なのでしょうか。
▽3 法的な整備が先決
行政が関連する行事にお出ましになる公務より、東宮家のプライベートな行事を優先した、と批判される場合の「公」とは何なのでしょうか。
伝統的な考え方では、順徳天皇の「禁秘抄」(1221年)に「およそ禁中の作法は神事を先にす」とあるように、皇室の第一のお務めは祭祀です。
しかし現行憲法が定める天皇の国事行為10項目に、「祭祀」はありません。
それでありながら、西尾幹二名誉教授の東宮批判が何度も繰り返しているように、皇太子妃殿下が平成15年以降、「祭祀にいっさいご出席ではない」と批判されています。
しかもその真相は、昭和50年に側近による皇后、皇太子、皇太子妃のご代拝制度が廃止されたことにあります。憲法が定める政教分離原則をことのほか厳格に考えた結果でした。
憲法の定めにない祭祀について、しかも側近によってご代拝の機会さえ奪われ、それでも祭祀を蔑(ないがし)ろにしている、と批判されているのです。
法的根拠があるわけでもない「8大行啓」もしかり。官僚たちの主催するイベントに出席することが公務だというのなら、そのように法的な整備を図ることが先決でしょう。
天皇・皇室の役割を国の基本法にきちんと位置づけないばかりか、祭祀の破壊まで官僚たちが行い、皇族に責任を押しつけていることの方が、「とんでもないこと」だと私は思います。