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「水曜日のコロッケそば」第三夜/「めん処一ぷく・北朝霞店」

「水曜日のコロッケそば」第三夜/「めん処一ぷく」北朝霞店」

前回、前々回と、読んでいただいた後にすぐにでもかけつけられるチェーン店のことについて書きましたが、今回は、偶然なる出会いによるコロッケそばです。叔父の弔事で乗った東武東上線。普段の生活圏内ではない場所で、告別式に向かう途中にふらりと立ち寄りました。実は、偶然にもほどがあるご都合主義ですが、自分がこのコロッケそばのレポートを書き出したのはコミティアで見かけた「コロッケそば同人誌」と、もうひとつ。闘病中の叔父との会話だったのです。ご一読いただければ幸いです。

⚫︎めん処一ぷく 北朝霞店

この寒い時期、叔父の葬儀のために朝から喪服に着替えて家を出ました。さすがにスーツ姿では寒く、上着にダウンジャケットを着込んでいましたが、朝食もとっていない体は、起き抜けから一向に温まりません。そこで、告別式会場にたどり着く前に、軽く 何か食べていこうかと思ったのが店に入るきっかけでした。池袋から越谷方面に向う東武東上線は、過去にも、叔父の家に遊びに行くとき以外に、乗ることがなかった私鉄です。土地勘もないのですが、ちょっと大きめの駅なら立ち食い蕎麦くらいあるだろうと駅前を見渡したところ、二件の立ち食いそば屋を発見しました。「小諸そば」がある!小諸そばは、立ち食いのそばの中では、かなり「そば」っぽさが強く、普通レベルで「おいしい」というありがたいお店なので、ここで「コロッケそば」を食べよう!と思ったわけです。足早に店頭まで行きましたが…メニューに「コロッケそば」は、なし!そうなんですよ、まともなそばを食べさせようとする姿勢の中には、普通コロッケそばは含まれないんですよ。泣く泣く小諸そばを後にしてたどり着いたのが、もう一店の「めん処一ぷく」です。東武東上線の朝霞台と近接するJR北朝霞駅の構内にある、ジェイアール東日本系列のお店です。「JRだと「あじさい」系チェーンが猛威をふるっていますが、そことは違うブランドなんですね。初めて見たお店です。

驚いたことに、コロッケそばを注文すると、冷えたコロッケをレンジでチンしています。これは、冷えたコロッケで、熱々のつゆを中和する「コロッケそば」としては珍しい調理法。ひょっとして、こだわりの名店か?期待は高鳴ります。でてきたときに、さらにもうひと驚き。ネギの刻みが細かい!!立ち食いそばのねぎは、基本、乱暴に刻まれているケースが多く、不揃いで、どちらかというと乱雑なケースがほとんどだからです。さらに、期待しつつ、さっそくいただくことに。

・・・あれ?このそば・・・「あじさい」や「あずみ」などのJR東日本系列でおなじみの、あれだ。そば、だと思っては絶対にいけない、角丸のタイプ。つなぎが多いやわらか麺。やっぱり、系列の壁は越えられなかったかー。さらにつゆは・・・甘みを控えめなのに風味を感じず・・・。要するに、味わいが完全に化学調味料まかせ。これも同じく、JR系列でおなじみのタイプ。
これは「くそのようにダメな食べ物」としての「立ち食いそば」そのものじゃないか!(否定しているわけではありません。くそのようにダメな食べ物を食べたいっていうことだってあるんです)
正直、おすすめするものではありませんが、食べることにまつわる「ひもじさ」「暖かさ」の本質は、こういう食事をとることで明確化され、「美食」の類にまつわる空虚感、さもありなんと感じ始めるのです。
それでも、つゆに浮いたコロッケの油が、腹を満たし、心なしか、体に熱が戻ってくるのは感じるのです。

叔父が亡くなる一ヶ月前、病院の談話室での会話を思い出しました。食堂癌の腫瘍を切った直後の叔父は、固形物が食べられずに「毎日、食べ物のことしか考えてないよ」と笑っていました。今一番したいことは、カツ丼と、立ち食いそばを食べることだと言ってました。「本格的な日本そばじゃなく、小麦粉メインの、安っぽい、しょうゆ味の立ち食いそばだ」と。75を迎える叔父にとっては、そんな立ち食いそばこそが、働き盛りの頃に食べた思い出の味だったりしたのだと思います。よく「昭和の味」「レトロな味わい」などと紹介されがちですが、それは現代の最年長者たちがリアルで愛した、「明日の活力のため」の味だったのだなと思います。うまいまずい。健康にいい。そんな豊かなものではなく、純粋に「働くために食べてきた」味。今日、食べたコロッケそばの「くそのようにダメな食べ物」の愛おしさは、そんな「ついこの間」の時代を感じさせる、立ち食いそばそのものだと思えたです。

住所:埼玉県 朝霞市 浜崎 1-2
アクセス:JR北朝霞駅構内 東武鉄道朝霞台駅から66m
TEL/048-476-0731
営業時間/6:30~23:30
定休日/無

コロッケそば 400円
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