一年で527作のweb小説を読んだ本好きによるオススメ作品2023
オハとー、サイとです。
RT企画で作品を募集して読む配信「読書実況」をしています。
2023年に読書実況で読んだ作品数は527作でした(12/30時点)。
527作の中で面白かった作品は38作です。
この記事では38作の中から厳選して4作をレビューします。
前書き
2023年も沢山の作品をご応募いただきありがとうございます。
RT企画へ作品をお送りしている方のほとんどが、自作が読まれていない自覚のある作者さんだと思います。何なら僕もそうです。
読まれていないからと言って、すべてが面白くない訳ではありません。
大半がネットで読まれるアルゴリズムに沿っていないからです。
ゆえに魅力が1つも無い作品というのは見なかったように思います。
しかし、面白さとは主観的で、結果的なものです。
僕は読み手として色んなポイントに快/不快や興味の有/無があって、しばらく読んだのちそれらが結像したものが面白さなのだと考えています。
今回、個人的に面白さを見出すことのできた作品をノミネートとしました。
ジャンルとしてはエンタメ系・ラノベ系が多いです。
いずれも面白かったのでぜひ読んでみてください。
ノミネート
面白かった38作の作品リンクです。
応募時の題名、作者名、URLを掲載しています。
掲載順は読書実況で読んだ順(敬称略)
Dチューバーな俺とオカン ~俺のゲットしたレアスキルが【オカン乱入】だった件 大バズりしながらかーちゃんと一緒に迷宮最深部を目指すぜ~/カワウソうーたん
本格異世界グルメ ~格好をつけて女神様にチートなしで料理の腕でのし上がると宣言したら塩も砂糖もない農村に転生させられたんだが~/カワウソうーたん
『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~/サンボン
オススメ①|フレーバーを小説とする試み
『深紅の貴婦人 ~継母に金のピンで両目を潰されて愛する王子を妹に盗られた私はそれでも世界を赦したい~』(作・かわうそうーたん)は、間違いなく泣ける作品だ。しかし、それ以上に挑戦的な試みがあるように思えた。
本作の驚くべき箇所は、物語がクライマックスから始まり、後半はその説明のみで構成される点にある。つまり、作品の本質がフレーバーなのだ。
それは物語前半のセットアップに成功している事を意味する。
冒頭で主人公・メリーは悲惨な状況にあり、残酷描写にウッとなる。ここで離脱せず読むことで読者と主人公の感覚がリンクするのだろう。
人は不幸に陥ると、なぜ自分はこんな目に遭うのだろう、と一度は考えるものだ。本作は弱者の嘆きを推進剤として物語を先へ進める。
ゆえに、メリーの祈りはいったいどこへ向かうのか。そしてメリーは救われるのか。最初の数百字で興味がそこに向くのだ。
小説では「説明」をするべきではない、とされる。小説のお作法としてよく聞く定型文だが、読者の求める情報だけは説明する必要がある。この作品ではその「説明」が最も面白くなるように設計されているのだ。
6000字程度の短編だからこそ、この手法が際立ち、傑作となった。
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9159hs/
オススメ②|WEB小説ならではの恐怖演出
『深夜営業『オカルトパーク』』(作・喜田)は2023年に読んで最も怖かったWEB小説だ。本当に怖かった。読みながら悲鳴を上げた。誇張はない。
本作は演出が優れていた。あくまで恐怖の演出が凄かったという話なので、まずは自分の目で見て確かめてほしい。1万字強の文量なのですぐに読み終わる。以下の切り抜き動画をみるのは、読み終えてからにしてほしい。
インターネット老人はテキストの空行が多いとグロ画像を警戒して超ビビりながらスクロールする。まさか令和でこの怖さに出会うとは思わなかった。
ハーメルンだから出来た演出かもしれない。少なくともなろうやカクヨムでは見れないだろう。こういう作品に出会えるからRT企画はやめられない。
内容はシンプルな都市伝説モノ。オチの付け方も相まって、読了感もスッキリ。WEB小説ならではの演出に特化した作品として完成度が高い。
オススメ③|タブーを共有してこそ青春だ
今年一番の反省点は、『女子中学生ラブホテル探訪記』(作・ドン・ブレイザー)によって、百合豚の気持ち悪い呟きを配信してしまったことだ。作品は本当に素晴らしかったが、私の配信での言動は顧みなければならない。
そこで気持ち悪さ全開のまま、勢い余って書いたカクヨムレビューをそのまま丸写しすることにする。
百合豚の頭脳は加熱しろ。百合豚は脳破壊されて百合豚になるので、存在としてはゾンビに近い。ゾンビと人間は区別できる。内容についてほぼ語らず、百合作品の文脈でのみ語っているところがゾンビの証拠だ。
人間の脳に入れ替えて語るとすれば、この作品を最も輝かせている要素は、家出先がラブホテルだったら、という状況設定である。それ以外ではほとんど現実に即しており、彼女たち二人の生活感も垣間見える細かさだ。
JC二人がラブホテルという大人の空間へ一足飛びすることで、互いの距離感が浮き彫りになり、衝突し、和解する至極まっとうな人間ドラマになる。
タブーの共有によりスリルと可笑しみを生む青春ものを読みたいなら必見。
オススメ④|空想が現実へ逆照射する思考実験
宇宙開発の黎明期において、フリッツ・ラングの無声映画『月世界の女』(1929)で、ロケットの発射シーンでカウントダウンを行う描写を初めて行い、今日のロケット打ち上げでもカウントダウンが行われるようになった。
空想が現実に影響を及ぼすことは当たり前なのだ。それを『ニュー・シネマ・パラダイス』における「映画で人生を豊かに」というテーマを拝借して対比させたのが『ニュー・シネマ・インフェルノ』(沙月Q)だ。
本作は行き過ぎたファスト映画の物語だ。この未来世界では《ムビオラ》によって、映画の内容を圧縮して体験できる。一種の走馬灯だろうか。もちろんその走馬灯は子供の頃に見れなかったラブシーンの詰め合わせではない。
圧縮された体験は、存在しない記憶(呪術廻戦)、ブレインダンス(サイバーパンク:エッジランナーズ)、疑似体験(GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊)など挙げればキリが無いほど、よく見られる空想ではある。
本作では《ムビオラ》によって現実の自分と映画の主人公との区別が付かなくなった人間の末路を描く。「映画で人生を豊かに」するのではなく、「映画を人生に」することで、豊かさを手に入れるのだ。
何より、この空想を映画と結びつけたことが本作のSF小説としての懐を十分なものにした。2023年を振り返って映画界の大きな事件と言えば、AI脚本とAI俳優の利用を巡ってハリウッドの脚本家と俳優たちが約半年のストライキを起こしたことは記憶に新しい。
そう、映画の主人公を自分に置き換えることは技術的に可能である。ディープフェイクだ。我々は映画やテレビ、YouTubeに登場する人物がAIによって作られた顔かどうかの判別が出来ない。もし、この顔が自分なら?
俳優を知らない人にとって、自分が映画の登場人物になり得るかもしれない。《ムビオラ》は開発されていないけれど、届きそうな未来をファスト映画を補助線にして想像させてくれる。実に良いSF読書体験だった。
2023年の配信を振り返って
以上が2023年のオススメ作品でした。私がオススメしなくても世間に発見されている作品も多く、読書実況後に書籍化した作品も多くあります。『隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-』(黒頭白尾)や『『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~』(サンボン)は、まあ、書籍化するよねって感じです。こういう作品が私の目指す所でもあります。来年こそ書籍化するぞ!(1年ぶり17回目)
ここに挙げきれていない作品でも記憶に残っているものがいくつかございます。作品そのものだけでなく、その経緯も含めて応援したい作品です。
たとえば、『神父様は魔法使い』(キリン)は作者の上達ぶりをリスナー全員で見守ってきた経緯があって、そういう内情を抜きにしても面白いと太鼓判を押せる作品です。人が努力で上達していく様子を見るのは、ある種の感動がありました。
筆者が好きなものは作者の好きをブチ込んだ作品です。言語化できてなくて人にオススメしづらいんですけど、とにかく良いんですよ(語彙力)!
『元弓兵は帰れない。』(田上祐司)、『月光を射る。』(譚月 遊生季)、『Cafe hakuu』(φως(フォス))、『ヒュージフィッシュ・バスターズ~光る海のオルカ~』(岩手大好丸)は読んでて作者がこれ好きなんだろうなぁっていうのが透けて見えます(思い込み)。ほんと、そういう作品すこ……。
筆者の読書傾向に変化があったのか、同性愛を題材にした作品が増えました。同性愛作品は別に好んで読むことはなかったんですが、『電子メイドの体温と心の所在について』(佐熊カズサ)、『女子高生大爆破計画』(ドン・ブレイザー)、『狂依存』(橘スミレ)など、面白い作品に出会えました。Dom/Subユニバースとか初めて知りましたよ。癖は根が深いですね。
作者でいうとかわうそうーたんさんが一人で4作ノミネートしています。こういう所さすがだと思うし、作者読みをすることで各作品の挑戦した部分が分かるんですよね。そういう意味で『真紅の貴婦人』は完璧でした。マジで作家の挑戦的な作品はリスペクトっす。
さて、2022年のBESTでは10作を選びました。この選出には配信を盛り上げてくれた要素もあり、作品単体での評価ではありません。今回の2023年BESTは純粋に面白いと思った作品のピックアップです。ノミネート38作もまた同じ基準で、筆者の評価を反映しています。
読書実況という企画を2019年に始めて5年目となった2023年は、全部でちょうど600作の応募がありました。この応募総数600という数字は過去最高です。2020年は540作、2021年は483作、2022年は100作と年々数を減らしていた企画でしたが、ぐっとここで数を増やした形となります。
2024年について
2024年は活動量を緩めます。
毎日配信は続けるけど、1日2作じゃなくて1作で、30分~1時間で終わるみたいな短い配信をしようと考えています。
配信とは別の時間帯でTwitterスペースも使っていく予定です。
一緒に作品を読んでくれたリスナーの皆さん、ありがとうございました。
それでは来年もよろしくお願いします。