2月10日ごろ『いま、子育てどうする?(仮)』刊行記念!一部記事をnote限定先行公開!
彩流社では2月10日ごろ『いま、子育てどうする?(仮)』を発売します。
本書はベネッセコーポレーション「サンキュ!編集部制作スマホアプリ「totonou」にてPV週間ランキング1位(2020年6月)を獲得した「休校でずーっと家にいる子どもに、親が今できること」の待望の書籍化です!発売を記念してnote限定で一部を先行公開します!
専門がドイツ教育思想、実践的身体教育論、子どもと保育のメディア論であり、3人の男の子の父親でもある弘田 陽介さんにフリーライターの棚澤 明子さんが、新型コロナウィルス、気候変動による未曾有の災害、急速なAI化などなど社会のあり方やコミュニケーションが激変する中でふさわしい学び、育ちのカタチを聞きます。
マニュアルではなく未知の世界を一緒に悩みながら育っていくためのヒント集!
今回は第1章の②を先行で公開!新型コロナウィルスで、子育てで大変な想いをされている人に届いてほしいです!
第1章②“ネガティブでもポジティブでもない「ニュートラル」を”
【棚澤 明子さん(以下、棚澤)】新型コロナウイルスの流行による自粛期間中、「ネガティブな自分から脱してポジティブになる方法」といった記事が連日ネットメディアを賑わせています。それだけ非常時になると人はネガティブに傾きがちなのでしょう。そもそも、ネガティブなのは悪いことなのでしょうか? 「ネガティブ=悪、ポジティブ=善」と子どもに教えるのは、どこか違和感があるのですが……。
【弘田 陽介さん(以下、弘田)】 「ネガティブ=悪」という空気は根強いですね。僕は「ネガティブか、ポジティブか?」ではなく、自分にとっての「ニュートラル」がどんな精神状態なのかを把握しておくことが大切だと思っています。そして、自分がネガティブな状態にあると感じたら、その感情がニュートラルからどのくらいかけ離れているのか、その程度を把握することも大切だと思っています。
人は、ある一定の振れ幅のなかで揺れ動きながら生きているもの。ネガティブなときがあるのは当たり前です。そんな自分を否定して「ポジティブであらねば!」と思わなくても、「ああ、いま自分はニュートラルからこれくらい離れたところにいるのだな」と自分の状態をそのまま受け止められればそれで十分です。レジリエンス(ダメージを受けた後に再び立ち上がる力)も、まずは自分を受け止めるところから生まれますから。
【棚澤】個人的にはポジティブでいることにあまりこだわりはなく、非常事態下でも出来る限り親子ともにニュートラルな状態を保ちたいと思うのですが、人はネガティブとポジティブのどちらかに傾きがちではありませんか?
【弘田】第1章❶で「脳には刺激を求める性質があるので、気持ちがわっと上がる経験をすると、それを上回る感情の振れ幅を求めて同じ行動を繰り返し、そこから行動や思考のパターンができあがってしまう」というお話をしましたよね。たとえば「自分はネガティブ思考だ」という方は、ちょっと考えてみてください。「いつも物事を悪い方へと受け取る思考のパターン」にとらわれていませんか? 「ネガティブ思考は悪いことだ、改善しなければいけない」とそこに意識をフォーカスしてしまうことも、その思考回路を強化することにつながってしまいます。感情を手放してしまえればよいのですが、それも難しいことですよね。
それならいっそのこと、感情を「ポジティブ」、「ネガティブ」と名付けて二分することをやめたらどうでしょう? よくメディアで「ネガティブな言い回しをポジティブな言い回しに変えよう」などという提案を目にしますが、言葉尻を変えただけで自分自身の根本が変わらなければ、結果的に心と行動がちぐはぐになるだけです。ポジティブなのかネガティブなのかという二者択一的な考え方そのものをやめて、いまの状態をそのまま受け止めてみてください。
この「ポジティブなのか、ネガティブなのか」という二択にとらわれていると、たとえば人間関係の問題はおおよそ「相手が悪い/自分はよい」か「自分が悪い/相手はよい」ということになります。でも、現実問題として、人間関係はそんなに単純化できませんよね? つまり、あらかじめ設定した「よい/悪い」という区分からいったん離れなければ、現実すら見えてこないということです。
心の状態も簡単にカテゴライズできるものではなく、マーブル模様のようにさまざまな感情が入り交じっているもの。ばっさりと二分して一喜一憂することよりも、少しずつ自分のよさを見つけたり、ありのままの自分とよい関わり方をしてくれる人を見つけたりしていくことの方がずっと建設的です。
ストレスという言葉も似ていますね。言葉には物事を二項対立にする性質があるので、自分のなかにあるモヤモヤを「ストレス」と名付けた瞬間に「ストレス解消」とか「ストレスフリー」という言葉が出てきます。「ストレス」ということを意識すると、すべてが「ストレスの元か、そうでないか」という世界になってしまうのですね。
「なぜ私はうまくストレス解消ができないのだろう」と皆さんよく悩みますが、そもそも生きている以上は完全にストレスフリーな状態などあり得ません。体調に悪影響を及ぼすほどのストレスであれば対処が必要ですが、「こういうこともあるよね」という程度で済ませることのできるモヤモヤなのであれば、いわゆる「ストレス解消」に躍起にならず、そのまま受け止めておけばよいのです。どうしても消え去ってくれないモヤモヤは、ストレスと名付けたことによって心に定着してしまったのものかもしれません。一度名付けた名前を手放すようなやわらかい物事の見方ができると、少しはラクになることもありますよ。
親の過剰反応が子どもの感情をコントロールする
【棚澤】たしかに、感情に名前をつけることで自分を縛っていることはありますね。「ネガティブか、ポジティブか?」「ストレスフルか、ストレスフリーか」と二分することをやめれば、より丁寧に自分自身を見るようになれそうです。ちなみに子どもがネガティブな言動をするときには、どのように接していけばよいでしょうか?
【弘田】子どもたちも、非常時にはあれこれと想像をめぐらせた末に不安に陥ったり、混乱したりすることはあるでしょう。そんなときには、親が同調してその感情を増幅させないことが大切です。一緒になって騒ぎ立てたり落ち込んだりしてしまうと子どもの感情は増幅し、さらなる刺激を求めてネガティブな思考回路を強化してしまいます。「なるほどね、そんなふうに感じているのね」と耳を傾け、「対策もとってあるし、大人もたくさんいるから大丈夫だよ」と落ち着かせてあげればそれで十分です。
これは、子ども同士でトラブルが起きたときも同じです。「相手の○○くんはひどいわね!」などと過剰な反応を示せば、子どもの感情を増幅させるだけでなく、感情の方向性までコントロールすることになります。それよりも、上がってしまった怒りの感情を下げるような声かけをする方がいいですね。「いろんな人がいるよね」「いろんな感じ方があるよね」と、受け取り方にも幅があることを穏やかに示してあげることが、子どもののびやかな成長につながっていきます。
ちなみに、中島みゆきの『蕎麦屋』はいいことをいってくれていますよ。「あのね、わかんない奴もいるさって」。僕は、何かあるとこの歌を頭の中で流すようにしています(笑)。
『いま、子育てどうする?(仮) 感染症・災害・AIと生き抜くヒント集35』
弘田 陽介 話し手, 棚澤 明子 聞き手 定価:1,600円 + 税
著者紹介
弘田 陽介(ヒロタヨウスケ)
ひろたようすけ
1974年生。福山市立大学教育学部准教授。
専門はドイツ教育思想、実践的身体教育論、子どもと保育のメディア論。
3人の男の子の父親。
著書に
『近代の擬態/擬態の近代 カントというテクスト・身体・人間』
(2007年、東京大学出版会)、
『電車が好きな子はかしこくなる 鉄道で育児・教育のすすめ
交通新聞社新書』(2017年、交通新聞社)、
『子どもはなぜ電車が好きなのか 鉄道好きの教育〈鉄〉学』
(2011年、冬弓舎)等がある。
棚澤 明子(タナザワアキコ)
たなざわ・あきこ
1973年、神奈川県生まれ。
映画配給会社、フランス語・フランス料理スクール勤務、
フランス語翻訳者を経てフリーライターに。
著書に
『子鉄&ママ鉄の電車ウオッチングガイド・東京版』
(2009年、枻出版社)、
『子鉄&ママ鉄の電車お出かけガイド・関東版』
(2011年、枻出版社)、
『子鉄&ママ鉄の電車を見よう!電車に乗ろう!』
(2016年、プレジデント社)、
『福島のお母さん、聞かせて、その小さな声を』
(2016年、彩流社)
『福島のお母さん、いま、希望は見えますか?』
(2019年、彩流社)
がある。
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