ひとりぼっちになりたかった夜。

娘が生まれてからというもの、私は夜に一人で出かけるなんてことはほぼ無くなった。

正確にいえば、1、2回はあったと思うけど、それもほんの少しの時間で遊んできたといえるほどのものではなかった。

逆に夫は、子どもが生まれる前から今も、毎週2回決まって趣味のバレーに行くし、それ以外でも釣りだポケモンだと昼夜関係なく出かける。

それは別に悪いと思わないし、私も毎回快く送り出す。

けれど最近、娘のイヤイヤ期もあって、今まで以上に日々のストレスを感じるようになった。

週に何度も娘と二人きりの時間があり、このままでは娘のことを嫌いになってしまいそう…

限界が来る前に夫にそう話した。

そして、私もたまに出かけてもいいかな、特別やりたいことがあるわけじゃないんだけど。

そう聞くと、夫は二つ返事で了解してくれた。

それを断るような人ではない、わかっているけど自分のお願い事ってしにくいものだ。

そんないきさつがあって、平日の夜に一人ふらりと車を走らせた。

いざこうなってみると、一体何をしたらいいのか少し迷う。

たまにしかない貴重な時間だからと、無駄にしないようベストな答えを探すも、しっくりくるものは見当たらない。

お給料が入って、今ならなんでも買えるぞ!とお店に行ったのに欲しいものが見つからないあの感覚と似てる。

お金が無いときほど欲しいものは山ほどでてくる。

それでも、すぐに目的地は決まった。

遅くまで空いている喫茶店に行って、雑誌でも読みながらクリームのたっぷり乗ったアイスコーヒーを飲もう。

そう決めてまっすぐ喫茶店に向かった。

しかし、到着するや否や、なんだか嫌な予感がして入り口の張り紙を見た。

"新型ウイルスの影響により当面の間、営業時間を短縮いたします。"

時計を見ると、閉店まであと30分に迫っていた。

一人だし、30分も居れば十分かもしれない。

でも、閉店がわかっていて居座る30分と、ゆっくりして気がついたら過ぎていた30分とは全然違う。

どこにぶつけようも無い憤りを感じながら再度車を走らせ、別のカフェに向かった。

今度は早く閉店したりしないだろうな、少しの不安を抱きながら店に入ると、店員さんが快く挨拶してくれた。

念願のクリームの乗ったコーヒーを注文し、出来上がるまでにスマホでこっそり営業時間を調べる。

よし、あと3時間もある。

特別な張り紙もない。

こんな時期に遅くまで営業してくれてありがとう。

心の中で安堵しつつ、いたって冷静な態度でコーヒーを受け取り席につく。

特別なにもしないが、心ゆくまでスマホをいじってみる。

いつもは娘の相手をしながら隙を見てちょこちょこと見るので、不完全燃焼している。

今はいくらでも見ていい。誰も邪魔しない。

けれど、いくら見ても心が満たされる内容のものは見つからない。

あれ、私いつも何を探してたんだっけ。

調べたいことを無理やり捻出して探してみたり、それでも私の満足のいくものには出会えない。

ちょうどその時、夫から娘の動画が届いた。

パパと二人楽しそうに遊ぶ娘の姿。

一人になりたいと言ったのは私なのに、もう娘に会いたくなった。



コーヒーをゆっくりゆっくり飲み、結局、30分ほど滞在して店を出た。


近くのスーパーに寄って、半額になった惣菜パンを買った。

夫が好きな照り焼きチキンのピザと、娘が好きなドーナツ。

そして私が好きな塩バターパン。

家族の好きなものが一つずつ売れ残っているなんて偶然だろうか。

明日の朝、これを出したらきっと、娘は目を丸くして喜ぶだろう。

そう考えるとワクワクが止まらない。

過ごしやすくなった秋の夜に、不思議な胸の高鳴りと爽やかな風が通り抜けた。

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