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クロマトグラフィー(大学入試編)

化学基礎の教科書では最初の方に書いてあるのが、物質の分離法についてです。最初に習うときはまだ物質に馴染みがないのであまりちゃんと理解できなくて大丈夫です。ある程度他の単元をやってからまた学び直せば良いので、とりあえず最初の時点では「世の中の物質は混合物は多いけれども、化学では(理論面でも実験面でも)分離して純物質として考える・扱う方がラクなので今後は混合物を分離したものとする」というメッセージが伝われば良いと思います。

クロマトグラフィーとは?

クロマトグラフィーは物質の分離法の一つです。ただ、大学入試では他の分離法の方が出題されやすい印象です。

※ 分離法の詳細(名称:  〜の違いを利用)
 ろ過: 粒の大きさ
 蒸留: 沸点
 分留(分液蒸留) : 沸点 (多成分;液体のみ)
 再結晶: 溶解度の温度変化
 昇華法: 昇華(固→気)性の有無
 抽出: 溶媒への溶解性
 クロマトグラフィー: 親和性(吸着力)

教科書にはもっと細かく書いてあるため、それぞれの分離操作の際の注意点が出題されることもあります。単にどの分離法を使えば良いのかを判断したい場合は、簡単な判別方法があります(授業で扱う)。

しかし、大学以降クロマトグラフィーはかなり登場します。

まず、そもそも種類が多いです。試料を移動相と呼ばれる物質に流し, 固定相と呼ばれる物質と移動相中の物質との二相間の相互作用の程度が試料の各成分によって異なることを利用して成分を分離するのがクロマトフィーですが、移動相の状態によってガスクロマトグラフィー、液体クロマ トグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィーなどに分類できます。さらにその中でも薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相・逆相クロマトグラフィー(固定相の違い)など種類が数多あります。

この辺の内容は大学内容の分析化学の教科書やクロマトグラフィーの専門書・知識人の呟きで詳しいことが学べるのがここでは割愛します。

さらに、これは分析化学のみで使われる話ではなく、有機化学・生化学など幅広く使われています。
例えば有機化学では反応の進行を確認・追跡する簡便な方法としてTLCがよく使われています。要するに、ちゃんと反応したかどうか目で見てわからないときにTLCで確認して、まだ反応しきっていない場合はもうちょっと加熱したり、もう全部反応してそうなときは参考文献に書いてある加熱時間より短くても反応を切り上げたりするのに役に立つということです。
生化学(あるいは医療)ではHPLCを利用した分析・検査をすることがあります。

このようなわけで、クロマトグラフィーは大学受験においては重要視されていないけれども大学以降では大切な方法なのですが、難関校などでは発展問題として出題されることがあるので今回はそのような問題をいくつか紹介します。

共通テスト化学2021(第二日程)第1問問4

(答えは③)
(答えは⑤)

実は共通テストでも出題されています。もっとも、共通テストなので知識としてこれをおさえないといけないということはなくて読み取って考えられれば良いです。よく出てくるTLC(この後登場する問題もTLCの話です)においては、問題文で書かれているように「適切な溶媒を選択すると」「シリカゲル(固定相)への吸着のしやすさの違いにより、混合物を分離」します。+αで、「シリカゲルは-OHを持っている(順相)」「シリカゲルに吸着→溶媒があっても移動しにくい→スポットは下の方(逆にスポットの上の方はシリカゲルに吸着しにくい)」あたりが考えられると良いです。
TLCは有機化学の学生実験でよくやりました(私は「適切な溶媒の選択(比率など含めて)」を見つけるのが面倒と思っていました)が、なかなかこの問題自体は一般的には難しかったかもしれません。

2023年東京医科歯科大

(もう10月からはこの名前の大学ではなくなります)

先述の+αの事項を意識できればある程度できるかなと思います。東京医科歯科大の題材は(高校内容から逸脱するものもあり難しいかもしれませんが)高校ではやらない生命科学の研究・医療の現場の話題を高校化学の問題として落とし込んでいる点で知的好奇心のある人にとっては面白いと思います(他にも医療用ガス、ペニシリン、クリックケミストリー、ドーピングなどの話題があるので興味ある方は是非医科歯科の問題も見てください)。

参考:分析化学の勉強について

化学・生命科学の研究をすると, 様々な化学分析・バイオ分析の手法について調べ学ぶ必要性に迫られます。私自身は画期的な分析法を学ぶたびに, 「新たにこのような分析法を考え付くのすごい!」という感想を抱きます。分析法を学ぶ側, 実際に使う側としては一見すると無味乾燥に思えるかもしれないが, 開発した側に立ってどのような背景で開発され, 開発途中どのような試練があったのかを想像すると, 分析法の学習が捗どりました。
具体的には, PCR 法を発明した マリスや, MALDI の開発(田中耕一), PALM の開発(ベツィグ), クライオ電顕の開発, ファージディスプレイ法の発明でノーベル賞化学賞を受賞されており, 化学の発展に 貢献したとして功績を与えられています。また, 次世代シーケンサーで有名なイルミナのように, 優れた分析法の開発は社会に貢献するテクノロジーの創出であり, かつビジネスチャンスにもなるので, 新たな分析法・分析機器の開発は憧れですね。
今回のクロマトグラフィーに関しても開発の歴史を知って勉強するようにした結果, 分析法自体も詳しく調べるようになったと思います。最初は 1903 年に植物学者のツウェットが色素分離の方法として考案し, その重要性はしばらく顧みられませんでしたが, 1940 年代になってこの分析法 の優位性が注目され, 1952 年に分配クロマトグラフィーの開発によってマーティン・ シングがノーベル化学賞を受賞しています。ガスクロマトグラフィーも 1952 年にそのマーティンが論文を発表後, 3 年して市販の装置が販売されました。TLC に関しては学生実験 (有機化学)で用いてきた分析ですが, 1956 年の出現です。さらに, もっぱらバイオの方で名が知られている HPLC に関しては 1970 年代の出現です。原理はクロマトグラフィーはむしろシンプルな方法であることが魅力的ですが, このような開発の歴史があるのは興味深いです。特に, テクノロジーは刷新されていて新しい技術に置き換えられることが多いですが, このクロマトグラフィーの分離の原理は基礎として長らく残存しているので, 古来の分析法を学ぶことにも意義があると考えます。


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