見出し画像

夜汽車

佐佐木政治  1956年10月2日 ノート「詩集 青い枯れ葉」より

画像2

どこかへ行くような気がして 
私は橋を渡ると 雨の中に明滅する街の灯をみた
しばらくは息もつけないほど
谷間から吹き上げてくる風に 考えを失った
あの遠い高台の向うの空からやってくる時間
それは汽笛や光にさえぎられた恋のように
赤くひっそりと足許の水影におちている

遠い旅をしなければならないと思うのだけれど
私は私を失った気がして
もうちらばった灯を集めようともせず
私が背のびをして手すりにつかまり
向うを眺めようとすると
折から乳飲児のように
夜汽車の灯にみとれるのだった

画像1

昭和31年、当時25歳の文学青年が書いた詩です。
A5サイズの大学ノートはすっかり色褪せ、日に焼けています。
彼の文字とともに紹介していきます。

いいなと思ったら応援しよう!

彩美 saimi
亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。