さみだれとビール 1
ようやく雨が上がった。
ベランダから外を眺めると、セミたちの準備体操が聞こえた。
今日は祝日で、仕事も休み。昨日の仕事帰り、スーツがずぶぬれになる程の豪雨がまるで嘘のように、入道雲がこちらを見下ろしていた。
さて、と俺は部屋を見回す。9時過ぎまで爆睡した体の調子は良く、なんとなく部屋の片づけなんかを始めたりして、ここ1か月で一番きれいな部屋になっていた。
このまま2度寝に入るのもまたよし、ネット動画で、見ずに溜まっていたドラマや映画を消化するもよし、はて、何をしようか。と様々なプランが脳裏をよぎっては消えていく。どれも「何か」決定打に欠けているのだ。
「うーん……」
どれも確かに「やりたい事」ではあるのに、こうも食指が動かない。某探偵のように、右手は髪の毛をバリバリと掻きだしていた。
とりあえず、ぼんやりと部屋に突っ立っているのも可笑しい図なので、なんとなく台所に向かって歩み出した。何か見たら、また気分も変わるだろう。そう思いながら、先ほど徹底的に掃除した台所に立つ。うん、こうしてみるとまた改めて清々しく感じる。
と、視界の端に見慣れないカラーリングが入り、そちらに視線を移す。
「ああ、そういやこれ、忘れてた」
カチャン、と持ち上げたソレは、先日あった会社の暑気払いで、ビンゴゲームで俺が当てた景品のビールセットだった。
クラフトビールの飲み合わせセットで、凝ったラベルの缶ビールが4本セットになっている。なんでも、美味いと有名なところのビールだそうで、呑兵衛の先輩が心底うらやましそうな目で、こちらをにらんでいたのを思い出す。
「……そうだ」
ビールを眺めていたら、良い事を思い付いた。
「昼から、飲むか」
(続)