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ゲームモデル(育成モデル)開発 -UPDATED:2020.6.29-

 ONESでは、2020年度を皮切りにバレーボールの育成カテゴリにおけるゲームモデル(以下、育成モデル)を開発するための取り組みを開始しました。

本記事では、育成モデル開発にかかるプロセスやONESにおける実践例を紹介していきたいと思います。

まず、本記事の最大の特徴をお伝えするとすれば「最終的な結論が見えていない」という点です。

最終的にどのような育成モデルが形作られるのかまったく分からない。そんな手探りの中で、日本のバレーボール界の育成カテゴリを下支えするような育成モデルの開発を目指し、試行錯誤するプロセスを記録していこうと思っています。

・時代を超えた普遍性のある育成モデルがあるとすれば一体それは何か。
・時代とともに変化していく要素があるとすれば何か。
・そして、それを育成モデルに落とし込むにはどうするのか。
・仮説による育成モデルを元に、実際にコーチングをしてみると何が見えてくるのか。

こうした育成モデル開発プロセスの中で出てくる思考や実践、実践から得た経験や知識。こうしたものをオープンにしていくことができればと思っています。

そして、本章に入る前に一言だけ。

本記事の内容は多くが仮説であり、また発展途上の思考や実践であることをご理解ください。人口4,000人にも満たない小さな町クラブの小さな取り組みが未来のバレーボール界の発展に少しでも役立つことを願ってやみません。

1.ONESの使命・価値・展望

育成モデルについて書いていく前段階としてまずは、簡単にONESというクラブが何を目指して活動をしているのかご紹介したいと思います。

ミッション(使命)

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ONESのミッションは上記の通りです。ONESの展開する事業にはバレーボールのクラブ運営以外にも様々ありますが、全ての事業は一貫してこのミッションを果たすための手段として位置付けられます。

展望

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そして、ONESの取り組みでは常に上記3つのビジョン(展望)を持っています。日々の活動の中で近視眼的になることのないよう、これら3つをキーコンセプトとして胸に刻み込み、日々活動しています。

価値

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最後に、ONESが事業を通じて提供したいと考えるバリュー(価値)が上記の3つです。これらの価値はビジョン(展望)と強く結びついています。

・大好きになるためには楽しい時間が必要。
・自信を持つためには挑戦が必要。
・新しい世界を切り開いていくためには新しい出会いが必要。

こうした考えに基づいて、ONESの存在価値が何かを考えています。

さて、ここまででONESが何を目指して日々活動しているのかを知っていただくことができたのではないかと思います。次の章からは、バレーボールの育成カテゴリにおけるゲームモデル(育成モデル)の開発の話に入っていきたいと思います。

2.なぜ、育成モデルが必要なのか。

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早速、育成モデルについて具体的に話を進めていきたいところではありますが、本章では「今なぜ、育成モデルが必要なのか」という部分をクリアにしていきたいと思います。

この問いに対するONESの考えは次の通りです。

日本において長期的視点からの育成原則や育成モデルが全体に共有されていないと考えるからです。普遍性のある育成原則や育成モデルを開発することができれば、育成カテゴリの抱える様々な課題を解決する一助になるのではないかと思ったのです。

3.育成カテゴリの現状と課題を紐解く

育成原則・育成モデル開発の必要性を理解するためには、まずは世界的にも希有とも言える日本特有の育成カテゴリの現状と課題をよく理解する必要があります。そこで、ここからは現状と課題を整理していきたいと思います。

3-1.『スポーツ少年団』と『部活動』というヴォランティア活動

これまで日本のバレーボール界の育成を担ってきたものは何かという問いに対する答えは一言で言うと、スポーツ少年団部活動と言えるのではないでしょうか。

小学生カテゴリ(12歳以下):スポーツ少年団
中学生カテゴリ(15歳以下):部活動
高校生カテゴリ(18歳以下):部活動

※育成カテゴリの定義も人によって様々だとは思いますが、本記事では高校生まで(18歳以下)を育成カテゴリと呼びたいと思います。

まず、小学生カテゴリを下支えしてきたのがスポーツ少年団であることに間違いありません。スポーツ少年団は日本最大のスポーツ団体であり、多くの地域に様々な種類の団体が存在しています。そして、スポーツ少年団の最大の特長は地域のヴォランティアによって運営されているという点だと言えます。地域のスポーツ愛好家や小学校教員がコーチの役割を担っていたり、団体の運営をプレーヤーの父母が中心に担っていたりといったことが一般的です。

次に、中学生カテゴリと高校生カテゴリに話を移していきましょう。中・高学生カテゴリを下支えしてきたのははっきりと部活動であると断言してもよいと思います。今でこそ、地域やスポーツ競技によってはスポーツクラブが立ち上がり、その存在感を示し始めていますが現在においてもやはり主流は部活動だと言えます。部活動の最大の特徴は学校教育の一環であるという点だと思います。学校の教員が顧問(コーチ)として指導をします。あくまで学校教育活動の中にスポーツ活動が包括されている。スポーツは教育という目的を達成するための手段であるという位置付けです。

そして、すべてのカテゴリに共通している特徴として、スポーツ活動(ここでは、コーチから指導を受けて継続的にスポーツに親しむことを指す)自体は基本的に無償であるという点です。地域差などはもちろんありますが、日本の育成カテゴリにおいては、参加する意思があればスポーツ活動に気軽に参加できることが当たり前であるという贅沢な環境が整っています。そして、こうした環境は多くの人々の献身的なヴォランティア精神によってこれまで下支えされてきたと言っても過言ではありません。

しかし、活動がヴォランティアベースで行われているという点に課題もあります。特に、子どもたちに強い影響力を持っている指導者のクオリティという面では多くの課題があると言えます。

小学生カテゴリで言えば、その指導者は主な仕事をしながら仕事後の時間や休日を使って指導をしていることが多いでしょう。そのため、指導のための研修に参加したり、勉強したりするためにかかるコスト(金銭的負担・時間)も限定的にならざるを得ないと言えます。そうなるとプレー経験がある指導者は「それ」に頼らざるを得ないでしょうし、プレー経験をもたないままに指導をする指導者はそうした拠り所さえありません。

また、中・高校生カテゴリについてはどうでしょうか。このカテゴリについては学校間で課題感に違いがあるように思います。全くのプレー経験や知識がないままに部活動の顧問を任されるという指導者もいれば、実業団でのプレー経験を有するような指導者も存在しています。また、教科指導や進学指導に多忙で放課後ほとんど部活動の指導に関わる時間がないという指導者がいる一方で、部活動での結果を残すことを学校側から強く求められており、多くの時間を指導のために費やすことができる指導者がいるのも事実です。

スポーツ活動に気軽に参加できるという贅沢な環境が整っているという反面、指導者のクオリティが全体として担保されていないという課題があると言えます。さらに充実した育成環境を目指していくには、全国どこにいっても一定以上のクオリティを満たす指導を受けられるような仕組みづくりが必要になってくるでしょう。

3-2.『対戦方式』と『大会運営』と『スポーツ推薦』というシステム

日本の育成カテゴリにおける環境について語る上で外せないものとして挙げられるのが、その対戦方式であり、大会運営であり、そこでの勝敗が進路に大きな影響を与えているという点です。

『対戦方式』

まずは、対戦方式についてです。対戦方式を大きく分けると『トーナメント戦』と『リーグ戦』があると思います。

トーナメント戦:勝ち抜き戦を指す。一騎打ち。言葉の語源は中世の騎士が行ったとされる「馬上槍試合」にある。

リーグ戦:チーム同士がそれぞれに対戦を繰り返し、対戦結果の総合成績によって順位を決定。「連盟・同盟・連合」といった意味の英語。

参考記事:『リーグ』と『トーナメント』の本質を探る

学生時代にスポーツをしていた人なら実感として分かると思いますが、日本の育成カテゴリの主流の対戦方式はトーナメント戦です。大きな試合になるとブロック分けしたグループリーグをした後に、上位チームでトーナメント戦をするということもありますが、ベースにあるのはあくまでトーナメント戦であると言えるでしょう。

トーナメント戦は、その語源からも分かるようにまさに一騎打ちです。一度の負けが致命傷となってしまいます。負けてはいけない。言い換えれば勝つことの重要性が過度に強調されるという側面があることは否めません。そのため、気をつけていなければ勝利至上主義に偏重していくという危険性があるとも言えます。

参考記事:育成カテゴリにおける勝利至上主義を考える

しかし、トーナメント戦を多く経験する中で、勝負強さを獲得したり、明確な目標に向かって計画的に努力する能力をプレーヤーが身につけるといったポジティブな側面も同時にあると考えられます。

それでは、リーグ戦とはどのようなものなのでしょうか。リーグ戦の特徴をトーナメント戦との比較の上で語るなら、チームの総合力を競い合う長期戦と言えるのではないでしょうか。

トーナメント戦であれば、一発勝負となるため奇策や奇襲をしかけたり、特定のレギュラーメンバーだけで戦ったりすることで格上のチームにも勝つことができるかもしれません。

しかし、リーグ戦の場合は定期的に試合があり一度だけ試合に勝てばよいというものでありません。そのため、レギュラーメンバーのみで長丁場を戦い抜くということは現実的に難しく、リーグ期間を通じてチームメンバー全員で戦い抜かなければなりません。育成の観点から言うと、多くのプレーヤーが試合に出る機会を得ることができ、ゲーム経験をたくさん積むことができるとも言えます。

また、リーグ戦の特長として負けても次の試合があるという点が挙げられます。育成という観点からすると、どのチームも同じだけ試合経験を積んでいけるため、全体として見たときに多くのプレーヤーの成長を促進することが可能となります。


トーナメント戦とリーグ戦。どちらの対戦方式がより育成カテゴリにフィットするのか。


この問いに対する答えは明らかです。ただ、すべてをリーグ戦にすべきという話ではなく、対戦方式のベースをどこにもっていくのかという議論ができればいいのではないかと思っています。

『大会運営』

次に、大会運営についてです。世界的に見ても日本では全国大会という大規模な大会(祭典?)がどのカテゴリにおいても盛大に、そしてカテゴリによっては年に数回開催されます。

全国大会とは、要は日本一のチームを決めようという祭典だと言えると思います。

私の個人的な感覚からですが、日本人は島国であることや単一民族国家であることから日本一になることに対して、とても価値を感じる傾向にあるように思います。

そのため、全国大会が年に1回もしくは数回あることで、日本一を決める大会に出場する(県代表になる)ことや優勝することに対する価値が極めて高くなり、やはり先にも述べた通り勝利至上主義を加速化させるという状況を生んでいるとも言えるのかもしれません。

ただその反面、日本一になるため、全国大会に出場するため、各チームが切磋琢磨して競技力を高めているという事実も決して見過ごすことはできないでしょう。

行き過ぎた勝利至上主義の加速化。各チームの切磋琢磨による競技力向上。

両者はトレード・オフの関係にあるようにも見えますが、今一度、育成カテゴリにおける全国大会の存在意義が何かを問うべき時期がきているのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年度の全国総合体育大会の中止が決定しました。中・高校生の現役プレーヤーにとっては非常に辛い事実であることに違いありませんが、今がその存在意義について問うタイミングなのだと思います。

『スポーツ推薦』

最後に進路についてです。一言で言うと、大きな大会での結果がその後の進路(進学や就職)を決める上での決定的要因になるということです。これも繰り返しにはなってしまいますが、行き過ぎた勝利至上主義をさらに加速化させることに繋がります。

大会での成績を残すことさえできればよいという思考にも陥りやすく、部活動以外の勉学やその他の活動に対する取り組みが疎かになってしまうといったことも想定されます。

また、部活動の目的が大会での成績を残すことになってしまうと、プレーヤーの長期的な成長という視点を完全に欠いてしまった指導が横行することにも繋がりかねません。例えば、中学生カテゴリでいうと、その活動期間は約2年と数ヶ月になります。その期間中実施される大会で成績を残そうとする指導と、5年・10年先の未来を見据えた指導とではその内容に大きな差が出てしまうことでしょう。

プレーヤーの将来を見据えた長期的な育成という観点からすると、部活動での成績が進路に直結してしまうというシステムには問題があるように思います。

部活動での頑張りとその結果(大会成績)が人生を左右する進路決定に大きな影響を与えるシステムを鼻から否定するつもりはありませんが、今一度議論すべき点なのではないでしょうか。

4.育成カテゴリにおけるゲーム・モデルを開発する

さて、ここまで育成カテゴリの現状と課題について整理しながら、私なりの考えを書いてきました。ご覧の通り、育成カテゴリの抱える課題は極めて多岐にわたり、かつ複雑であり、一筋縄に解決できるものではないということが分かります。

しかし、小さな町クラブの一人のコーチにもできることは何かないのだろうかと考えた結果、ある一つの結論に至りました。

それが育成カテゴリ横断型の長期的視点からの育成原則や育成モデルを開発するというものだったのです


『何を馬鹿なことを言っているんだ!そんなことを小さな町クラブの一コーチにできるわけないだろう!』


こんな声が聞こえてきそうです。こう思った方は正しいです。私もそう思います。

ただ、

『育成原則はこうです。育成モデルはこうです。完成しました!みなさんぜひ使って指導に役立ててください!』

こんなふうには1ミリも考えていません。ただ、現在の日本のバレーボール界の育成の在り方を変えていきたいという気持ちがあることは間違いありません。自分なりに育成カテゴリがどのようにあるべきかを考えて、自分なりの考えをオープンにしていくべきだと考えています。

また、私には育成の現場に現在進行形で関わることができるという極めて恵まれた環境があります。仮説となる育成モデルを立てながら、現場で実践して修正を加えるという試行錯誤プロセスを回すことができます。

「今」ベストだと思う育成モデルをベースにした実践を繰り返す中で色々と新しい学びが出てくると想像しているのです。

5.レイヤーの整理から考えるゲーム(育成)モデル

ここまで書きながらやっと育成モデルについての話をしていくことになります。ここにやって来るまで、大変時間がかかりました。。。

早速、育成モデルについて話を進めていこう。そう思ったのですが、、、

育成モデルとはなんぞやという部分。人によってその捉え方がかなり変わってきそうなワードですので、今一度私の考える育成モデルについて整理をしておこうと思います。

▶︎着想は『戦術的ピリオダイゼーション』と『ゲームモデル』から

そもそも、育成モデルという着想を得たのはサッカー雑誌の「footballsita」という雑誌からといっても過言ではありません。この雑誌に出会うまでにも本当にただ漠然とただなんとなく育成カテゴリの育成の指針になるようなモノがあればいいな〜と思っていました。

しかし、この雑誌で度々紹介されている『戦術的ピリオダイゼーション』というコンセプト、そしてそのコンセプトの中で生み出された『ゲームモデル』という考え方に出会ったことがバレーボール界の育成カテゴリに育成モデルを創っていきたいという想いを確固たるものにしたと言えます。

そこで、私が育成モデルの着想を得た『戦術的ピリオダイゼーション』と『ゲームモデル』について読者の皆様に理解していただきたいと思います「footballsita」のオンライン記事での解説が素晴らしいのでそちらを引用します。

(前略)
フットボールというゲームを「複雑系」と解釈すると、その無秩序な状況に対応する術が必要になる。戦術的ピリオダイゼーションは広範で難解な概念に思われやすいが、シンプルに考えれば複雑系としてフットボールを理解した際に、一体何が必要なのか?」という問いに答えることを目指す理論だ。
(中略)
戦術的ピリオダイゼーション理論の信奉者ジョゼ・モウリーニョは「組織を機能するためには、原則の組み合わせが重要になってくる。つまり、最も重要なのは定義されたゲームモデルを共有することだ」と語る。
(中略)
ゲームモデル自体は、様々な要素が絡み合う複雑なコンセプトだ。戦術的ピリオダイゼーション理論の信奉者は、DATA3のように「主原則」と「準原則(sub-principle)」、「準々原則(sub-sub-principle)」に分割することで、選手の理解を助ける。フラーデは「ゲームモデルは選手にとって『最初に頭に浮かぶもの』でなければならない」と主張している。
(中略)
フラーデが重要視する「思考の自動化」を助けるには、「プレーの標準化」に取り組む必要がある。ゲームモデルに合わせた「プレーの標準化」が可能になれば、チームで方向性を共有した対応が可能になる

参考記事:戦術的ピリオダイゼーション総論。ゲームモデル=「複雑系」への対応

記事の引用から『戦術的ピリオダイゼーション』と『ゲームモデル』に対するイメージを少しは持ってもらえたのではないかと思います。もっと知りたいという方は全記事をお読みいただくことをお勧めします。もっともっと知りたいという方は他にも書籍が多数出ていますのでいくつ気になるものを選んで読んでいただくと良いかと思います。

▶︎ゲームモデル間のレイヤーの違いを整理する

上記で紹介した記事を読んでいただいた方の中には、次のような疑問が生まれたのではないかと想像します。

戦術的ピリオダイゼーション理論におけるゲームモデルと育成カテゴリにおけるゲーム(育成)モデルは同じものなのか。

この疑問に対する答えはレイヤー(階層)の違いを整理することで解消するのではないかと思います。

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それでは、早速下のレイヤーから順番に解説をしていきたいと思います。

●第1レイヤー(バレーボール・ルール)

まず、レイヤーの最下層にやってくるものがバレーボール・ルールと言えるのではないでしょうか。

ある論文に書かれていた表現をお借りすると、

ボールゲームの本質は, 「ルール」によって規定された「技術」と「戦術」を有機的に結びつけて「勝つことの工夫」を楽しむことにある。(引用論文:各種ボールゲームを貫く戦術(攻撃課題)の系統性の追求)

とあります。

「ボールゲーム」を「バレーボール」に置き換えて考えてみると、

バレーボールの本質は, 「ルール」によって規定された「技術」と「戦術」を有機的に結びつけて「勝つことの工夫」を楽しむことにある。

となります。

つまり、バレーボールの本質に立ち返るには、すべてはバレーボール・ルールから始めよということだと言えます。

●第2・3レイヤー(絶対的ゲームモデル・プレー原則)

そして、第1レイヤーの次にくるのが、第2・3レイヤーである「絶対的ゲームモデル」「絶対的プレー原則」となります。ルールが変わらない限りは絶対的なものであるというニュアンスを表現するため、敢えて「絶対的」という表現をしています。

さて、ここで再度上記で紹介した論文の引用部分を見てみたいと思います。注目すべきは『「技術」と「戦術」を有機的に結びつけての部分です。

この部分を『「絶対的プレー原則」と「絶対的ゲームモデル」を有機的に結びつけて』といったように言い換えることができるのではないかと考えています。

バレーボール・ルールを基礎(ベース)にして、「絶対的プレー原則」と「絶対的ゲームモデルが規定される(成り立つ)のだと考えます。

また『有機的に結びつけて』の部分が極めて重要です。「技術」と「戦術」、つまり「絶対的プレー原則」と「絶対的ゲームモデル」を別個のものとして扱い、切り離して考えてしまうと機能しなくなる。無機的とも言える状態に陥ってしまいます。このように、要素還元的アプローチに陥らないようにする必要があります。

参考資料:要素還元的アプローチについて考える

それゆえ、第2・3レイヤーである「絶対的ゲームモデル」と「絶対的プレー原則」を切り離すことのないようにセットで考えていくことが重要です。

またさらに言うと、現時点では図式化する上で、便宜的に第2レイヤーに絶対的ゲームモデルを置き、第3レイヤーに絶対的プレー原則を置いていますが、この部分についてはさらなる熟考・議論が必要だとも感じています。
上記で指摘した通り「絶対的ゲームモデル」と「絶対的プレー原則」は複雑に絡みあった存在であり、切り離して考えること自体がナンセンスであるからです。このゲームモデルとプレー原則の関係性については、読者の方からのご意見やアドバイスがあると大変うれしいです。ぜひコメントください。

●第4・5レイヤー(可変的ゲームモデル・プレー原則)

最後に、最上層のレイヤーにくるのが、第4・5レイヤーとなる「可変的ゲームモデル」「可変的プレー原則」です。「可変的」という表現が意味するところは、それらがチーム・コンセプト(チームの文化・プレーヤー・コーチ・目標・予算・練習環境etc )によって変化し得るという意味です。

第4・5レイヤーは、第3・4レイヤーの存在を大前提として存在していると言えます。そして、上記に記述したようにチーム・コンセプトを決定づける要素は常に変化し続ける流動的なものであるため、「可変的ゲームモデル」「可変的プレー原則」というものは日々変化する『生き物』のようなものであるとも言えます。

おそらく、この第4・5レイヤーの部分がサッカー界隈では当たり前に認知されつつある戦術的ピリオダイゼーション理論におけるゲームモデルであり、プレー原則であるのだと思います。

▶︎育成カテゴリにおけるゲーム(育成)モデル

さて、ここまでレイヤーの整理をしてきました。レイヤー分けすることで、私が開発に取り組もうとしている育成カテゴリにおけるゲーム(育成)モデルとは一体どういったものなのかという部分が少し具体的にイメージしてもらえるようになったのではないかと思っています。

次の章では、ゲーム(育成)モデルを規定するバレーボール・ルールについて詳しく見ていきたいと思います。

6.バレーボールの本質を抽出する

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改めて上記の図を確認しましょう。ゲーム(育成)モデルを開発する上で、その礎となるのが、先述した通りバレーボール・ルールです。

バレーボール・ルールについては、ルールブックを読めば誰でも分かるでしょう。しかし、ただ細かいルールも含めるとその数は膨大であると言えます。

そこで、できるだけシンプルに、バレーボールの本質が削がれることなきように、バレーボール・ルールの中からその本質を抽出して、可能な限り客観的に定義するという編集作業が重要になってきます。

では、

「バレーボール」とは一体何か。

ここでは一旦、次のように定義してみたいと思います(今後、変更することも十分あり得ます)。

バレーボール(Volleyball )の定義
バレーボールとは下記手段を講じて、下記目的達成のためプレーするゲームである。
手段:3本以内のチーム・ヴォレー[volley]
目的
:ネット奥の相手コート[ゴール]にボールを接地させる(自コート[ゴール]にボールを接地させない)

はい。これだけでは訳分からんことになりますので、少し解説していきたいと思います。

手段

まずは、『3本以内のチーム』という点について焦点を当てていきたいと思います。チーム内でパス回しをすることができるスポーツといえば、サッカーやラグビー、バスケなど様々なスポーツが思いつくのではないでしょうか。しかし、バレーボールでは「3回以内」といったある種厳しいとも言えるルール設定がなされています。バレーボールの本質に迫るにあたって、この回数制限というルールに対して意識的になる必要があります。

そして、次に『ヴォレー[volley]』です。

さて、この『ヴォレー』

どう意味でしょうか。

意外とこの意味を正確に捉えられている人は少ないのではないかと思います。それでは、早速Wikipedia先生に聞いてみましょう。以下、引用です。

ボレー(英: Volley [ˈvɑli])は、スポーツの球技において、空中に浮いたボールを、地面に着く前に直接ヒットすること

用法
ラテン語の「volatus」が語源だという説がある。これは「volare」(飛ぶ)の過去分詞である。その後、フランス語の「volee」(飛行)となり、英語の「volley」(一斉射撃)になったという。そこから前述の、現在での用法として派生したらしい。発音上はボリーの方が近いという。

サッカーのキック・シュートにおいて、ボレーキック・ボレーシュートがある。オーバーヘッドキック(英語圏ではBicycle Kick)・オーバーヘッドシュートもその範疇と考えられる。ノートラップでそのままボレーシュートを打つことを、ダイレクトボレーと表現することもある。
テニスでもボレーという言葉が使われる(対してワンバウンド後に打つ行為はグラウンドストロークと呼ばれる)。類似競技のピックルボールでは、サーブアンドボレー(サーブ側が相手からの直後のリターンをボレーで応戦すること)は禁止されている。
バレーボール(Volleyball)のVolleyでもある。この競技ではルール上、空中でパス回しされるため、アタック行為を含めてすべてがボレーであるといえる。セッターによるボールのセットを経ず、チャンスボールなどを相手陣地へ直接打ち返すことは、ダイレクトアタック(ダイレクトスパイク)と呼ばれる。
ボレーとバレーは英語では同一の表記、発音であるが、日本語ではバレーボールのことをボレーボールとする事や、ボレーのことをバレーとするのは間違えとみなされる。

Wikipediaより引用

バレーボールの本質にまたも一歩近づけたのではないでしょうか。

引用にもあるように、ヴォレーとは、地面に着く前に直接ヒットすることであり、バレーボール競技に関して言えば、アタック行為を含めてすべてがボレーであると言えるわけです。

先述した通りチーム内で3回以内でしかパスを回すことができない上にボールを地面に落とすことができない。さらに言えばどんなときも常にヴォレーしないといけない。言い換えればボールを一瞬たりとも保持(持つ)できないという極めて厳しい制限があるわけです。

ストイックだ。あまりにストイックすぎますバレーボール 。

さて、次は3本以内のチーム・ヴォレー[volley]という手段を講じて、何を目的にしてプレーするのかを見ていきましょう。

目的

ネット奥の相手コート[ゴール]にボールを接地させる(自コート[ゴール]にボールを接地させない)ことを目的にして、それを達成するためにプレーするゲーム。これがバレーボールだということですが、まずはネットという点に注目してみましょう。

ネットがあるという点はバレーボールの本質を捉える上で欠かせない要素だと言えます。非ネット型のチームスポーツであるサッカーやラグビー、バスケ等と比較してみるとその特徴は際立ちます。

そしてその特徴を整理するとすれば、相手チームとのフィジカル・コンタクトが一切ないという点とオフェンスとディフェンスの切り替わり(トランジション)が極めて明確であるという点の2つが挙げられるのではないでしょうか。

まず、フィジカル・コンタクトが一切ないということは、相手チームの攻撃を直接的に邪魔することができないということです。逆を言うと攻撃局面において直接的に相手チームから邪魔されることがないということです。

これがサッカーやラグビーといったスポーツと比較してみれば当たり前ではないことが分かります。これらのスポーツでは、基本的にいかなるオフェンス局面においても積極的かつ物理的な邪魔(守備)があることを前提にして攻撃しなければならないわけです。

このように他スポーツと比較して考えてみると、オフェンス局面にあるチームはディフェンス局面にあるチームに対して圧倒的な優位性を確保しているということが分かります。

さて次に、オフェンスとディフェンスの切り替わり(トランジション)が極めて明確であるという点について言及していきたいと思います。

---To Be Continued---(2020.6.29.8.18)


バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。