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一茶両吟 拾玖ノ巻 (19)
【表六句】
秋 すりこ木も けしきに並ぶ 夜寒かな
雑 捨て鉢底も ぷつり歌はめ
秋 楢の葉の 朝から散るや 豆腐舟
秋の月 わが月鍋の 鶏は啼かねど
夏 橋見えて 暮れかかるなり 秋の空
夏 次の住処と 涼風ささふ
【裏十二句】
冬 木枯らしや 地びたに暮るる 辻諷ひ
恋 夜鷹の子にも 恋はくるらめ
恋 野は枯れて 何ぞ喰いたき 庵かな
雑 いもの後には 何やく炭か
冬 木枯らしの 吹き溜まりけり 鳩に人
雑 明日は空にて 岩もなくらし
冬の月 木枯らしや こんにやく桶の 星月夜
冬 氷鏡うつす わが師走がほ
冬 木枯らしや 小溝にけぶる 竹火箸
雑 のこす火のなし 灰の灰なば
秋 炭俵 はやぬかるみに 踏まれけり
春 冬日すくなも 花早やなせば
【名残表 十二句】
春 みそさざい ちつというても 日の暮るる
雑 来る年の子の 名をためすらん
雑 初雪に 白湯すすりても 我が家かな
雑 旅にさそへや 霜つ石々
秋の月 宗鑑が 塔婆も見たか 鉢たたき
雑 米に別なし 骨に別なし
花 梅咲くや 去年は越後の あぶれ人
恋 よき畠のあり 婿にうぐいす
恋 来るも来るも 下手鶯よ 窓の梅
雑 身の違えども これまつ枝の
春 春立ちや 四十三年 人の飯
雑 椀の情が 沙汰腰立てず
【名残裏 六句】
冬 梅が香や おろしやを這はす 御代にあふ
雑 毛唐毛虫に やまと喰はなそ
雑 髪虱 ひねる戸口も 春野かな
雑 鹿毛にさそふ 雪の日の元
花 梅が香や どなたが来ても 欠け茶碗
春 春とおけれど やまと円なれ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)