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一茶両吟 廿ノ巻 (20)
【表六句】
新春 年の市 何しに出たと 人のいふ
雑 人の夢みて わが歌の種
冬 雪汁の かかる地びたに 和尚顔
恋 墨におけぬと 匂ふはしばし
春の月 わが春や たどん一ツに 小菜一把
雑 霞ともえつ 望月に似て
【裏十二句】
雑 牛の子の かほをつん出す 椿かな
恋 初座敷あげ 手をひく禿
恋 さし柳 あすは出て行く 庵かな
雑 もう戻りなそと 風がおしよる
雑 陽炎や 笠の手垢も 春のさま
雑 すぎるものぞと 思い出かさね
秋の月 春の日や 暮れても見ゆる 東山
秋 鴨わたる月の まだ枯れきれず
秋 蝶とぶや 夕飯すぎの 寺参り
花 しのぶ花あれ 羽根に拝みて
雑 かすむ日や 夕山かげの 飴の笛
春 坊主あたまの 春は泣きすぎて
【名残表 十二句】
春 蝶飛ぶや 二軒もやひの 痩せ畠
雑 菜種をわける 花もちりぢり
雑 片ひざは 月夜なりけり 夕蛙
雑 なく子は我の 家にあらねど
冬 山やくや 眉にはらはら 夜の雨
冬 夏草の夢も 灰とのぼれば
雑 三日月や タニシをさぐる 腕の先
恋 みつけた先の 早苗の根ひげ
恋 艸陰に ぶつくさぬかす 蛙かな
雑 ぬめり声にも さらと引き寄せ
秋の月 菜の花に かこち顔なる 蛙かな
秋 月の別れの うらみつぎつぎ
【名残裏 六句】
秋 艸の葉や 燕来そめて うつくしき
雑 子はかすがひに 離れゆく秋かな
雑 浅艸や 乙鳥とぶ日の 借木履
雑 小さき背伸びの 聖観音ゑ
花 はつ春も 月夜となるや かほの皺
春 花もかくれて はずかし乙女
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)