見出し画像

優しい風

ピンクが好きだという女子が嫌いだ。
 
俺は風和(ふうわ)21歳大学生。
アパレルでバイトをしている。
黒と白だけで構成されるダークなファッションが好きだ。
 
風和の母は40歳。友達のお母さんの中では若いほうでいつも派手だ。
ピンクが好きでなんでもピンクにしたがる。
父は45歳公務員で見た目も普通。母とは対照的な人だ。
俺はそんな父のDNAを受け継いだようだ。
いつも明るい母と口数の少ない父。なんで母を選んだのかとても不思議だ。
 
俺が小さいころから母は何かとピンクの物を身に着けさせた。
初めてみんなと違うんだと気づいたのは小学5年生の時。
女子に「可愛いねピンク」って言われたのがショックで全身全霊で母に抵抗したことを覚えている。
そんな時だって母は明るく笑っていた。俺には意味が分からなった。
それからは黒と白しか着ないと心に誓った。
あれから10年、俺はピンクが好きだという女子を嫌うようになった。
母のような人を俺は選ばない。
それは色がうるさい母への反抗だったのかもしれない。
 
俺から色が消えた瞬間だった
 
 
春のあたたかな風が吹く3月の終わり
21年前の春俺は生まれた
母はピンクが好きだから桃和(とうわ)にしようと言ってきかなかったらしいが、父が
「春のあたたかな風が気持ちが良いね。」って言って風和となった。
お父さんありがとう。気に入ってます。
 
この日は俺の誕生日だった
母がサプライズだよってケーキを注文してくれたのはいいが、結局取りに行くのは俺だから何のサプライズにもなっていない。そこも母らしいけど。
大学の近くのケーキ屋さんへ向かう。
 
「ご予約のケーキですね。こちらでお間違いないですか?」
そこには黒と白のグラデーションがカッコいいホールケーキがあった
毎年真っピンクのケーキだったから間違えかなと思ったが、真ん中には
「ふうわ君おたんじょうびおめでとう」とピンクでデカデカと文字が入っていた
 
間違いない(笑)
一体俺を何歳だと思っているんだという母らしさに笑えてくる。
 
俺は「これで合ってます」と一言言ってケーキを待つ。
 

「桃がたっぷり桃太郎ケーキを一つください」
桃太郎ケーキにふっと笑ってしまった俺に気づいて注文していた子と目が合った
 
春らしい透け感のある白のブラウス
短めの黒のスカート
黒色のニーハイと黒の厚底
 
ピンクのキラキラしたピアスとベルトが似合う可愛い子だった
 
「すごい可愛い・・・」と口走る俺に彼女は
「ですよねー^^桃太郎ケーキピンクで可愛いですよね」って笑ってくれた
 
俺は軽く会釈をしてケーキをもって家路につく
「可愛かったなあの子。」
初めてピンクが可愛いって思えた
 
夜は家族そろって俺の誕生日を祝ってくれる
毎年ピンクのケーキなのに今年は黒と白のグラデーションのケーキを見て父が驚いていた
「今年のケーキはカッコイイな、風和の服みたいだ」って父が言った
 
なんだか寂しい気持ちもありつつ、ケーキを切り分ける
 
ケーキの中は真っピンクだった
 
笑った
 
母さんがいう「サプライズでしょ」って。
 
黒と白とピンク
今日の彼女を思い出す
 
 
あの日は大学もバイトもない日だった
 
桜が散り始め春が終わることを告げていた
久々のオフで見たかった映画を一気に見た
3本目が終わり時計を見ると朝の五時だ
 
寝れそうになかったので気分転換に外へ行く
4月のこの時間は朝日はまだ出ていないけど明るかった
 
ちょっとずつ明るくなる景色と桜並木が心を和ませた
 
桜並木は川沿いにあってよく友達と来ていたことを思い出す
桜の間にあるベンチに座って川を眺めた
 
だんだんと上る朝日が気持ちよくてうとうとする
 
そこにあたたかく優しい風が吹いた
目の前が少し暗くなってゆっくり目を開けると
ケーキ屋さんで見た女の子
 
風で飛んだ桜の花びらが彼女の回りを踊っている
優しい風が目に見えるなら花びらのようなキレイな桃色なんだろうと思った
 
彼女の指先に桜の花びらが一枚
 
俺はもうずっと恋に落ちていたんだ

二つの話し

彼氏バージョンの物語です
こちらの話しと繋がっています
ぜひ彼女バージョンと併せてお楽しみください


儚く/美しく/繊細で/生きる/葛藤/幻想的で/勇敢な 詩や物語を作る糧となります