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儚くて美しい物語り

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儚くて美しい世界ってどうしてこんなに魅力的なんだろう。
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赤い金魚と僕の物語り

風が止み、夕焼けが空を染める頃、静かな町の一角に佇む古びた家。 早くに両親を亡くし、姉は嫁ぎ、広い家にただ一人。生きるために生きている。三十路を目前にし、僕は考えることを諦めていたそんな人生について向き合っていた。金魚鉢の前に座り、水槽の中で穏やかに泳ぐ「金魚」に話しかけて。それは、投影していたのかもしれない。金魚鉢で飼いならされる金魚と僕を。 姪っ子がお祭りで手に入れたその金魚は、飼い猫を理由に僕のもとへと託された。とても小柄で泳ぎ方が少しだけ変な真っ赤な金魚。定期的に水

月と私と音楽と

夜の湖に静寂が舞い降りる 揺れる水面、月の銀の糸 星々が囁く旋律に 私たちは溶け込んでいく ヴァイオリンの音が夜風に乗り 遠く響く夢の舟の上 釣り糸の先、輝く小さな星 その光に心を預けて この美しい時間を過ごすことに どれだけの価値があるのか分かち合いたい 言葉では伝えきれない想いも そっと夜の静けさに溶けていく 価値とは、ただここにあること 息をするたび、時が止まる 目に映るもの、耳に触れる音 それが私たちの贈り物 大きくなくていい、儚くていい ただこの瞬間に身を委

雲一点と鳥一羽

空を見上げれば 澄んだ青に浮かぶ雲が一つ その傍を羽ばたく鳥が一羽だけ 秋と冬の狭間に揺れる風が 頬をかすめるたびに 私の心は何かを見つけたように 静かにときめく 何もない空が語りかける 「ここにいるだけでいい」 鳥の羽音が奏でるように 「何も足さず、何も引かず」 ただそれだけで この日が少し特別に思えた 雲一点、鳥一羽 それだけで 季節の変わり目の不思議な魔法が 私の日常を彩る あとがき 秋と冬のはざまで 雲一つと鳥を一羽 ただそれだけが、なんとも美しく ただそ

青い夜空の輝石

夢に出てきた少年は、とても優しい顔をしていた。 どこかで会ったことがあるような気がするけれど、なぜか思い出せない。 そんな彼が僕に向かって穏やかに微笑みながら言った。 「君は君のままでいいんだよ。」 そのたった一言が心に深く響き、腑に落ちるような安心感が僕を包んだ。まるで心の奥にずっと求めていた答えがそこにあったように感じた。 ふと夜空を見上げると、無数の星がきらめいていた。 「こんなに夜は美しかったんだね」 そう僕が呟くと、少年はそっと手を差し出し、魔法のように

狐の嫁入り

晴れ渡る空にひそやかに落ちる雫 光と雨の境界線、映るは狐の嫁入り 人間に姿を見られてはならない たった一つの掟 姿を見られたなら、その身は霧と化し、 永遠に消え去る運命 風が木々の間を通り抜け、静寂を破ることなく、葉がささやく 湿った大地の香りが漂い、足元の影を静かに包み込む 狐たちは風のように森の奥深くへと逃れ 誰の目にも届かぬ影となる 雨はその秘密を守るため、 細やかな絹の糸がヴェールのように降り続け 全ての悪を洗い流す 日はその力を分け与えるため、 黄

星を運ぶ猫

大きな猫がやってきて、彼のひとふみで 静かな世界がふわりと揺らぎだす 瞬く間に、石の欠片が空に舞い上がり 世界は小さな星々で満ち溢れた 美しく輝く石はただの石ではなく 遠い記憶のかけらに感じた 時を超え、未来へと繋がる光の道しるべ 猫の歩みは、変わることの恐れを吹き飛ばし 新たな始まりを告げていた 振り返り、猫は微笑むと その大きな姿は小さな猫へと戻る けれど、世界には今も輝く星の欠片が散りばめられ 変化の中で見つけた美しさが、永遠に息づいている あとがき 猫が通る道に

夢の灯を持つリリイと夢を食べるドリアン

リメイク版です 短い動画も制作しました youtubeにて公開しています 併せてごらんください ・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。 夢の灯を持つ妖精リリイと、夢を食べる魔法使いドリアンがいました。 リリイは美しい夢を人々に与える存在として崇められ、ドリアンはその夢を食べてしまう存在として嫌われていました。リリイは人々に希望を与え、輝かしい未来を夢見させ続けていましたが、ドリアンはそんなリリイのことをよく思っていませんでした。 世界ではリ

雲の上の夢

そこは真っ白で何もない空間 空気も色も花もない 私は無から生まれる ならばどうしようか 何を選び、何を作り 私を作っていけばいいのだろうか 私は安心が欲しい 今日の事も忘れてしまえるくらい 私は私のままでいいんだって そう、安心させてほしい だから私は、大きなテディベアを 無の空間に、ぽつんと置きたい。 彼はいつも優しくて話を聞いてくれて、 私を安心させてくれるから。 寝るときは抱き着いて寝たい。 次に、大きな木を一本。 そこにはたくさんの鳥や動物がやってきて、 美し

心の温度差

寝てる間に息も、人生も、世界も そして心も停止しますように そう願わずにはいられない 息を止めてみる この世のつながりからの解放を祈って。 体の重みを全身に感じる 私は、世界で一番遅い速度で 目を閉じる そうすれば、おのずと人生も 止まっていくだろう とても辛い時間を乗り越えた先には 何が待っているのかなんてわからないけど ゆっくり幕を閉じるだろう そのまま、世界も止まってしまえばいいのに そうすれば、私が存在する意味も 何もかもが無になって 刹那的永遠を手にすることが

砂浜に書いた字は波に消された

夏に見つけた小さな貝殻は 手のひらで僕の心を映す鏡のよう 今にも消えてしまいそうな夏の思い出を 映し出して、まるで僕を笑っている あの日、流木で紡いだ僕の気持ちは 波にさらわれ、砂に埋もれ 誰にも気づかれることなく ただ、淡い記憶となって消えていった それでも僕は貝殻を握りしめる 泣きそうな空と僕、その中で 僕は何を見つけるのだろう 消えた言葉の残響に耳を澄ませながら あとがき 気持ちを言葉で伝えたらいいんだろうけど うまく口に出来なくて 砂浜に書いてみたんだけど 読ん

白妙色の想い

白い彼岸花よ、 なぜ君は白く生まれたか? 色を忘れたのか 色なんていらなかったのか その美しさは、 私の心を打つけれど、 白妙色の中に 秘めた痛みを宿しているようだ 色を失った空の下、 君はどうして静かに咲いているの? その花びらは無音で、 私の内側をそっと見つめているよう。 色を忘れた世界で、 君は何を見つめ、 何を思っているの? その白さの中に、 私の心の空虚な影が映り込む 白い彼岸花よ、 どうか教えて、 なぜこの瞬間、 君がこんなにも美しく、 そして切なく感じる

透明な君と不透明な僕

こちらの「見えない彼女と見える僕」のリメイクです! 。.。・.。*゚+。。.。・.。*゚+。。.。・.。*゚+。。.。・.。*゚+。。.。・.。*゚+。。.。・.。*゚+。。.。・. 僕は僕としてこの世界があって、 この世界に流れる風は、どこまでも冷たい。 幾千の星々は、そんな僕にでも微笑んでくれるけど 朝になれば結局、泡のように消えてなくなっていくんだ。 霧の中、見えない存在たちが僕の周りに潜んでいる。 かつての夢を抱いたまま、形を失い、 空を漂い彷徨っていて、願いを僕

名もない物語を生きる

この物語の結末をどうしようか ハッピーエンドになるのか ビターエンドになるのか 君とならどんな結末にしようか 「君」という登場人物が 僕に与える影響を考えたい 君だからあの結末にしたいって 僕だけがそう願っていたらごめんだけど 君が思う結末と僕が思う結末が もし一緒ならどれほど嬉しいだろう 君が僕を知ってくれたあの日から 僕の物語りはクライマックスで ハッピーエンドを探してる 君と出会う日までの物語が 全てあの日の為にあったのだから もし全てが夢だとしたら、どうか覚め

星々の導き

あのさ、50年後に運命の人に出会うとするじゃない? その時、私たちの心はきっとキラキラ煌めくよね。 恋人かもしれないし、友達かもしれない。 その瞬間、きっと思うのよ——「もっと早く出会いたかった」って。 でも50年後じゃなくて今出会えたら いえ、出会えたことに気付ければ 運命は変わる気がしない? 私の人生に、やるべき使命があるとするなら、 それを今知りたいって思うの。 だから私は変わりたい。待つだけの運命を手放して、 自分の手で未来を掴みにいくって決めたの! 青い夜空を