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親切にされた思い出をたくさん持ち帰ってきた。香川・讃岐広島②
電動自転車で島散策
11:10の旅客船に乗り、広島へ。時間は20分ほど、あっという間だ。港の待合所は真新しくきれい。小さな売店が案内所、レンタサイクル受付を兼ねているようだ。
ひるねこには、船の時間に合わせて運行しているコミュニティバスで茂浦という集落に向かうことになるらしい。案内所で電動自転車を借りられれば、自分のペースで宿に向かいながらあちこち見て回れていいかと思い聞いてみたが、島は勾配が急で茂浦まで電動自転車でもかなりきついのと、日をまたいで借りることができないので、行っても結局案内所が閉まる前に返却に来なければならないことがわかり、諦めた。だが一度バスで集落まで行ってしまうとその後港周辺を見て回ることができないので、まずは自転車を借りて散策することに。案内所の方に島についていろいろ教えてもらう。ついでに猫がいる場所も。
コミュニティバスの近くを通りがかったときに、運転手さんが声をかけてくれた。すぐには乗らずに少し後のバスで行くつもりと伝えると、宿はどこかという。ひるねこさんですと言うと、ひるねこの運営の平井さんは今日船で出かけているはずだがな、と心配してくれた。えっまさかまさかね…。
小さな宿を電話で予約したときは(数カ月前とかに予約したときは特に)、念のため数日前に確認の電話を入れるようにしている。実際に、予約をきれいに忘れられていて、フォーとなった経験がある。
平井さんとも少し前に電話で話したはずだから、忘れてるってことはないと思うが、電話をしてみよう。するとやはり急用で本土に行っているが、夕方には戻るとのこと。宿への入り方を教えてもらって電話を切った。運転手さんに事の次第を伝えると、それならよかったとにかっと笑う。親切。
また、船でお話をしたおじいさんは、駐車場のほうに向かいながら、どこまでか知らないが車で送ろうかと言ってくれた。島についたばかりですでに親切のみだれうちである。
旅先で日本史学びなおし
晴天の中、案内所でもらった地図を見ながら、電動自転車で島をサイクリングした。快調にスピードに乗れる電動自転車は、旅先でしか乗らないのもあって、妙な万能感を覚える。
広島の見どころのひとつ、尾上邸は、お城と見紛う見事な石垣(島特産の青木石を使用しているそうだ)の上に建つお屋敷。江戸時代に廻船問屋として財を成した家らしい。はるか昔、日本史で「廻船問屋」「北前船」といった用語をとにかく暗記すべきもの、としか見られず、それ以上の知識もイメージも持たなかった中高生の自分に教えてやりたい。お前のふるさと新潟でつくられた米が、船に載せられ本州をぐるっと回ってはるかかなたの瀬戸内海を抜け、江戸まで数十日かけて旅していたんだよ。そうやって得た財が、遠く離れた内海に浮かぶ島を潤していたのだよ。自分にとってただの文字に過ぎなかったこれらの言葉が、約40年ほど遅れてようやく意味を持った。すげえ! 昔のひとすげえ!
こうやっていろんなことをつなげてイメージできていたら、あの頃の勉強ももっと楽しかったんだろうなあ…。
残念ながら尾上邸の見学は要予約。なんとこのお屋敷に宿泊することもできるそう。歴史好きの方はたまらないのではないか。
子猫はかわいい
私は外観をぶらっと見学しただけで、またさすらいに戻った。海沿いの集落に、猫の親子がいて、母猫は人懐こくすりすりと身を寄せてくる。子猫たちは人を警戒して近寄ってはこないが、子猫らしいしぐさでじゃれあっていてかわいい。
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広島は石の産地
引き返して港の反対側に向かうと、青木石の採石場がすぐ間近に見られて迫力がある。山の途中までなんとか登り、海が見渡せる眺めのいい場所まで行ったところで、バスの時間もあるので港に戻った。寒いが気持ちいいサイクリングだった。
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宿のある集落へ
コミュニティバスは1回200円。茂浦のバス停からひるねこまでは歩いてすぐ。古い民家をゲストハウスとして再利用している。門に手作りの柵がつけられていた。
あたりは暗くなり、気温もさらに下がってきた。周囲を散策してみると、向かいの家の門の中に猫が何匹もいるようだった。道に面したガラス窓の向こうに若い猫が寝ていて、私が通りがかるとにゃあにゃあ鳴きながらこちらに来たそうなそぶりを見せる。かわいい。
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ぷらぷらしていると、車がやってきた。降りてきた男性が平井さんだった。簡単に宿の説明を受けて、宿代をお支払い。門につけられた柵は、イノシシが入り込まないように、らしい。もともとは広島にイノシシはいなかったのが、この数年で爆発的に増えたのだという。庭の畑も荒らされてしまったそうだ。野菜がなかったのはそのせいか。何とかしなければならないと、平井さんも猟の免許を取り、山に罠を仕掛けているが、まったく追いつかないという。
向かいの猫がいる家も平井さんが管理しているコミュニティスペースのようだったが、私の滞在中は人の気配がなかった。そのほか、少し離れたところに長期滞在者向けの宿泊所「旅ねこ」もあるようだ。このあたりには20匹くらいの猫たちがいて、平井さんが世話をしているそう。許可を得て門の中まで入らせてもらったが、猫たちはさっと逃げてしまい、遠巻きによそ者をうかがう姿しか写真に撮れなかった。
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次の日は朝いちの船で小手島に渡れたらと思うのだが、交通手段はないですよね…と聞いてみると、朝の船に新聞を取りに行くから乗せてあげますよと平井さん。なんと! ありがたい。6時過ぎに外で待ち合わせることになった。
実は港についたとき、案内所で「猫を見に来たのなら、小手島がいいですよ」と聞いたので、サイクリングの合間にいろいろ調べてみた。朝、6:50のフェリーで小手島に渡って、昼に引き返せば友人との約束に間に合う時間に丸亀に戻れるようだ。だが早朝には宿から港までの交通がなく、歩くのも難しいと言われたら諦めるつもりで、念のため聞いてみたのだ。
明日の身の振り方も決まり、平井さんと別れてひるねこにひとりになった。なんだか田舎のおばあちゃんちに泊まっているみたいな気分。お風呂も建て替え前の実家を思い出させるタイル張りだ。暖かい季節にグループで来て、庭に面した窓を開けてわいわいとごはんを食べたら楽しいだろうな。でも今はひとりで、とても寒い。私は寒さと悲しみの感覚が割と強く結びついている方な気がする。それが当たり前だとずっと思っていたのだが、こういう感覚って人によって違うらしい。私のそれは、雪国で貧しい幼少時代を過ごしたことと関係があるのだろう。なんだかとても孤独な気分のまま、前述のわびしい夕食をとり、かなり冷えた体をお風呂で温めて就寝した。
(つづく)