見出し画像

「知多に薔薇を咲かせた夏 2024」後篇 サヘル・ローズ×高校生ディスカッション

十代の若者の目に映る日本と世界

パネルディスカッションの部でサヘルさんとともに登壇したのは、司会を務める日比結菜さん(2年)と及川竜矢さん(2年)、そしてパネラーとして回答する森川涼子さん(2年)と竹内アティッラさん(3年)の高校生代表4人。またゲストスピーカーとして、ダイワスーパー社長(株式会社大和 代表取締役)の大山皓生氏も加わりました。

語られたテーマは、戦争、人種・民族差別、障害のある人々への偏見、難民・移民問題、政治参加、民主主義など、実に多岐にわたります。

“大のおとなたち”が寄ってたかって議論を繰り広げても、今なお解決し得ない難題ばかり。現代の日本と世界は、十代後半の多感な高校生のみなさんの目に、いったいどのように映っているのでしょうか?


◆あらゆる問題はどこかでつながっている:無知と無理解が生む「差別と戦争」

司会(日比):
外国籍の人や、障害のある人に話を伺うと、必ず差別の問題がついて回ります。私自身も昨年、オーストラリアに行ったのですが、やはりアジア人として見られて「チャイニーズ?」と聞かれました。
 
そういった人種・民族的な偏見に通じるものとして、外国人に対する差別だけではなく、他にもいろいろな形の問題がありますが、どう思いますか?

森川:
障害のある人たちへの差別として、例えば水俣病がありますね。私は、水俣病と差別の問題はすごく関係があると思っていて。チッソ株式会社が原因となる排水の説明責任をうやむやにしてしまったことで、結果的に住民の不安を煽って、障害を持った患者さんへの根も葉もない噂や、いわれのない差別につながったんじゃないかなと考えています。それは、無知から来る差別ですよね。

竹内:
別の形として、やはり戦争にも差別が関わってくると思います。まさに今、現在進行形で起こっているイスラエルのガザ侵攻も、イスラエル側からしてみれば「ガザの人たちは自分より下だ」と見ている部分があるのでは。イスラエルとガザにはそういった背景があるので、やっぱり「相手を知ることで憎悪をなくす」というのが、平和への一歩なんじゃないかなと思っています。

サヘル:
世の中で起きている出来事は、「どの人の、どの意見が正解なのか?」ということが分からなくなるくらい、複雑に絡み合っていると思うんですよね。

イスラエル・ガザの問題一つにしても、今に始まったことではなくて、何度も繰り返されてきた歴史があります。ガザの人々が、なぜあそこまで追い込まれてしまっているのか。それ以前に、そもそもイスラエルという国家がなぜあのような形になったのか。歴史を掘り下げていくと、もう把握し切れないほどに複雑すぎて。メディアの報道もそうですが、自分自身も見落としていたなと反省することがあります。

正義って、いったい何なんだろう? 特に戦争に関しては、双方が持つ“自分たちの正義”が存在している——それは「家族を守りたい」「自分の祖国を信じて、正義を持って戦いたい」という素朴なものかもしれない。逆に、背後で大きな利権が動いているからかもしれない。よく私たちがニュースなどで目にするのは、“善vs悪”という分かりやすい構造ですが、「本当にそれって悪なの?」「それも本当に正義なの?」「じゃあ、遠くにいる私たちに関係のない戦争があるの?」と、常に自問自答していく必要がある。

今、私たちに必要なのは、〈国家の行いに対して、国民を一括りにしない〉という意識。ロシアにも、ウクライナにも、イスラエルにも、ガザにも、アメリカにも、イランにも——あらゆる所で、戦争を望んでない人たちが必ず存在することを、絶対に忘れないでほしいと思います。

今回、高校生のみんなが語ってくれたように、「知らないことを、知らないままにしない」。これまで知らなかったこと自体は、罪ではないけれど、そこから知ろうとしないまま、黙認することは罪。だから、まさに若いみんながアクションを起こして、知ろうと努力してくれていることは、とても大きな意義があるんです。


◆現代の民主主義は機能しているのか?

司会(日比):
一般的に「みんなの意見が大事」と言われますが、では、民主主義とはいったい何でしょうか? 今の日本は民主主義と言われながら、果たして“民主的な社会”と呼べるのでしょうか? まず、スピーカーの中で選挙権を持つ社会人のお一人として、大山社長にお聞きします。

大山:
要するに、民主主義って「その国のあり方を決める権利を、我々国民が持っている」という意味だと思うんですが、「多数決で決めよう」と言う一方で、「少数派の意見を大事にしよう」とも言っている……正直、定義がよく分からないです。

民主主義は選挙、制度、理念などで反映させると言いながら、日本は投票率が低かったり、女性が総理大臣になったこともありませんし……民主主義という制度が、もうあやふやになっているのが今の日本だと思うんですね。結局、“民主主義の後進国”になってしまっている。

森川:
水俣病患者のような障害のある方々とも関連して、少数意見の尊重については、私もとても重要だと考えています。その一方で、特に若者の投票率がまだ低い。日本にはせっかく民主主義という体制があるのに、それがしっかりと生かされていないんじゃないか。投票率が低い中で選ばれた議員や首相が、国のあり方を決めてしまう。これもある意味、少数の偏った意見によって国が動いているのが、日本の現状かなと思います。

もちろん、一人一人が意思を持って投票すれば、それが一番良いと思うんですけれど。

サヘル:
民主主義について語っている今この瞬間にも、みんなにとって民主主義が“当たり前”な状況だと思われている方が、多くいらっしゃるかもしれません。

例えば今のイランの人々は、命懸けの選挙をします。表面上は、民主主義に見えます。でも、それは形でしかなくて、フタを開けたら全然、民主主義ではなくなっている状況があります。

アメリカ国民にも、どの戦争にも関わりたくない人たちがいるわけです——もし、本当に戦争を止める気があったら、政府はあれだけ大規模な武器の支援をウクライナやイスラエルにし続けるわけがなくて。では、武器を作り、お金を生み出している人たちを容認しているのは、いったい誰なのか? 武器が作られ続けて戦争がある限り、一部だけが儲かって、多くの人々が犠牲になる。こんな世の中で、「民主主義」は便利な言葉として独り歩きしている気がしてなりません。

では「日本は大丈夫か?」と問いかけた時に、日本もとても危ないと思っています。年々、路上生活者が増えていますが、住所がないので投票用紙が届きません。あるいは、難病で病室から動けない人もいます。あなたが持っている一枚の投票用紙は、実は皆さんの周りにいる多くの人々の一票にもなっていることを、どうか忘れないでください。

世界の全人類が投票できたり、政治について話したりすることができれば、たぶん戦争のような状態に陥らなかったと思うんです。

難民居住地にいるアフリカの子どもたちは——どんなに貧しい状況下でも、靴や鞄がなくても、文房具が不十分でも——彼らは学校に行きます。その理由は、自分の名前が書けて、読み書きができて、後に成長した時に自分の頭を使って書物が読めれば、自分の人生を大きく変えられるから。

実は民主主義よりも以前に、「自分の国で教育の現場がちゃんと守られているかどうか」、そして「他の国では、その機会が奪われている」ことに気づけているかどうかだと思うんですよね。一人一人が文字を読み書きできる環境が、いったいどれほどすごいことか。

確かに、政治に対するネガティブな感情は、どこの国にもあります。でも、「もう日本は終わりだ」「日本の未来には期待できない」なんていう言葉を聞けば、次世代の子どもたちは、もうそれ以上の関心や希望を持てなくなりますよね。

そうじゃなくて、「あなたの人生、あなたがこれから担う未来は、あなた自身で決められる権利があるんだよ」と。そういう言葉が、この崩れ落ちる世界を少しでも止められる、大切なつなぎ目になるんじゃないかなと思います。

私は、今日のみんなみたいに素晴らしい子たちが、日本や世界の未来について考えて、積極的に意見を言ってくれていることに、すごく希望を感じています。こうやって自分の意見を言う。ここから、民主主義が生まれると思います。「自分の意見が言えること」、これが奇跡なの。


終わりに——高校生の言葉から

「今回の実行委員になり、準備期間中もお互いの意見が食い違ったり、衝突したりと、いろいろと辛いこともありました。

でも普段は、政治の話をして、平和について考えるこのような機会はなかなか持てないし、別の人たちの価値観や意見を知ることで、自分の視野の狭さに気づかされたり、価値観がアップデートされたり。

とても有意義で充実した、貴重な経験になりましたし、今後もこういった話し合いを大切にしていきたいと思います。

何よりも、サヘル・ローズさんと一緒にお話しできるこのイベントに携われたこと自体、まるで奇跡のようです」

近い将来、やがて大学生や社会人となる高校生の皆さんと再会し、一緒にアクションを起こせる日が来ることを、心から楽しみにしています!


※本イベントの取材にあたり、青木邦夫先生、ならびに関係者の皆様からのご協力を賜りました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます

前篇はこちら>

いいなと思ったら応援しよう!