《キャストは最高だが、源氏物語が女性作者ではなく、男性作者だったら色々とストレートに納得できなのになあと思った「禺伝 矛盾源氏物語」の感想》
あとで清書するつもりで書きなぐりの感想。
まずは一個。続きはTwitterが復活してから。刀ステも源氏物語にも素人です。
《OP》
黒澤明の映画『夢』かと思った。(畑で雛人形たちが舞い踊り、梅の花が画面いっぱいに散り咲く場面がある)
あと寺山修司の映画『田園に死す』の雛人形の段飾りが川から流れてくるシーン。他には漫画ホーキーベカコン(谷崎潤一郎『春琴抄』を原作とした苛烈美女と従僕の話)。
とにかく耽美で豪華な天上の美しさが目の前で顔面を殴ってくる感じ。その非日常な異常さと感動的な美的快感がアリーナ席前から7番目の席で繰り広げられるんだから凄かった。
女だけの異常な空間で、あれだけ美しい女たちが豪華絢爛に舞い踊るんだぜ?十二単と男装の麗人。
なんかこう『て、天女さまや~!!』と、拝みたくなる美しさ。
煌びやかってきっとこう。死に際に極楽を幻視するならこういう美しさに包まれたいよな。
《舞台の内容というか真相》
源氏物語の熱心な読者が『物語を描いた人間は死後地獄に落ちる』(当時の一般的な宗教的思想の一つ。これを元に『源氏供養』という紫式部を供養する文化が実際にある)と考え、源氏物語をフィクションではなく、“実際にあった歴史”と歴史改変すれば紫式部は助かると考え、固有結界を発動。
映画パプリカのごとく、源氏物語が現実を浸食し、平安時代に生きる紫式部やその親友、この時代来た刀剣男士達まで飲み込んで現実を改変していった話。
だから刀剣男士達は女なんですね。
源氏供養なんてものがあったんですね。それを知らなかったので、この舞台を取るにあたってあった『刀剣男士達がなぜ女なのか』という疑問が気持ちいい形で氷塊しました。
昔はフィクションだと考えられていたものが歴史の発見によって一躍“本物”となったトロイアの木馬を例に、『物語は現実になりうる』を提示されたときはちょっと鳥肌が立つくらい面白かったですね。書いた人、教養がある。
《源氏物語が女の作者ではなく、男の作者だったら、この舞台も源氏物語でいいように消費されつづけた女キャラたちの恨みもわかるのになと思った》
光源氏に恋心や人生を弄ばれた女たちが集まって光源氏を殺そうとする場面、映画黒い十人の女(浮気者の男を共謀で殺そうとする愛人たちの奇妙な友情を描いた映画)みたいでカッコいいなーと思った。
だからこそ『光源氏が憎くて憎くてたまらないが、愛しているからこそ殺せない』という展開には舌打ちしましたね。
つっっっっっっっっっっっっっっっまんねー。
こっちは八つ裂鬼!八つ裂鬼!というテンションだったのに(この美しい物語でおまえ……)、短刀を握りしめた女たちが『どうしてもできない…』となったのはガッカリだし、若紫に自分を殺させようとする展開には『てめえ!子供に無駄な罪悪感を抱かせようとするな!!それって若い女に殺されるロマンスというかエロ心だろうが!!大勢の人間を苦しませた結果一人気持ちよくオナニーで死のうとしてんじゃねえやバーーーーカ!!』と思ったので(この美しい物語でお前…)(二回目)、ようやく歌仙さんが殺したときはスッキリしたし、でもやっぱり女たちからの八つ裂きで死ぬべきだったんじゃないの?とも思った。
死ぬというか、蛆虫とか紙魚とか取るに足らない存在になり、真犯人の欲望(骨が発見されて源氏物語が現実に即した物語になる)も叶わないまま、惨めに物語から退場する話。
そういう話のほうがスッキリしない? 光源氏は酷い男だと言われながらも、女たちから愛ゆえに殺されないし、最後は自分の野望だって叶うかもしれないエンドまで観客に見せた。
演者も含め女が主役の舞台なのに、男が一番救われて気持ちよくなってる感じがするんだよな。
特に若紫に嬉々として殺されようとする場面では、ペドフィリアがマゾ的快感を得ようと少女を利用しようとしている姿にしか見えなかった。
歌仙さんが殺してくれたけどさ、こいつはもっと惨めに、観客から軽蔑をもって物語から退場すべきだ。
物語は本当に美しいんですよ。
光源氏を憎しみながらも殺せない女たち。元凶を切る歌仙兼定。見逃したことで未来で芽吹くかもしれないifの物語。
最後の夜明け描写も含めて本当に美しかったが、こちらとしてはタランティーノの映画『デス・プルーフ in グラインドハウス』みたいに、女が元凶のクソ男を横から跳ね飛ばしてからボコボコにし(映画では横から男の車に向かって激突し、男の車を横転させた)ワンパン!ツーパン!!回し蹴りからの男ノックダウン!!!THE END!!!(ジャジャーン!!)な痛快なシスターフッドエンドを期待していたんですよ。
なのに男にぬるい展開で、つまんねーと思いながら見ていた。
そもそもこの舞台、伝えたい内容や物語の題材的には、男性作家の話でやるべきだったのでは。
だったら源氏物語に出てくる女たちの『なぜこんなにもたくさんの女たちを光源氏は苦しませたのか』『作者はなぜ私の容姿を嘲笑う話を描いたのか』の苦しみや抑圧のセリフも納得できるんですよ。
一見ロマンチックな話でも、そこには男性の都合のいいハーレム願望を満たすために物語は描かれ、聖女や娼婦はそこにいるが女は描かれていないという批判性がちゃんと帯びてくる。
でも源氏物語ってそうではないじゃん。
『頭のいい女は小賢しい』『お前が男だったら……』と蔑まれていた紫式部という女性作家が物語を描き、女たちを描いた。
原作を読むと天皇から愛されて迷惑だったとか、光源氏に誘拐されて、それでも兄として慕っていたのに裏切られて呆然となる若紫とか描かれている。
女が女の苦しみも愚かさも描いた作品なのに、源氏物語のキャラに『作者はなんでこんな話を描いた』『なぜ光源氏は私たちを食い散らかした』と言わせても、それまで知らなかったキャラクターの心の叫びを聞いているというよりは『人数が多いのは書くのが楽しくて人間関係を広げすぎちゃったからなのでは』『容姿を醜く書いたのは一定数そういう醜い女を読んで楽しむ読者がいるからでは。現代でもレディコミとか、ゴミ屋敷とトイプードルと私みたいな漫画が受けてるし』とか思っちゃう。
本当に後半が面白いと思えば思うほど、『これ古典の男性作家が書いた話を現代の女性脚本が新解釈で描いたら面白いって手法で、現代の男性作家が古典女性作家の作品でやったら結局、強権者の男が女から奪っている話になっちゃうじゃん』という考えが頭をよぎった。
なんか男が無罪化されている。
幼少期から『女が賢いと可愛くない』『お前が男ならどれだけ良かったか…』と言われ、それは大人になってからも変わらずそれでも物語と創作に救いを見出していた(それだって『女が書いたものなんか大したものじゃない』と言われていただろう)が、男の狂信者が現れ、男性社会が生み出した妄想(源氏物語に狂言綺語を記して好色を説いた罪で地獄に落ちた。そういう女を罰する宗教的の教えもまた男が考えた)に捕らわれたあげく、『僕が救うんだ!!』とばかりに作者である紫式部やその周りに人間を巻き込んで大騒動を起こしたオチ。
愛じゃねえんだよなあ。この迷惑読者。
せめてこの役割、紫式部の親友として小少将の君だったら納得できた。
紫式部の親友であり源氏物語の大ファン。誰よりも身近に紫式部を慕い、その創作活動を応援していた。
そんな彼女だからこそ『紫式部は物語を書いた罪で地獄に落ちた』ということが許せず、知らず知らずに闇落ちし(自分がこの騒動の黒幕だということもしらず)、紫式部に頼まれるまま源氏物語を破綻させようと奔走していた、ならわかる。
そういうシスターフッドを期待していたんですよ私は!!!(舞台の小少将の君はコミカルで何度も笑わせてもらったし、最高のコメディエンヌだった)
なんかあの偽物の光源氏の嫌な男さや、源氏物語の女キャラが自分達を苦しめてきた男性社会ではなく紫式部に恨み事を言う場面、冒頭で『女が賢いとロクなことがない』と男達が馬鹿にしていたのに、突然『貴方の物語は最高です!』と言ってくる男キャラが出てくる展開の唐突さとか、最高の舞台で最高のキャストで豪華絢爛煌びやかさ天上のごとくって感じだったのに、思い返すと脚本上のモヤモヤがどうしても残る。
《すべては三日月宗近に繋がっている》
ステを全部追っているわけではないんですが、いま三日月さんは行方不明で、本丸とは別の単独行動をしているんですよね?独自に刀剣男士達を救うために。
これってようは時の政府への反逆なんじゃないの?
軍隊(本丸)から離脱して単独行動を起こしてるって、組織から見たら単なる逃走兵ですよ。
独自に軍事行動してるって、頭を抱えるどころじゃない。
神様だろうが国宝だろうが結局は時の政府の道具でしかない刀剣男士が、独自の考えを持ち、独自の判断で所属している組織から勝手に抜けるの、ロボットの反乱みたいでめちゃめちゃ怖いな。
時の政府も三日月宗近も目指しているところは同じかもしれんが、人間に従属していない刀剣男士って単に恐怖なんだよな。
個人的には『刀剣男士を無間地獄から救うには時の政府を燃やすしかない』派なので、三日月さんがどう時の政府をぶっ壊し、刀剣男士達を自由にするのか楽しみです。
《ちょっと笑っちゃった大倶利伽羅の場面》
光源氏の役割が降りてきた大倶利伽羅のやんちゃな青年さも面白かったんですが、笑っちゃったのは末摘花に『どうして私の容姿を嘲笑うような和歌を詠んだのですか?!』と問い詰められたとき、あまりにも光源氏オリジンの非道さにドン引きし、『違う!私はこんなの詠んでいない!!』と思わず我に返った(自分の物語を思い出した)のが面白かった。
つまり大倶利伽羅自身は女の容姿を嘲笑って楽しむような男ではないってことなので、大倶利伽羅かわいいなーと好感を抱いた。
どうやって源氏物語を破綻させる?→光源氏をぶっ殺せば話早い。となる決断の速さも好き。
私もまったく同じこと思ってたので『気が合うな伽羅ちゃん!!』となった。