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タピオカと民主主義

 メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐なタピオカを除かねばならぬと決意した。メロスはインスタ映えがわからぬ。メロスは、ツイッターランドの住人である。うんこしたいと呟き、ラーメンの写真をアップして暮らしてきた。けれどもスレチ(※注)に対しては、人一番敏感であった。

 タピオカはインスタでやっていろ。多様性?民主主義?そんなものはツイッターに不要である。古き良き2ちゃん文化を頂きにおき、専制君主制にするべきなのだ。材料費率の低すぎるキャッサバ団子入り紅茶牛乳など笑止千万と常に訴えていた。

 ところがその魔の手もついに島民のところまで忍び込んでいた。相互フォロワーの友セリヌンティウスが、なんとタピ活をはじめたのだ。メロスはすぐさま友の手から容器を奪い、我が身をもってそれらを吸い込み、この世から消滅してやったのである。だが、

「……あれ、うまいやん?」
 メロスは思わず呟いた。いや、騙されてはいけない。
「でも、お高いんでしょう?」
 セリヌンティウスはやさしく微笑みながら友を諭した。
「これはコンビニで買ったジェネリックタピオカだよ。300円くらいだよ」

 それは新しい視点であった。
 高くないのなら、それほど否定する理由もない。高いタピオカを見せびらかして悦に浸るためのものではなく、民草が日常的に飲むために存在していた。

 メロスは改めてツイッターで「タピオカ」と調べると、流しそうめん器でタピオカを流したり、2Lボトルの午後ティーにタピオカを投入したり、タピオカパッケージのTENGAが誕生したりしていた。

 そう、タピオカは既存の文化にあわせ、融和し、進化を遂げた。
 「和」の精神である。

 己の信じるものばかりを正とし、相手を否定、排除するのではなく、それぞれの工夫をもって、受け入れすみ分け、とけあっていく。個性の織りなすグラデーションのなんと美しいことか。

 タピオカの多様性の中に、民主主義の素晴らしさを垣間見たサガコは、民主主義万歳とタピオカの写真と共に呟き、いつまでもツイッターランドで幸せに暮らしました。

※注意)
スレチとは、「その話題はスレッド違いだ」という意味。 スレッドは、大型の掲示板ではテーマごとにいくつも立てられているもので、明らかにそのスレッドとはテーマ違いだという発言があった時に使われる言葉。

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