短編•第十話【創作】
職場の後輩である杉本明菜の実家の近くには心霊スポットがある。彼女の通学路や両親の通勤路に面しているため、一日のうちには必ずそこを通ることになるのだそう。
「毎日心霊スポットのそばを通っているおかげで怖いものにもなれましたね。その結果、苦手だったホラーも何か好きになっちゃいました。」
「それで京都の怪談会に行こうと思うぐらい、ホラーにハマっちゃったのか。すごいね君は。」
件の心霊スポットは山間の河川をつなぐ大きな橋の近くに佇む廃墟だという。
「その家は、ある著名な霊能者が住んでいたと言われています。それが影響しているかは定かではありませんが、自然と近くの橋も心霊スポットと呼ばれていますね。」
加えて杉本明菜はその橋と廃墟についての、地元民ならではの見解を述べた。幽霊が出る、というよりかは変な人がやって来るのだそう。彼女によれば、ぬいぐるみや人形なようなものを持って廃墟へ出入りする輩を何人か見たことがあるという。
「霊能者が住んでいたことに加えて、そこへ訪れる変質者を幽霊か何かと勘違いして、自然に心霊スポットと呼ばれるようになっていったとか、そんな感じかな。」
「恐らくはそんな所だと。ただ、私は幽霊に遭遇した訳ではないんですけど気味の悪い体験をしたんです。」
確かあれは2022年のゴールデンウィーク頃。実家に帰省した時のことでしたね。そう前置きをして彼女は語り出す。
その日の晩、杉本明菜は両親の車を借りて夜のドライブを楽しんでいた。9時頃なってから風がとても強くなってきたこともあり、彼女は0時になる前に自宅へ帰ることにした。必然的にその家の近くを通ることとなる。
橋を渡りきって、その家の前を通り過ぎようとした時のことだった。助手席側から何かが、
バンッ
と車体にむかってぶつかる音がした。杉本明菜は一瞬パニックになり、路肩に車を停めてぶつかったものが何かを確かめようとエンジンをつけたまま車を降りた。
「何かにぶつけちゃったかなぁ。」
路肩に車を停めた杉本明菜は車にぶつかったものの正体を確かめるべく、車を降りて車体の周りを確認した。それだけでなく、車の周囲に何か異変はないかを確認した。車から見て左手には件の廃墟が暗闇の中に佇んでいる。
幸いにも。野生動物を撥ねたわけでも、車体をぶつけて何かを破壊したわけでもなかった。ただ、左側のフロントフェンダーに何かが当たった衝撃でわずかに凹んだ跡があった。そこから、視線を右に移すと向こうに何かが落ちている。強風で飛ばされて車にぶつかってきたものの正体はこれだった。
"それ"を見て、杉本明菜は何とも言えない不気味さを感じた。スマホで写真に撮ったようで、私も"それ"を見た。確かにとても気味が悪い。その反面、何でかは分からないが"それ"にどこか既視感を感じたのだった。