あなたのすぐ隣で、起きているかもしれない『となり町戦争』(三崎亜記)
HAKOMACHI 一日一冊 12/31冊目
タイトルで気になる本シリーズ、小説。
装丁から読書は始まっている。
読書好きにとって、装丁は大事なファクターの一つです。
読む、インプットの源泉である上に、
本は上質なインテリアであり、知的なファッションアイテムであり、
その見た目や手触りも大きな大きな意味を持っています。
特に小学生のころは、中身に対する知識も乏しいですし、おすすめ
の情報に触れる機会も少ない。
そんな時に心が揺さぶられる装丁は、自分が無意識に選んでしまうセンスを
教えてくれます。
『グラスホッパー』伊坂幸太郎の文庫本。
『図書室の海』恩田陸の文庫本。
『月光スイッチ』橋本紡の文庫本。
『注文の多い注文書』小川洋子とクラフトエヴィング商社の文庫本。
『いつか王子駅で』堀江敏幸の文庫本。
みなさんには、「この装丁好きなんだよな」という本って、ありますか?
ぜひ教えてください。きっと、傾向があるはずですよね。
『となり町戦争』三崎亜記
文庫本にはまり始めた僕は、当時本屋や図書館に行くのが楽しみでした。
両親とお出かけをして本屋に行くと、我が家は時間を決めて解散します。
15時にカウンターね、など。
すごい時は、終わりを決めずに、「じゃ」という時もありました。
こんな時は、一番最初に帰りたいと思った誰かが、他の2人を本屋の中から見つけ出すまで終わりません。
我が家にとってはごく当たり前の休日の過ごし方ですが、書いてみると、きっとそんな家庭は珍しいんだろうなあ、と思います。
図書館は、県立の図書館。日曜日に父がゴルフの打ちっぱなしで、車を出すのでその時に近くの図書館で私は下り、まさに本の森へと迷い込んで、本の海へと潜り込んでいくのです。
後から知ったのですが、私が通っていた宮城県美術館は、私の大好きな建築家・原広司さんの作品で、大空間の吹き抜けや高天井が贅沢で本を愛する人にとってはアミューズメントパークのような場所でした。
13時ごろに着いて15時ごろに迎えが来るまでの2・3時間、私は気になる棚の端から端まで見て、気になるタイトルの本を手に取っていくのでした。
本作は、そんな生活のどこかで出会った小説でした。
静かに、進行していく戦争
となり町戦争、というタイトルからすると想像つかないほど、
描写はアットホームで日常的。
主人公はとなり町の職場に出勤しているが、ある日町から偵察員として召集され、
諜報員として活動することに。
戦争の間も、出勤までのルートは変わらずの様相を呈していて、
だけど新聞には、昨日の戦死者という欄があって、確実に戦争は進行して行きます。戦争は町政、業務として淡々と行われていく。
戦争の背景にたくさんの資本が動く、と聞いたことがありますが、まさにそれを合理的に進めることを選んだ世界の話なのでしょう。異様さ、というよりかは一種の思考実験のような、上質なSFといった内容になっています。
そんな中で目が離せないのが、主人公と一緒に行動を共にし、業務のために夫婦となる香西さんとの生活です。
逃げ恥やSPY FAMI RYでも広まった偽装結婚的な設定。個人的には2人が夫婦としてとなり町に引っ越して、町のお店で観葉植物を見つける。なんだかかわいい名前のその植物を飼って2人が家に帰ってくる。というなんてことのないストーリーが挟まれていたりするのだが、日常の中で小さな幸せに溢れている一方で確実に戦争は進行していて、自分の業務がきっかけで誰かが死んでいく。そんなメッセージを含んでいるのかもしれません。
あなたの生活の裏には何が潜んでいるでしょう?あなたはどれに目を向けますか?