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ウメハラの「最強議論」批評シリーズ④:「属性最強議論」代表選手選考会議
本シリーズはウメハラの「最強議論」について、「属性最強議論」を中心として、議論を深めることを目的としたものです。
相変わらず格ゲーの話は一切していませんので悪しからず。
バックナンバーをお読みいただくと、流れが分かりやすいと思います。
それでは、「属性最強議論」代表選手入場!!
と言いたいのはやまやまなのですが、前回の結びにひとつ爆弾を落としておきました。まずはそれを処理しておかねばなりません。
ウメハラの主張する「風属性最強説」、「風」属性がさも当然のように「属性最強議論」の候補に挙がっていますが、これは妥当と言えるものなのでしょうか?今回はそこを検証していきたいと思います。はっきり言って、「属性最強」を決める議論はスタートラインにすら立っていません。うかつに一足飛びの議論を始めれば大けがをするだけです。まずは、地道に足場を固めていきましょう。
1.「属性最強」候補のベース
「最強」の候補となる「属性」とは何が挙げられるだろうか?そして、「風」属性はその候補として妥当と言えるのだろうか?
前回整理したように、ウメハラの配信では、候補のベースとして、まず「風」「火」「氷」「雷」の四属性が挙げられた。これは恐らくドラクエやFF、FEシリーズの「攻撃魔法」をイメージしたものと思われる。もちろん、攻撃魔法の応酬一辺倒で勝負が決まるような単純な議論では決してない。「補助魔法」も「攻撃」の範疇に含めるかどうか、「回復魔法」行使は認められるか、といった議論の余地はある。しかし、例えば「回復魔法」をどの属性の領域に配するかは議論の分かれる所だろう。ここでは一旦複雑な議論を退けて、ひとまず「攻撃魔法」をベースに議論を進めることとする。ここでいう「攻撃魔法」とは、RPG等のゲームをベースのイメージとして、単純に数値化されたダメージを与えるものをイメージすれば、およそ問題ない。
以下、「属性最強」を議論する、と言った際、大多数の人がイメージするであろうメジャーなゲーム作品をいくつか挙げ、「属性最強」の候補、及び「風」属性を候補とすることの妥当性を検証してみたい。
①ドラクエ
ドラクエで言えば「メラ」系「ギラ」系(火)、ヒャド系(氷)、バギ系(風)、デイン系(雷)といった「攻撃魔法」がベースのイメージにあると考えられる。なお、「イオ」系は、ゲーム中の説明としては「ばくはつ」であるが、「属性」という概念では解釈に迷う所である。
ドラクエシリーズにおいて「相性」の概念はあまり顕著ではないが、魔法の基本ダメージ量に対して属性(系統)ごとの相性(引き算形式)が存在している。ちなみに、「風」属性のバギ系はダメージの振れ幅の大きい魔法となっている。
②ファイナルファンタジー
FFでは「ファイア」系(火)「ブリザド」系(氷)「サンダー」系(雷)の3種が基本の属性魔法として存在し、「黒魔法」に分類される。「風」は「エアロ」系があるが、元々攻撃手段に乏しかった「白魔法」の攻撃魔法として後に追加され、作品によっては「青魔法」(敵が使う技のコピー魔法)に分類される場合もある。この他の属性として「水」「聖」「毒」「大地」等の属性が採用されている作品もある。これらは基本的に弱点、無効、吸収等の相性が存在しており、ゲーム性に大きく関わっている。
FFシリーズにおいて特筆すべき点として、本シリーズの主に初期ナンバーにおける象徴である「クリスタル」の概念が、攻撃魔法の基本属性とはまた別のスキームとして存在している点を指摘しておきたい。「クリスタル」には「風」「水」「火」「土」の4つがあり、それぞれの自然現象、引いては、それらに象徴される人間の精神をも司っている。水の心、いたわり…
言い換えれば、FFシリーズにはゲームシステムとしての属性と象徴・精神としての属性という2つのスキームが用意されているのである。
なお、ロマサガシリーズでは、この「クリスタル」のスキーム、すなわち「風」「水」「火」「土」が魔法(術)の基本属性となっている。(「光」「闇」や、それにあたるものとして「天」「冥」もある。)
ちなみに、ウメハラの議論では軌道修正後のベース属性が「クリスタル」の「風」「水」「火」「土」に変わっている点は興味深い。(ウメハラ自身はあまり意識していなかったかもしれないが。)
③ファイヤーエムブレム
FEシリーズでは、『暗黒竜と光の剣』『紋章の謎』は「火」「氷」「雷」を基本としつつ、「風」属性の「エクスカリバー」はやや特別な扱いで存在していた。(SFC版では「風」属性の基本魔法として「シェイバー」が登場した。)その後、『聖戦の系譜』『トラキア776』では、3すくみシステムが採用され、「相性」の概念がゲームシステムとして重要な意味をもつようになった。なお、「氷」属性は「風」に統合されて、「火」「風」「雷」の3属性となり、以降の作品では、多少の調整はあるものの、これが基本線となる。ウメハラが「最強」とした「風」と「最弱」とした「氷」が一緒くたにされているのは何とも皮肉なことである。なお、FEシリーズにおいては「光」「闇」属性も存在し、上記の基本属性との相性が設定されている作品もある。
しかし、全体としてその相性は、理屈としてはやや説得力に欠ける。「雷」は「火」に強い、「相克」の関係とされているが、実際には「雷」は「火」を生じさせる、「相生」の関係である。
④ポケモン
ウメハラの議論においては、恐らく想定されていなかったであろう作品としてポケモンがある。ポケモンほど属性(タイプ)の相性がゲームシステムとして重要な意味を持つ作品はなかなか無いだろう。いわゆる「御三家」に象徴される3すくみは「ほのお」「みず」「くさ」で構成されている。「草」はあまり他に類例を見ない属性であるが、3すくみの理屈としては、シンプルな説得力がある。(ロマサガ3の「風」属性にあたる「蒼龍」術は植物も操り、サガフロ2には「樹」属性がある。)
なお、御三家に比肩するものとして、ポケモンの「顔」であるピカチュウがいる。ピカチュウの「でんき」タイプは3すくみと合わせて主要な属性と言えるだろう。一方、「風」属性に相当するものは「ひこう」タイプがあるが、御三家+ピカチュウの存在感と比較すると、やや脇役感がある。
ポケモンのタイプについては、自然の物質や現象のような「属性」の概念に落とし込めるものもあるが、「飛行」「虫」や「格闘」のように属性とは言い難いもの、「エスパー」や「ドラゴン」のような超常的な存在や「悪」のような概念的なものもある。この点については、また別に論じたい。
2.表記ゆれと領域の重複
この他、メガテンシリーズやペルソナシリーズでも、「風」「火」「氷」「雷」の4属性が基本の攻撃魔法として存在するが、「風」にあたるものは「疾風」や「衝撃」など、作品によって表記が異なる。
このような表記ゆれは上述の作品でもしばしば見られる。例えば「火」は「炎」や「熱」、「氷」は「冷気」や「凍結」、「雷」は「電撃」等という具合である。これは、魔法がどのような作用をもたらすのか、という問題に大きく関わる。「氷」をぶつけるのと、「冷気」で物質の熱を奪うのとでは大きな違いである。「熱を奪う」のであれば「熱」属性の領分とも言える。
この領分を明確に区切ることは、議論の前提としては必須の作業と思われるが、実際には、それぞれの属性の領域がベン図のように重なり合って、相互に関与し合うものと理解しておいた方がよいのかもしれない。「火の賢者」が「氷魔法」を使えないなどという道理は無いのである。
要するに、上記の表記ゆれは、「どのように攻撃するか」という「手段」を表現した結果であり、根本的な「属性」を表すものではないと言える。
3.「属性」の象徴性
これ以上はキリがないので、ここまでで止めておくが、とにかく、今日のゲーム、とりわけRPGでは属性の概念をシステムとして取り入れているものが多い。属性の相性(特攻、弱点、無効、吸収、反射などを含む)はゲームの戦略や戦術、駆け引きの幅を広げる。
もちろん、これも飽くまでシステム上の設定と言えばそこまでではある。しかし、その作品が設定した属性、及び相性にどのような背景があり、どのように解釈できるか、という問題は非常に興味深いものがある。とりわけ、FFの「クリスタル」に代表される象徴性、精神性は、「属性」という概念にゲームシステム以上の意味を持たせる。
このような「属性」に対する概念的理解は、一見、「最強」の議論に関与しなさそうに見える。しかし、「属性」を極める程の「賢者」が攻撃のことしか考えない戦闘狂で、概念的理解に思索が及ばないことの方が余程不自然であろう。卓越した知性と精神の極致、そこには単に人を害する技を超えた「属性」の概念に対する深い認識があるはずであろう。事ここに至って、「攻撃魔法」のみをベースとする議論の前提はやはり修正せざるを得ない。「属性」の概念において、「攻撃魔法」などというものはむしろ余技なのである。そして、象徴性、精神性こそ「属性」の本質であると言える。誤解を恐れずに言えば、「心」こそ「最強議論」の要となる指標になるのではないか。そう、「心」じゃよ。
4.時よ止まれ
「属性」の象徴性は、その可能性をさまざまな方向に展開させる。
例えば、サガシリーズでは「水」属性は「時間」と結び付けられる。「水」の「流れ」や「波」、「氷」の「凍結」は、比喩として「時間」の「流れ」や「停止」を容易に想起させる。「水」術の「クイックタイム」や「オーヴァドライブ」がゲームバランスを崩壊させる程の極めて強力な効果をもっていたことは、今なお語り草である。とはいえ飽くまで比喩・象徴である、というのは確かにその通り、水に作用することで時を操作するという理屈はリアリティに欠け、十分な説得力を持たない。
しかし、記憶に残っている人もいるだろう。アニメ『トップをねらえ2』においてキャトフヴァンディスが放ったマイナス1兆2000万度の冷凍光線は、時間を凍結させるどころか、時間の逆行を起こしたことを。もちろん、これもSF、あるいはファンタジーの世界のトンデモ設定ではあるにしても、「氷」属性を軽々に「最弱」と断ずるには、余りにも多くの問題が残されていることはここに指摘しておきたい。「氷」属性を極めた者が時間にも干渉しうる、これは魔法が存在する世界であれば十分にリアリティのある、一つの可能性として提示できるであろう。(言うまでもないことだが、「リアリティ」と「リアル」は似て非なるものであることを念のため断っておく。)
このほか、例えば、皆さんは「生命」という概念を、どの「属性」に象徴させるだろうか?「水」や「光」という人が多いだろうか、「火」という人もいるかもしれない、あるいは「土」という可能性もあるだろう。これは、回復魔法をどの属性の領分とするか、という問題にも関連してくるし、逆に害意を持てば「生命」を奪う攻撃に転化することもできるだろう。
5.時間と空間、光と闇
象徴性・精神性に関連して、特筆しておきたい作品がある。『魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL』である。本作品は「スーパーロボット大戦」、いわゆる「スパロボ」シリーズの外伝的作品に位置付けられる。スパロボのオリジナルロボットである風の魔装機神・サイバスターを主人公機とした、いわゆるスピンオフ作品である。
本作には「風」の魔装機神の他に「大地」「水」「炎」の魔装機神が存在する。魔装機神には、それぞれの「属性」の上位精霊が宿っており、強大な力の源となっている。なお、本作にも相性の概念が存在しており、「風」→「大地」→「水」→「炎」→「風」…のように、前者が後者に対して優位性を発揮する。(「水」は攻撃手段として「氷」を操る場合もある。「氷」は「水」属性の低位精霊としても位置付けられている。同様に雷に類する属性は「炎」の低位精霊となっている。)
さて、この上位精霊はロボットの改造段階を最高まで上げることにより、さらに高次の「聖位」にランクアップする。以下は各属性と「聖位」属性との対応一覧である。
「風」 ➡「空」(「そら」とも「クウ」とも読める。恐らく後者)
「大地」➡「闇」
「水」 ➡「刻」(=「時(とき)」、「空」と対応する)
「炎」 ➡「光」(「闇」と対応する)
以上のように、「聖位」はそれぞれの「属性」の象徴性を示すような高次の概念に昇華していることが分かる。「水」が先述したような「時」の概念を象徴している点も共通している。「風」が「そら」や「空間」を象徴しており、「大地」が地の底の「闇」、「炎」が放つ「光」をそれぞれ象徴するという点も直感的に理解しやすい。そして、「時間」に対応して「空間」、「光」に対応して「闇」という、非常に洗練された対応関係を見て取ることもできる。(ただし、相性は上記のシステムがそのまま踏襲されるため、「時」⇔「空」、「光」⇔「闇」には、相性が発生しない。)
ここで注意しておきたいことは、「風」「大地」「水」「炎」と「空」「闇」「刻」「光」との間に、明確な上位下位の序列が存在しているという点である。「時」「空」はともかく、「光」や「闇」は「属性」としてある程度の実績があり、「風」「大地」「水」「炎」のような基本の属性よりも高次の概念とされる場合も少なくない。「風」「大地」「水」「炎」は表記ゆれこそあれ、FFのクリスタルにも当てはまる。しかし、作品によっては、より大きな枠組みとして「光のクリスタル」と「闇のクリスタル」があり、それぞれに従属する概念として、「風」「土」「水」「火」のクリスタルがある、という設定もある。
従って、「風」「土」「水」「火」のような基本属性はそもそも低次元の「属性」であり、「時」「空」「光」「闇」のような高次の概念を「属性」と見なした場合、基本属性は「最強」の候補にすら挙がらない、という可能性さえ浮上してくるのである。
6.今回のまとめ
というわけで、「風」属性が「属性最強」の候補たりうるか、という爆弾は、「風」属性はおろか「火」や「水」といった属性すらも巻き添えにして候補にすら挙がらない可能性がある、という形で誘爆を起こす結果となってしまったと言える。
とはいえ、「光」や「闇」のような高次の概念を「属性」と見なしてよいか、「属性」と見なしたとして、「風」や「火」のような基本属性と序列をつけてよいか、といった問題は積み残している。
また、「風」「土」「水」「火」の四属性は、やはり、ゲームシステムとしても、象徴性・精神性の点でも、オーソドックスなスタンダードたりうる可能性を捨象しきれない。この基本四属性は、ゲーム制作者がゼロから創造したアイデアではなく、遠大な歴史的・思想的背景があるためである。
そこで次回は、「風」「土」「水」「火」という「属性」の思想史を整理し、併せて「光」「闇」との序列の問題に関しても議論を深めたい。
面白くなってきたな!