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10 「イリーガル探偵社 闇の事件簿」 第三章 再現 1 人気ホストの殺害依頼〜

 非合法探偵社イリーガルの事件簿には、断片的には証拠があっても、どこまでが事実であるかの検証は難しいものがある。
 この章で描く「再現ドキュメント」は、あくまで、そのような話にわたしが肉付けしたものだ。

「再現1」 人気ホストの殺害依頼

依頼人はソープ嬢で看護師

「ソープランド嬢が、人気ホストの殺害を依頼した」という話があった。竹中によれば、この話の依頼人の名は「セリカ(本名)」という女だったという。セリカの父親は元暴走族で、「トヨタのセリカが好きだったので娘にセリカと名付けた」という。セリカから聞いたそんなエピソードを竹中は覚えていた。

 当時、竹中は免許証と保険証で本人確認をした。セリカは、吉原のソープランドでは相当稼いでいたが同時に看護師の勉強をしていた女子学生だった。ここではそのセリカが依頼主となったという「新宿のホスト襲撃事件」を「再現」してみることにしよう。

 交際していた中野ユウヤ(源氏名)というホストにだまされたというセリカは、竹中が経営するイリーガル探偵社に2000万円の報酬でユウヤの殺害を依頼した。

 セリカは吉原のソープ嬢として大金を稼いでいたが東京都北区の十条にある看護師を養成する学校に通っていたため当時は20歳ぐらい、2021年現在は36歳前後だと思われる。十条には帝京大学の医療技術学部看護学科もあるので、その卒業生であることも考えられる。セリカの実家は八王子近辺だったと竹中は記憶している。

 竹中は、セリカの学生証や健康保険証、および携帯電話の請求書を複写し、すぐに用意できるという1000万円の前金を池袋の事務所で受け取ってこの仕事を請け負った。それらの個人情報はすでに破棄されている。竹中に言わせれば、1000万円の手付金は大きいほうだったので忘れるはずのない依頼である。

 セリカから受領した1000万円のうち経費を300万円とし、残り700万円をアサクラと竹中で折半することになった。

 ポルシェ911に乗っている容姿端麗な知り合いの女に、竹中は5万円と飲食費を渡し、ホストクラブに行ってユウヤの行動確認を依頼した。その結果、ユウヤは東京都中野区の鷺宮と東中野を行き来していることがわかった。セリカは別の探偵事務所に依頼してすでにユウヤの住所を把握しており、ユウヤの行動をおおむね把握できた。ユウヤの乗っている車は赤のフェラーリだった。その車を東中野の駐車場で発見し、大手警備会社が提供しているペット用のGPSを、車の底に強力磁石で取り付けることに成功した。

実行犯は自称ヤクザ

 実行部隊としてはヤクザを自称する男ら2人を雇った。襲撃当日、ユウヤは中野区に住む自分の先輩家族とともに行動していた。しかし実行部隊らは、その先輩宅での襲撃は難しいと考え竹中に進言した。

 一方、新宿の歌舞伎町には、いたるところに監視カメラがあったため、実行部隊と話し合いの結果、新宿でユウヤを拉致することは難しいとの結論に達した。結局、男女2人の工作員をユウヤの勤務するホストクラブの店内に送り込み、レシーバーで店内の様子を報告させることになった。しかしユウヤはアフターの誘いにも応じず、この日の実行は断念することになった。

 アサクラから預かったアフラトキシン=カビ毒には使用期限があり、日がたつと効果が薄れる可能性があるため急いで実行することが望まれた。
計画を練り直し、日をあらためてセリカがユウヤに別れ話を持ちかけて、ユウヤを新宿のホテルのカフェに呼び出すことに成功した。その後、セリカの家からユウヤが荷物を持ち出したのを確認後、フェラーリで移動するユウヤをバイクと車で追尾した。中野区に移動することを見越して渋滞中にバイク部隊が駐車場に先回りした。

 実行したのは自称ヤクザら2人で、車から降りたユウヤに馬乗りになり鼻をつまんで口を開けさせ、アサクラが預けたアフラトキシンだという液体を強引に流し込んだ。

 犯行に使用した車は事前に用意した盗難車であり、バイクにも盗難ナンバーをつけて万一の発覚を防いだ。実行部隊には報酬をキャッシュで支払い業務を完了し、その後は一切の縁を持っていない。およそ3か月後、ユウヤは新宿に姿を見せなくなったという。

 ここまでが「人気ホストの殺害依頼」の「再現」である。

 この話については新宿のホストやスカウトらに話を聞いたが、当時、人気のあったホストはかなり多く、すでにホストを辞めた者も少なくない。結局、ユウヤなる人物を特定することはできなかった。
一方、依頼人のセリカは、かなりアサクラと深い縁がある女で偽造事件にもかかわっていた。いずれは会えるはずである。

「再現2」 復讐を依頼したマスコミ関係者


「復讐代行業」において、アフラトキシンの被害を受けた可能性のある事件をピックアップするなかで気になったのは、この、現役の新聞記者がからんでいたという案件だった。しかも依頼人の女もマスコミの人間らしいという。

 この話にはわたしの友人らも「眉唾もの」として首をかしげた。

 都市伝説やトンデモ話には、政治家や財界人、マスコミ関係者といった人間がよく登場する。そのほうが話としておもしろいからだが、そういう話は得てして創作の域を出ない。

「高学歴で責任のある立場の人が、そんな怪しい探偵に復讐などの依頼をするはずがない」
「不法侵入したという証拠はあるのか」
疑い深い友人らは、この女の依頼そのものを疑問視した。

 ここでは、この依頼人をカオリ(仮名)、その夫をマコト(仮名)と記述することにして、竹中の告白をもとに事件を「再現」してみよう。

依頼人の夫は、優秀な現役新聞記者


 2005年の9月ごろ、竹中はカオリからメールで相談を受け、成田空港近くのシティホテルで会った。

 依頼人のカオリは緩くウェーブのかかった豊かな髪に、うりざね顔の美人だった。カオリはマコトと結婚しているが事情があり、いまは海外にいる。話によれば夫のマコトは、現役の優秀な新聞記者だが、とても浮気性であり、それは病的なほどだった。マコトは何度か浮気をしている上に、いまも浮気中で愛人がいるのだという。「どうしても夫のマコトとは別れたくない。その浮気相手の女に復讐してほしい。そして2人を別れさせてほしい」とカオリはイリーガルに依頼した。

 カオリにヒアリングしたところ、マコトの勤務する新聞社名、自宅の住所、電話番号、そして自分の携帯番号や運転免許証までをカオリが示したため、竹中はカオリの話を信じて契約をした。

 当初の依頼内容は、「どうにかして、不倫をしている2人を別れさせる」ことだった。
「自分とは寝ないくせに、わたしの旦那は、相手の女とは、ばりばりやってるんです」
 夫の不倫に我慢がならない様子である。
 カオリは契約金額500万円に同意。着手金として約半額の270万円を現金で支払った。

 竹中としては、この程度の話で大きな騒ぎにする必要はないと考え、「浮気をやめさせたいのならば性病にでもかからせればいい」とカオリに提案。アサクラに頼んで、睡眠薬と淋菌の入ったアンプルを用意させ、カオリの自宅のあった地方の某駅で手渡した。

 その後、カオリは「睡眠薬をヨーグルトに混ぜてマコトに飲ませて寝込んだのをみはからって、下着を脱がせ、ビニール手袋を着けてから男性器に淋菌の液を丹念に擦り込んだ」と報告してきた。

 竹中は3回ほど依頼人のカオリと会った。1度目は空港、2度目は新幹線の中、3度目は埼玉県のJR大宮駅の西口にあるファーストキッチンだった。
 カオリは自分の勤務する会社名については明かしていないが、自分も報道関係者だと言っていたようだと竹中は記憶していた。
 手付け金とはいえ、この依頼人の場合は、200万円以上を支払っているため、竹中はカオリの勤務先を問いつめてはいない。依頼書にサインさせて、この復讐代行を受注した。残金は成功報酬とした。
 カオリとマコトの夫婦関係はすでに破綻していると思われたため、「復縁は難しいだろう」と竹中はカオリにアドバイスした。それが結果的には、「淋病に感染させて不倫をやめさせる」という強硬手段にカオリが同意した理由だった。

愛人宅を荒らす作戦に変更


 ところが数日してカオリから連絡があり、「潜伏期間は3日と聞いていたのに、1週間たっても夫には効果がない。まだ女遊びをしている。どうしてくれるんですか」と詰め寄ってきた。その剣幕はすさまじいものだった。
依頼人が女であることで甘く見ていた竹中は、「お金を払ったのに、どうしてくれるのか」という再三のクレームに閉口したという。

 しかたなく竹中はアサクラに相談した。アサクラが「その夫、マコトは淋病にかかったことのあるキャリアで免疫があるのではないか」と弁解するので、それをカオリに伝えた。

 しかしすでに金を払っているカオリが、そんないいかげんな説明で納得するはずもなく、さらにひどく抗議してきた。手慣れた感じでもあった。2時間以上相談した。竹中としては、この程度の金で、マコトの付き合っている女が死ぬような方法は使いたくなかった。しかしカオリの憎しみは尋常ではなかったから、仕方がなかった。

 竹中は、カオリの夫の不倫相手、すなわちマルタイの自宅に、「毒物の散布」をするしか方法はないと告げた。カオリに提案したプランはこうだった。
「夫の愛人の住まいはわかっている。そこに元ヤクザと泥棒からなる実行部隊を家に侵入させる。泥棒はプロなので容易に家に入ることができる。部屋に入ると彼らは猛毒のアフラトキシンをさまざまなものに塗布し飲み物やコップなどにも混入する。この毒はよく効く。このことで、その浮気相手の女は肝硬変などの病気になり、少なくとも2度とあなたの夫とは遊べない体になってしまう。アフラトキシンという毒物は、たとえ検出されたとしても決してバレはしない。しかし場合によっては女は死んでしまうかもしれない。安全をみて窃盗事件を装い、部屋を滅茶苦茶に荒らさせる」

 竹中はそのように説明したという。
 カオリは「そんな女、死んでもしかたないわ」と言ってプランに合意した。美しい顔をしているわりに度胸の据わっている女だと竹中は感心した。それは毒殺依頼だと思われた。

 夫の不倫相手を病気にさせたり、相手が死ぬかもしれないことを知って金を払って依頼して、相手が死んだ場合には殺人未遂や殺人罪が成立する可能性もあった。なぜならば「殺意」には殺害する意図だけでなく「死んでも構わないという程度の意図」であった場合も含まれるからだ。

 カオリの、愛人への嫉妬は特にすさまじく、その強い決意に、竹中のほうが二の足を踏んだほどだという。

窃盗専門の男とヤクザを起用

 金になるとはいえ、竹中にとって極めてリスクの高い仕事である。もしマルタイの女が死ぬようなことになれば、犯行が発覚する可能性は高くなる。わずかな額で自分も殺人犯になってしまう。なんとしてもバレないようにやらなければならない。そのためにはやはり実行部隊を厳選しなければならないと考え、竹中は保護施設でリクルートした窃盗専門の男と、元千葉のギャングで今はヤクザをしている男の、計2名を手配した。この手配には慎重を期した。親交のない者を選べば、万一、事件化しても自分のところにまで捜査の手が伸びないはずだと考えたという。

 2005年の11月ごろ、竹中に雇われた実行犯である窃盗専門の男とヤクザは、マルタイ(マコトの愛人である女性)の自宅に到着した。

 まず窃盗専門の男がマンションを確かめ、アルミサッシのガラスを上手に三角割りした。そして割れた穴から手を差し込んでアルミサッシのカギを開け、2人は留守宅にこっそりと侵入した。

 部屋にはだれもいなかった。そこで指示を受けたとおりに風呂場や洗面台のシャワーノズル、歯ブラシ、歯磨き粉、キッチンや冷蔵庫の飲み物や食べ物など、ありとあらゆるところに竹中の指定どおりに慎重に、預かったアフラトキシンの液を塗布したり散布した。

 空調機や加湿器は特に効果的だということで、エアコンには念入りに液を散布した。

 そして仕上げには、こそ泥の侵入に見せかけるために、引き出しの中のものを部屋中にぶちまけ、滅茶苦茶に荒らして逃亡した。
 その後、実行部隊は、足のつかない使い捨ての携帯電話から、「任務を完了しました」と竹中に連絡して、ひどく荒らされた部屋の写真を数枚、竹中に送った。
 これで作戦は完了したとだれもが思った。

 少なくともいままでは、同様のカビ毒をばらまいた案件では成果が出た。マルタイは病院に運ばれたり、その地域から姿を消したりして顧客の満足度も高かった。

激怒する依頼人に手を焼く

 ところが後日、この案件では、またカオリから竹中にすさまじい剣幕でクレームが入った。前回より明らかに彼女はパワーアップしていた。

「家を荒らしたことで警察に被害届が出されたことは確認できましたよ。でもわたしの夫は、まだあの愛人と仲良くしているんです。いったい、あなた、どうしてくれるんですか」

 海外にいるはずのカオリのほうが、なぜか事件の結果をよく知っていた。これは竹中にとっても驚くべきことだった。いったい警察への被害届などどうやったら確認できるのか。警察に電話をかけたとしてもそんなことは簡単には教えてくれないだろう。

 また、マコトが不倫相手といまも仲良くしているなど、マコトに聞かない限りわからないだろう。探偵という仕事柄、常々、尾行や調査をしている竹中が驚くほどにカオリの持っている情報は早かった。この女はただ者ではない。竹中はカオリの持っている「力」に不気味なものを感じていた。アサクラもそうだったという。

「2人を別れさせるという当初の依頼さえも完了していないじゃないですか。いったい、どうしてくれるんですか」

 カオリからの理路整然とした強いクレームに竹中は返す言葉を見つけることができなかった。依頼人第一主義の竹中である。依頼人がウソをついてケンカを売ってきた場合には容赦はしない。しかしこのケースでは、カオリが言うのがほんとうであれば、反論はできない。

 なぜアフラトキシンが効かなかったのか。いままでならばこれで簡単に仕事は終わったはずだった。アサクラがニセモノを渡したのか。それとも実行犯がきちんと実行しなかったのか。あるいはその愛人が部屋に立ち入らなかったのだろうか。竹中にはわからない。
 カオリの怒りは一向に収まりそうにない。マルタイがピンピンしているのだと強弁するからややこしい。

 何しろ依頼人であられるカオリ様は、夫のマコトが二度と浮気ができないように、その愛人を、殺害するなり障がい者にするなりといった、致命的かつ不可逆的な復讐を望んでおられるのだ。

 マコトとその愛人がまだ不倫をしているという。しかし、そんなことは現場に行ってみなければ確認できない。さりとて、犯行前ならばともかく、自分たちはすでに実行部隊をその愛人宅に不法侵入させ、めちゃくちゃに部屋を荒らさせたあとである。いまさらのこのこ出かけて行って、被害届けが出されているという荒らした現場や、新聞記者であるマコトの様子を探りに行くなど、もってのほかで得策ではない。

 竹中もアサクラも頭を抱えた。だがカオリの怒りは超ド級である。夫の浮気相手に嫉妬してポンと数百万を払う女である。放置すれば何をするかわからない。
 非合法探偵社イリーガルなどという大それた看板を掲げた男らが、ひとりの細身の女に完全に萎縮していた。

一部返金し事態を収拾させる

 結果的に、面倒を避けるために受け取った金のなかから、80万円を返金するはめになった。
「アサクラもですね、こんなことは初めてだと言って。文句言いながらも、しぶしぶ自分の取り分からも返金したはずなんですよね、あのときは」と竹中は回想する。

 ここまでが、「復讐を依頼したマスコミ関係者」の「再現」である。

 読んでおわかりのように、この「再現」では、登場人物でもあるカオリのキャラも立っており、テレビドラマ感が否めなかった。

 海外に住むという細身の美女に、「自分とは寝ないくせに、わたしの旦那は相手の女とは、ばりばりやってるんです」だの、「そんな女、死んでもかまわないわ」だのといった台詞を吐かせる。女の夫はなんと新聞記者である。しかも依頼した先の怪しい探偵会社は、女に性病菌を渡す。それに失敗すると、ヤクザや窃盗のプロを雇い、愛人宅に不法侵入させて、アフラトキシンなる猛毒をばらまかせるという筋書きである。よくできているがゆえに、「実際に起こした事件」なのだと言われても耳を疑ってしまう。

 ところがこの事件が他のものと違うのは、その依頼人であるカオリのものと思われる免許証のカラーコピーに加え、「調査申込書」や「念書」の実物があったことである。
 これほどの資料が揃っているのだから、事実関係を確認する必要があると思ったわたしは、後述するように、その夫、マコトの勤務先である新聞社の 訪問に踏み切ることにしたのだった。

「再現3」 フライトアテンダント事件


 アメリカ在住の悪徳医師を訴えてほしい
「アメリカで開業している悪徳整形外科医がいます。そこは、予約制で完全密室です。予約はネットでできます。カード決済です。診察を受けてもらい、この悪徳整形外科医にセクハラされた、と地元の警察に告訴してほしいのです」
 2003年の9月ごろのことだった。イリーガルにこんな依頼があった。
 そこで会ってみると、かなりセレブ風の美女だった。その振る舞い、紅茶の飲み方一つとっても、がさつな竹中とは違って品があった。

 依頼人の女は、500万円の予算があると言った。話をしながら竹中は算段したが、どう考えてもこの話は難易度が高く割に合わない。まず米国で警察にウソの告発をするということ自体が難しい。自分には経験値もなく、どんなに考えても成功するとは思えない。

 そこで竹中は、イリーガルでよく使っていたインテリジェンス要員の年配の男、通称「ジイ様」に、依頼主であるこの女の前で、携帯電話で相談した。
 警察のOBだったらしいというジイ様によれば、「向こうで告訴すれば取り調べが終わるまでは日本に帰れないだろう」との見解である。ジイ様はほんとうに、こういうことに詳しい。

 犯罪被疑者を自国の法律で裁くのは当事国の権利であり、同時に、それは被害者にも適用されるのだという。ちなみにジイ様というのは警察情報を容易に仕入れてくる便利なブレーンなのだった。

 この女の持ち込んだ話に対して、竹中は、万が一、依頼どおりできなければ依頼人と揉めるのは目に見えていると思った。
竹中は、突き放したように、その女に言った。
「外国となっては勝手が違う」
だが女は引き下がらない。
「どうしてですか」
「イリーガルの看板にキズをつけないためだ」
「どうしてもやってほしいんです」

 勝手に借金させて困らせたいなど、いろいろとくだらないことを言ってくる。しかし借金を偽装しようにも男の印鑑証明も実印も手に入らない。無理に決まっている。保険証など簡単に偽造できるが金融機関では保険証だけでは融資しない。要は、リスクばかりで稼ぎにはならない話なのである。
女はしぶとかった。そこで話をもう少し聞くと、その整形外科医師だという男は、日本に来ることもあるようだった。

 「恨みがあるのだろう。日本に帰国したときを狙って物理的に制裁を加えてはどうか」

 竹中は、そんな提案をした。
「幾らでならやってくれますか」
「幾らなら払えるんだよ。それによって程度も違うよ」
この話に乗り気でなかったものの、1000万円という大きな額を提示すると、女は、「少し考えさせてください。また連絡します」と言って帰っていった。

セレブ風の女の、しつこい依頼


 だが、その後、また連絡がありファミレスでその女と会うことになった。
「いままで有難うございました。わたし、とてもじゃありませんが、やはり先日の金額では頼めませんの。もし差し支えなければ、何と申しますか、はした金でも動いてくれる不良はいませんか」

 女はそう頼み込んでくる。竹中は面倒になり「もう関係ないね。オレ、帰るわ」と言ったが、女は、懇願し、いまにも泣き出しそうだった。泣かれては困る。店は混んでいる。

「わずかですが、紹介料は払います。どうかお助けください」
「金は要らない。イリーガルの紹介だと言え。警戒されるかもしれないが当たってみろ」と言って、地下サイトで暗躍しているやつらの連絡先を教えた。
数か月たってから、また女から事務所に電話があった。今度は自分の友達が相談をしたいという。そして実際に、女は自分の友達だという女を連れて、イリーガルの事務所やってきた。

 2人は、いろいろなことを懇願してくるのだが、竹中のほうは、美女2人をこの場で押し倒して犯したらどんなに楽しいだろうといった妄想にかられ、大きくなった股間を隠していた。

 連れて来た女の口から出る言葉というのは、外国人からだまされたのとか、復讐したいということばかりで、この2人はやっぱり完全にイカレているのかもしれないと思った。

 その後、外でも何回か会ったが、あまりしつこいようなら、インターネットで公開してやろうと思い、こっそり写真を撮っておいた。

(11に続く)


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1 「イリーガル探偵社 闇の事件簿」 序章
奇病・ターキーXとアフラトキシン

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