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御徒町エレジー第14話【夜明けの神隠しスポット】
御徒町、午前6:30。
ここは昭和通り。
人もまばらな早朝の時間帯。
急ぎ足で目の前を歩くリーマン。
小走りで駆けていく作業着のオッさん。
フッ・・・
アレッ?
き、消えた・・・
次々と目の前の人が消えてゆく。
こ、これは神隠し!
謎のミステリースポットに近づいてみる。
早朝なのに灯りがついてる店。
そうか。
神隠しの真相はこの店だ。
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コーヒーショップもまだオープンしていない時間。
まだ明けきらぬこの街に浮かぶ、オレンジに灯る看板を目指し、オッさんたちが夜光虫のように引き寄せられ、そして店内に吸い込まれていく。
この御徒町の地に赴任してまだ一年足らずだが、以前からこの店の蕎麦は食べたことがある。
新宿にある、思い出横丁(通称:しょんべん横丁)
その通りの一角に、この「かめや」があるのだ。
新宿店は屋根はあるけど壁が無いオープンスペース。
屋台のような半野外で食べる開放感が好きで飲んだ後よく行っていた。
そして、こう思っていた。
〆はラーメンではなく、蕎麦。
俺って、ヘルシー思考だなと。
ここ御徒町で、この店を見つけた時はフラワーロックのように小踊りしたものだ。
何より素晴らしい所は値段の安さ
いつも1,000円近くかかるランチ代が半分で済んでしまう。
例えばこの組み合わせ。
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きつねそば(420円)
ジャンボ五目いなり(100円)
合わせても520円だ。
そして、5分もあれば平らげてしまうので、その後の休憩時間がたっぷり余るという算段である。
オイリーかつ、ボリューミーな昼メシが続いた時の内臓を労わる調整日にもってこいなのだ。
店内は立ち食いではなく、椅子が設置してあり、水はセルフ。
現金オンリー前払い制。
客の7割がお供に頼むこのジャンボ五目いなりは、ここでしか食べられない逸品。
昼の遅めの時間に行くと品切れになっている事も多い。
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甘酸っぱい酢飯が甘〜いお揚げにギチギチに詰まったいなり。
どこか懐かしい味がする。
そして、鰹節がキリッと効いた黒く濃い蕎麦つゆ。
これが、甘酸っぱいいなりと絶妙なマリアージュ。
蕎麦は茹でたてで、歯ごたえがあり、冷やしで味わうとより美味さを実感できる。
そして、名物の天玉。
かき揚げがまずデカい。
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注意点としては、早めにかき揚げを食さないと、どんどんつゆを吸って、お供とのマリアージュが楽しめなくなってしまうことだ。
揚げたてのかき揚げにありつけた時はラッキーだ。
行儀は悪いが、俺はお供の皿に一度かき揚げを避難させ、下にひっそりと身を潜めている卵を崩し、つゆと一体化させる。
カリカリのかき揚げをかじり、蕎麦をすすり、つゆを飲み、お供を頬張る。
そして、最後にカウンターに置いてある、蕎麦湯を注ぎ残りの汁を飲み干す。
もうこれで俺の少女の胃袋はパンパンに満たされるのだ。
そして、油ものを平らげたあとなのにこう思うのだ。
今日のメシはヘルシーだったと。
そして、若干の胸焼けと喉の渇きを感じながら、明日のランチを考える。
時は満ちた!
そろそろアレを食うか!
第十五話へ続く