5歳年下の彼氏
高校二年生といえば、そろそろ受験を意識し始めるころかもしれません。でも私にはそれ以上に大切にしたい人がいて、それどころではありませんでした。
恥ずかしきかな、私の彼氏は五歳年下の中学一年生でした。今になって思えば五歳差なんて大したことはないけど。
私は女子校に通っていて、あのこは男子校に通っていて。毎日途中の駅で待ち合わせして、毎日同じ駅まで通学していました。土日ももちろんあのこと一緒で、勉強したり、遊んだり、とにかく毎日があのこと一緒でした。
満員の地下鉄も、二人なら世界ごと明るくって。
全てが愛おしくて、全てが完璧な毎日でした。
帰りは一緒に帰れなかったけど、たまにあのこを見つけると抱き合ってしまうほどでした。
あのこのことは愛おしくて。
でも、実は何も知らなかったんだ。
ある日を境に行き帰りの電車であのこを見なくなってしまいました。
地下鉄は暗く、響く轟音は耳をつんざくようになりました。
私は受験勉強も手につかず、何もせずに過ごす日々を送りました。
せめてあのこに手紙を書きたいと思い、感情を綴めもしました。しかし宛先が分かるはずもなく、切手も貼らずにポストに投函してしまいました。
その翌月、いつもの待ち合わせの駅であのこの姿を偶然見かけました。プラットフォームの雑踏の中をかき分け、やっとの思いで近付くと、沢山の友人に囲まれたあのこが見えました。
あのこは私を一瞥すると、無言で手紙を差し出してきました。周りの「ヒューヒュー」なんて声が恥ずかしくて、私は咄嗟に手紙を握りしめて逃げ出しました。
そして、あのこからの手紙は、一週間開けられずにいましたが、八日目にようやく開封する決意をしました。そこには
「僕にはあなたは釣り合わない。あなたにはもっと素敵で、僕には持ってない感性を持った大人と付き合ってほしい」
と綴められていました。しっかりとしたあのこらしい字で。
私はそれを見たとき、ただただ何が起きたのか分かりませんでした。私にはあのこしかいないのに。なんで。でもきっとつまり、私のことが嫌いになっちゃったんだと思って納得しました。
それからしばらく経ったときのことです。下校時間に、私の学校の前にあのこが立っていたのです。
私は意図がよく分からなくて無視しましたが、あのこは私の制服の袖を引っ張ってきました。
あのこはただ何も言わず、悲しそうな顔をしてじっとしていました。でも、あのこより先に泣いちゃったのは私でした。
もちろん、次に泣いたのはあのこ。
下校中の生徒から冷ややかな目で見られても、私達は涙が止まりませんでした。
私はあのこを不安にさせちゃってたんだ。あのこは私を嫌ってなんかいなかったんだ。そう気付きました。
だから二人で「ごめんね」をしました。
二人は一生離れてはいけない。そう思った瞬間でした。