私が映画『シサム』をしつこいくらいリポストする理由〜情けは人のためならず〜
ことの起こりは5年前、一通のメールでした。
「僕今度映画のプロデューサーをやることになりました。つきましては脚本で是非ご協力いただきたく」
メールの主は、私がユタの取材で訪れて以来、ひとりでよくフラリと行くようになった、奄美群島のとある離島の宿で紹介された編集者の男の子です。
私が良く行くその島の宿というのは不思議な女将が経営していて、彼女はいわゆる「見える人」で、その彼を紹介される時も、
「もうじき東の方からなんか若い面白いのがやって来る。だから尾崎ちゃん(私の本名)、あんたにぜひ引き合わせたい」
という、まるでロードオブザリングの序章のような紹介のされ方でした。
(しかもこれがよく当たるのです)
その若い面白いのは当時まだ20代で、見た目はプチ西郷どん、当時は某出版社の契約社員で、開口一番、
「僕、総理大臣になりたいんです」
と言ったのが印象的でした。
しかもこの人、もしかしたら本当に総理大臣になっちゃうんじゃないかな、と思わせる感じがあって、そんなことを言われたのに笑えなかったのを覚えてます。
彼はいわゆる人たらしで、その人脈はものすごく、たまに東京とかで彼に呼ばれる新春書き初め大会やらマグロの解体ショーやらも、そこに集う錚々たる漫画家さんのラインナップを見て、私は今ここに爆弾落ちたら日本の漫画界終わるだろうな、と余計な心配をしたものです。
その彼からの突然の「僕映画つくります」宣言です。
しかもお題はアイヌだという。
とりあえず話を聞こうじゃないの、と私は身を乗り出しました。
いわゆるファーストペンギンというやつです。
まだ誰からも相手にされてないけど面白そうなものにはとりあえずベットする、が私の得意技のひとつですが、それまでの彼との付き合いから彼が有言実行型の人間であることを知っていた私は、彼がこのために私財を投げうち、借金までして会社を作ったと聞いた時に協力することに決めました。
自らすすんでリスクをとる人は大きなことをやってのけるからです。
当時はちょうど映画『ゴールデンカムイ』の実写化が決まったという噂を耳にした頃で、どうせやるならあっちとかぶらない映画にしよう、こっちにしかできないことを詰め込んだ映画にしよう、ということで関係者一同の意見が一致しました。
なかでもいちばん大事だったのは、作品のテーマの当事者である、アイヌの人たちにとことん寄り添った内容の映画にすることでした。
私たちが誇りに思える映画にしてください、とアイヌの方たちに言われ、そのことだけは何があっても死守しようね、と言い合ったものです。
脚本家が決まったことで人集めがしやすくなり、撮影地の白糠をはじめ、阿寒、白老、二風谷とアイヌゆかりの地にシナハンに赴き、やがて監督や監修、制作会社も決まり、脚本も7稿、8稿と稿を重ね、紆余曲折の末、おおむね方向性が決まったところでさあいよいよ本格始動だ、となった時。
まさかのコロナ禍ですべてが中断。
一時はもうこのままダメなのかなと思ってしまったくらいです。
しかし彼は諦めず、やがて再び「再始動です」という連絡が届きました。
そしてキャストも諄々と決まり、主演が寛一郎君に決まったと聞いた時にはやったーと小躍りしたものです。
撮影開始は2023年6月。
メインのロケ地は、シナハン中何度も足を運んだ北海道の白糠町です。
そもそもの発端は彼がここの町長さんと仲良くなったことで、ここ白糠を舞台にアイヌを題材にした映画を撮らないか、という話になったのだそうです。
白糠はふるさと納税返礼品の物産が豊富な町で、彼が最初私の家に脚本の相談に来た時も、「ここはイクラが食べ放題なんですよ」と色鮮やかなパンフレットを見せられた時に私の心が決まったくらいです。(我ながらチョロいとおもいます)
そして白糠は町なのに東京23区と同じくらいの面積があり、北海道原野の大自然が残っていて撮影にはぴったりの場所でした。
しかし、熊とマダニが出るのです。
幸い私も村人役の一人として撮影に参加させていただくことになったのですが、注意書きのパンフレットには、
「クマに襲われた時の対処法」と
「マダニに噛まれた時の処置」
がそれはもうこと細かに書かれていて、実際、現場ではマダニに噛まれた人もいて(大変だったそうです)、ハードボイルドな現場でした。
初めてのことばかりでいろいろ大変な現場でしたが、撮影は無事終わり、今月、めでたく公開の運びとなりました。
もうなんというか、感無量です。
私はほんのちょっと最初の段階にお手伝いしただけでしたが、いいものができる時というのは、その裏に必ずひとりの人間の熱意があるのだなと知りました。
大変貴重な経験でした。
私がこの映画をしつこいくらいリポストするのはそれが理由です。
嘉山君、おめでとう。
あなたのおかげで私は今回たくさんのご縁に恵まれ、素晴らしい友人も得て、しかもそのつながりで映画『ゴールデンカムイ』にまで出ることができましたよ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます! 見ていただくだけでも嬉しいですが、スキ、コメント励みになります。 ご購入、サポートいただければさらにもっと嬉しいです!