今までになかった「逆算」の打撃論 書籍の仕事まとめ#27 広澤克実さん著『インパクトから考える新しいバッティング論』
打撃の設計図をつくる
みなさんは、広澤克実さんにどんなイメージを持っていますか?
現役時代の豪快なバッティング?
解説者としての軽妙なトーク?
僕も、この取材で広澤さんにお会いするまでは、そんなイメージを持っていました。
それが、1回目の取材で「緻密な理論なんだ!」と変わりました。
打撃フォームの説明は、「こんな感じ」という感覚的な話ではなく、
「設計図」を見せていただくように進みました。
広澤さんがバッティングの設計図をつくったのは、キャリアの晩年。巨人時代の1999年ごろだそうです。
このシーズンの序盤に右肩を骨折。復帰した際に、自分のバッティングの感覚を失った、と。
そのときに「バッティングの基本ってなんだろう?」と突きつめていくうちに、感覚ではわかっていたはずなのに、うまく説明できなかった。
そこで、広澤さんは「感覚だけではダメだ」と考えて、誰が、いつ見ても同じ打撃ができあがるような「設計図」をつくろうと決意されました。
設計図があれば、打撃フォームが崩れても、元に戻せます。
感覚だけでは、取り戻せるかどうか、わかりません。
こうしてバッティング理論を突きつめていった広澤さん。41歳で現役を引退した後も研究や勉強を続け、物理的に正しいものができあがっていきました。
その過程で、広澤さんは
「野球界の常識と言われていることには、物理的に間違っているのに、先入観や固定観念で正しいと思い込んでいることが多い」
と気づいたそうです。
バッティングの完成図とは?
広澤さんがつくりあげたバッティングの完成図は、
「どうすれば正しいインパクトを迎えることができるか」
を表したもの。
正しいインパクトとは、「バットのヘッドスピードが最大になるところでボールをとらえる」こと。
「すべてのミートポイントは、みぞおちの前」と広澤さんは言います。
そして、広澤さんはこの正しいインパクトから〝逆算〟して、打撃を考えていきます。
正しいインパクトを迎えるためにどうやってトップをつくるか。
そのトップをつくるために、どうやって構えるかーーというように。
「逆算する」というのは今までの本にはない点。この説明のおかげで、広澤さんの打撃論がすんなりと頭に入ってきます。
打撃の8枚の設計図とは?
もし、バッティングが「ど真ん中のストレートだけを打つ」ものであれば、1つの打ち方で打てるはずです。
しかし、ストライクゾーンは立体です。
アウトコースもあれば、インコースもある。
高めもあれば、低めもある。
ストレートだけではなく、変化球もある。
つまり、2×2×2=8つの打ち方(設計図)が必要ーーこれが広澤さんの考え方です。
8つの設計図がどういうものかは、本書で詳しく説明されています。
8つの設計図が揃って、初めて立体的なストライクゾーンに対応できます。
言いかえると、「バッティングの基本」は1つではない。
なのに、1つの基本をすべてにあてはめよう考えている人が多い。
たとえば、右打者に対して「右肩を落とすな」と言う人がいますが、
低めの球は右肩を落とさないと打てません。
これが、広澤さんの仰る「正しいという思い込み」です。
本書では、この8枚の設計図のほかにも、打撃について詳しく説明されています。
最後に、広澤さんの取材のなかで、印象に残っている言葉をご紹介します。
「私は『あきらめなければ夢は叶う』という言葉を信じていません。
夢は、そんなに簡単に叶うもんじゃない。
ただ、夢を追い続けていれば叶う可能性があります。夢を追うことをあきらめてしまったら、叶う可能性はゼロです」
本書『インパクトから考える新しいバッティング論』は、野球選手はもちろん、指導者にとって多くの学びがある一冊です。
広澤さんの言葉と理論に触れ、バッティングの奥深さを探求してください。
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