国土交通省(国交省)統計(「建設工事受注動態統計」データ二重計上)不正
国交省「建設工事受注動態統計」データ二重計上
日本経済新聞(「建設統計書き換え、国が指示 検査院が19年に指摘」2021年12月25日)は「国土交通省が毎月の『建設工事受注動態統計』で2013年度からデータを二重に計上していた」と報じた。
国土交通省が毎月の「建設工事受注動態統計」で2013年度からデータを二重に計上していたことが15日分かった。調査票を建設業者から集める都道府県に対し、受注実績を実質的に書き換えるよう指示していた。国交省は不適切との認識が薄かったと認め、国内総生産(GDP)など他の統計への影響を検証する方針を示した。
国交省は同日夜、一連の問題に19年秋ごろに気づいていたと明らかにした。会計検査院の指摘がきっかけだ(以下略)
国交省統計書き換え、岸田首相が再発防止指示
時事ドットコムニュース(「国交省、統計書き換え 8年前から二重計上―法抵触の恐れ、岸田首相が再発防止指示」2012年12月25日)は、国土交通省は「建設工事受注動態統計」について「調査票を書き換えて二重に計上し、8年前の2013年から過大に推計されていたと明らかにした。調査票を建設業者から集める都道府県に対し、受注実績を書き換えるよう指示していた」と報じた。
また「斉藤鉄夫国交相は15日の衆院予算委員会で過大計上した事実を認め、陳謝。首相は『大変遺憾だ。二度とこうしたことが起こらないよう再発防止に努めなければならない』と述べ、過去の経緯の確認を急ぐ考えを示した」とも報じた。
建設業の毎月の受注動向を示す「建設工事受注動態統計」について、国土交通省は15日、調査票を書き換えて二重に計上し、8年前の2013年から過大に推計されていたと明らかにした。調査票を建設業者から集める都道府県に対し、受注実績を書き換えるよう指示していた。政府統計への信頼が揺らぎかねず、虚偽報告を禁じた統計法に抵触する恐れもあり、岸田文雄首相は関係省庁に再発防止を指示。国交省も過大計上が始まった経緯や他の統計への影響などについて調査し、実態解明を進める。
今回問題が発覚した統計は、建設業者が公共機関や民間企業などから請け負った工事の実績を集計する。国内総生産(GDP)の推計などにも活用され、政府が特に重要と位置付ける基幹統計に当たる。18年末に発覚した厚生労働省が所管する毎月勤労統計の不正に続く不祥事となる。
斉藤鉄夫国交相は15日の衆院予算委員会で過大計上した事実を認め、陳謝。首相は「大変遺憾だ。二度とこうしたことが起こらないよう再発防止に努めなければならない」と述べ、過去の経緯の確認を急ぐ考えを示した。
統計調査の過大数値、再発防止や影響確認指示
産経新聞(「統計調査の過大数値、再発防止や影響確認指示」2015年12月25日)は、松野博一官房長官が記者会見で「「政府統計の信頼性は極めて重要で、指摘を受けたことは大変遺憾だ」と語ったと報じた。
松野博一官房長官は15日の記者会見で、国土交通省が公表する「建設工事受注動態統計調査」が実態より過大な数値になっていた問題で、国交省に至急の調査と再発防止の徹底を指示したと明らかにした。
松野氏は、今回の問題について、事業者が期限後に提出した過去の調査票の数値を国交省が当月分に含め集計していたと説明。会計検査院の指摘で運用を改善したとした上で「政府統計の信頼性は極めて重要で、指摘を受けたことは大変遺憾だ」と語った。
この統計は政府の経済政策の判断材料となる国内総生産(GDP)の算出などにも使われており、「統計法を所管する総務省をはじめ、関係省庁が連携して確認するよう指示した」と述べた。
斉藤鉄夫国交相については「再発防止徹底に向け、国交省をしっかり指揮していただくことで責任を果たしてほしい」とした。
間違った前提で国の政策が議論された問題
朝日新聞デジタル(「国交省統計不正『GDPのためでは』 社民・福島氏」2021年12月15日)は社民党・福島瑞穂党首の国会内での記者会見での発言を記事にして報じている。
その記事によると、福島瑞穂党首は「重要な統計が間違っていたら、私たちはGDPは増えているのか、減っているのか、どうなのか、間違った前提で、まさに国の政策、社会の政策を議論するわけで、本当に問題だ」と述べている。
社民党・福島瑞穂党首〔発言録〕
(国土交通省が基幹統計の集計データを書き換えていた問題について)本当に私たちが前提としている国の統計は一体何なのか。
8年前というと、ちょうど安倍政権の時だ。基幹統計はGDPの算出などに使用されている。結局、「GDPは上がっている」と言うために、基幹統計を書き換えたのではないか。「アベノミクスは成功している」ということを役所は手伝う、あるいは、忖度(そんたく)なのか分からないが、なぜ書き換えたのか。誰が命じて、誰が始めたのか。誰が知っていて、今までなぜ放置していたのか。党としてしっかり追及していく。
重要な統計が間違っていたら、私たちはGDPは増えているのか、減っているのか、どうなのか、間違った前提で、まさに国の政策、社会の政策を議論するわけで、本当に問題だ。(国会内の記者会見で)
受注統計不正問題と毎勤統計不正問題の類似点
平田英明・法政大学経営学部教授は、『国土交通省「建設工事受注動態統計」問題を紐解く(上) 』(東京財団政策研究所)と題した記事の中で、今回の国土交通省・建設工事受注動態統計不正と2019年の厚生労働省・毎勤統計不正との「類似点」を指摘。
つまり「今回の受注統計問題と毎勤統計問題の特に重要な類似点の1つ目は、いずれの問題も霞ヶ関内部で発生したこと」「2つ目の類似点は、統計調査方法の変更を公表しなかった(もしくは事後的に公表した)点」「3つ目の類似点は、2016年の経済産業省による繊維流通統計調査の不正という前例が既にあったこと」。
次に今回の問題と毎勤統計の問題を比べてみたいと思う。毎勤統計の問題は、煎じ詰めていえば、厚労省内部で統計の作成方法が所要の手続きを経ずに勝手に変更され、公表されなかった問題である。具体的に問題となったのは、①2004年以降、東京都で大規模な事業所に対し全数調査からサンプル調査への変更を行ったことを公表しなかったこと、②サンプル調査から全数を推定する抽出率調整を怠った結果、賃金が高めの傾向にある大規模事業所分が過小評価されたこと、③2018年以降に始めた従来と異なる抽出率調整について公表しなかったこと、の3点である。
今回の受注統計問題と毎勤統計問題の特に重要な類似点の1つ目は、いずれの問題も霞ヶ関内部で発生したことである。毎勤統計問題の際、この点については統計法の第9条第1項、第11条第1項、第60条第2号に反するか否かということが、焦点となった[21]。第9条第1項においては、基幹統計調査をする場合に予め総務大臣の承認を得る必要があること、第11条第1項においては、第9条第1項の承認を受けた基幹統計調査を変更する場合には予め総務大臣の承認を得る必要があることが定められている。また、第60条第2号は、「基幹統計調査の実施に当たって、架空の調査票を捏造する行為、調査票に記入された報告内容を改ざんする行為、基幹統計調査の集計過程においてデータを改ざんする行為」を行った基幹統計作成従事者は罪に問われるとしている。受注統計問題についても、同様の論点が今後議論されることになる可能性が高いだろう。
2つ目の類似点は、統計調査方法の変更を公表しなかった(もしくは事後的に公表した)点である。受注統計の場合、国交省が「書き換え」を始めた事実、始めた時期については公表をしていなかった。より丁寧にいえば、2021年4月分の統計公表の際、2000年4月分~2021年3月分の受注統計では、「報告者のやむを得ない事情等により提出期限から遅れて提出があった調査票については、可能な限り当月分の調査結果に反映させるよう柔軟な運用を行っているところであるが、それでも間に合わない調査票は、翌月に実績があったものとして計上している」との発表を初めて行っている。筆者の確認した限り、2021年4月分の公表以前にはこのような記述はなかった。つまり、この運用をされていたことは、ユーザーには知らされていなかった。更に、「当月分の調査結果に反映」及び「翌月に実績があったものとして計上」という記述からは、当月1か月分のデータの提出が遅れた場合は、それを翌月に計上している、という趣旨に読める。しかし、朝日新聞の報道の指摘は、1か月に限らず、複数月分についてまとめてこの運用がなされ、かつそれが調査票の「書き換え」という、統計法第60条で「真実に反するものたらしめる行為」とされる方式で行われたという事実である。
3つ目の類似点は、2016年の経済産業省による繊維流通統計調査の不正という前例が既にあったことである。経産省内部で数値をねつ造したり、数値の作成方法の変更を公表しなかったり、不正開始時期が不明であったりと、本質的な構図はかなり似ている[22]。受注統計については、一般統計の繊維流通統計調査の不正だけではなく、より重要な基幹統計である毎勤統計の問題も起こった後のことであった。いずれも問題発生の後、統計委員会による点検検証がそれぞれ行われたにも関わらず 、点検検証の場で今回の問題が国交省から報告されることはなかった[23]。当時、国交省内で問題として意識されていなかったのか、意識されたが隠そうという話になったのか等々、解明していく必要があるだろう。
筆者が最も残念なのは、一連の問題を見ていると、政府統計のメーカーとしての矜持が国交省に感じられないことだ。毎勤統v後は、記入内容をOCR(光学式文字読み取り装置)で読み込み、電子データ化している。
この統計の調査規則は、電子データを「永年保存しなければならない」と定めている。だが、現在保存されている多くが、書き換え後の内容であるため、そこから書き換え前の正しいデータを把握することはできない。
書き換え作業を担っていた都道府県の現場にも、正しいデータは残っていないとみられる。現場では、正しいデータを消しゴムで消して、別の数字に書き換えていた。東日本の自治体の担当者は取材に「書き換える前の数字は控えておらず、さかのぼって知る方法はないと思う」と話した。
一方、電子データ化する前の紙の調査票は、保管期限である2年分は残っているものの、書き換えられていれば、そこから正しい数値を知るのは難しい。
日本経済新聞は「国土交通省が国の基幹統計『建設工事受注動態統計』を書き換えていた問題で、同省は2018年度より前の調査票を破棄していた。過去データの破棄は18年末に発覚した厚生労働省の『毎月勤労統計』の不正でも問題となったが、教訓は生きなかった」(「国交省の統計問題、過去データ破棄 GDP再計算が困難に」2021年12月18日)と報じた。
また「書き換え分を含めて原本がなければ数値の復元は困難で、国内総生産(GDP)を再推計する作業への波及が避けられない。主要統計の信頼を揺るがす懸念もある」と指摘。
追記:「建設工事受注動態統計」問題を紐解く
国土交通省「建設工事受注動態統計」問題を紐解く(アップデート) | 平田英明 | 東京財団政策研究所(2021年12月20日)
追記:二重計上による差額「月当たり1.2兆円」
毎日新聞は「国土交通省は20日の参院予算委員会で、国の基幹統計『建設工事受注動態統計』を同省が無断で書き換えて二重計上していた問題について、二重計上されていた2020年1月~21年3月までの15カ月間の受注実績を新たに算出し直したところ、1月あたり1.2兆円の差額が生じたと明らかにした」(「国交省統計書き換え 二重計上による差額「月当たり1.2兆円」2021年12月20日配信)と報じた。
同省(国土交通省)幹部は予算委で、15カ月間の受注実績を二重計上していない状況と比較したと説明。「元請け受注額の1月当たり平均で示すと、新たに改善した方法による値は約5.8兆円、従前の方法による値は約4.6兆円となる」と述べた。
山際大志郎経済再生担当相は国内総生産(GDP)への影響について、「それ(建設工事受注動態統計)が直接の推計に使われているわけではないので、最終的な計算をしていくと非常に軽微なものになる」との見通しを示した。立憲民主党の森本真治氏への答弁。
「新たに改善した方法による値は約5.8兆円、従前の方法による値は約4.6兆円となる」とあるが、改善した方が増えるのか? よく理解できない。
追記:緊急記者懇談会「国土交通省『建設工事受注動態統計』問題を紐解く」開催報告
【開催報告】緊急記者懇談会「国土交通省『建設工事受注動態統計』問題を紐解く」
*ここまで読んでくださり感謝。(佐伯博正)