「つながらない権利」法制化を日本の厚生労働省にはもう期待できない
「つながらない権利」(Right to Disconnect)法制化を日本の厚生労働省には、もう期待することはできないと思います。
厚生労働省資料から「つながらない権利」抹消
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第5回研究会は先月(2024年3月)26日に開催されましたが、その資料「これまでの論点とご意見について」には「つながらない権利」(Right to Disconnect)は「労契法(労働契約法)上でデフォルトルールを定める方法もあり、労働基準法と労働契約法の接続の問題で議論されるべき」と、第2回研究会でのメンバー(構成員)意見として記載されています。
しかし、今日(2024年4月23日)開催の厚生労働省「労働基準関係法制研究会」第6回研究会の資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」には「つながらない権利」といった言葉は完全に消えていました。
この資料は、労働基準関係法制研究会の事務局(厚生労働省)が今までの研究会で「労働時間法制」「労働基準法の事業」「労働基準法の労働者」「労使コミュニケーション 」といった各論点について各メンバー(構成員)の意見を整理し、リストアップしたものとされています。
この資料の中に「つながらない権利」という言葉や「つながらない権利」関連するような発言等が完全に見当たらないということは、これは「つながらない権利」法制化を日本の厚生労働省に「もう期待してはいけない」ということなのでしょう。
資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」(PDF)
法制化にかかわらず「つながらない権利」尊重
佐藤大輝氏は『マネー現代』(2024年4月23日)の記事の中で「制度改革が不要とは思わない上で、取り急ぎの対策としては老若男女問わず、働く人すべてが『自他のつながらない権利』を尊重していく。この意識改革を地道にやっていくのが現実解になるのではないか」と述べていますが、法制化されていないとしても、まさに自他の「つながらない権利」を尊重していくしかないでしょう。
怒りとストレスで携帯電話を投げつける会社員続出…「つながらない権利」を軽視してきた会社を待つ「ヤバい末路」(マネー現代)
参考:「国民性が影響」濱口桂一郎委員発言
2020年11月16日に第4回「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」が開催され、濱口桂一郎委員によるプレゼンテーションがおこなわれました。
その時の濱口委員が提出した資料「諸外国のテレワーク法制概観(労働政策研究・研修機構 濱口桂一郎)」には「『つながらない権利』には(ドイツ)連邦労働社会省は消極的」としか記載されていませんでした。
日本の国民性はフランスではなくドイツに近いと判断したのかどうかは分かりませんが、日本の厚生労働省は「つながらない権利」についてはドイツ同様に消極的になってしまいました。
これからのテレワークでの働き方に関する検討会(厚生労働省サイト)
追記:「つながらない権利」法制化を連合が
東京新聞(デジタル版)は先週の水曜日(2024月7月17日)に『「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか』(「法制化進が」の意味が不明ですが「法制化進むが」の「む」が抜けているのかもしれません)と題する記事を配信しています。
その記事の中に「国内でつながらない権利の法制化が進んでいない理由について、厚労省の担当者は取材に『分析できていない』と説明。連合の法制化の要望については『今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく』と述べるにとどめた」と書かれた個所があります。
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」(第7回)は今年(2024年)5月10日に開催されましたが、議題は労使団体ヒアリングとされて経団連(日本経済団体連合会)鈴木重也・労働法制本部長と連合(日本労働組合総連合会)冨髙裕子・総合政策推進局長から厚生労働省会議室でヒアリングが実施されました。
なお、連合は労働基準関係法制研究会(第7回)資料として『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』と題して文書を提出していますが、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)に「労働者は勤務時間外であれば仕事に関わる義務は当然にないが、連合調査によれば、『勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある』と回答した者が7割に及んでいる」と記載されいます。
また、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)には「労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化を検討すべきである」と連合の要望が明記されています。*さらに詳しくは次の記事をお読みください。
追記:厚労省 労働基準関係法制研究会 第13回
厚生労働省サイトによると厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会は明日(2024年9月11日)に開催されます。議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。
『資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について』には「最長労働時間規制」「労働からの解放の規制」「割増賃金規制」について記載されています。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
この資料1の7ページ(「労働からの解放の規制」の項目)には第10回・第11回研究会のメンバー(構成員)の意見として「つながらない権利」について「つながらない権利について、労働のON/OFFをはっきりさせた上で、OFFについては基本的に使用者が介入しないものであるのが本来なので、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」と「つながらない権利」法制化に対して否定的なコメントが書かれています。
また「つながらない権利について、フランス等で先進的な事例があるものの、会社が違えばつながらない権利の具体的な形もそれぞれ違うというくらいに、非常に多様。このため、労使できちんと協議することを義務付けている。基本的には労使で、労働実態を踏まえてきち んと協議をし、ルールを定めて具体的に実現するようにすることとするしかないのではないか」とも記載されています。
追記:労働基準関係法制研究会 報告書(案)
労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が本日(2024年12月10日)開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。
この「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」に記載された「つながらない権利」に関する記述は次のとおりです。
つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を求められる状況は容易に発生し得る。このような場合に、実際にはなし崩しに対応を余儀なくされている場合もある。私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる。
欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。
また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。
こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)
つまり、日本の厚生労働省は「つながらない権利」法制化は到底考えられないからガイドライン程度の策定を検討するという結論でいいのではないかとう労働基準関係法制研究会 報告書(案)ということです。極めて残念です。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)
労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)
参考:「つながらない権利」に関連する記事
*ここまで読んでいただき感謝!