「裁量労働制実態調査のデータを用いた裁量労働制の適用・運用実態等の分析研究」(厚生労働科学特別研究)
「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録
厚生労働省の第7回(最終回、2021年6月25日)「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録が2021年8月20日に公開された。
この検討会では川口大司・東京大学大学院経済学研究科教授が、資料に基づいて裁量労働制実態調査結果に関する分析報告を行った。
○川口構成員
(略)一人一日当たりの労働時間というのを計算して、その分布を見てみたものが、こちらのグラフになりますけれども、赤が適用、緑が非適用という形になっておりまして、これは、おおむね労働者票と同じような結果が得られているわけですけれども、赤の分布が全体的に右に寄っているということで、裁量労働制で働いている方がいらっしゃる事業場のほうが、労働時間が長いというような実態が出てきております。
それで、ほかの職種に関しても、おおむねそのような形になっておりまして、これは、後ほどテキスト分析のところでやや関わってくるので申し上げておきますと、教授研究という大学関係者の事業場が比較的多いという点がございます。
それで、これからは、今、申し上げたような属性を制御した上で、労働時間などが異なっているか、あるいは健康状態が異なっているかというような分析を行ってございましたので、そちらの結果を御紹介申し上げたいと思います。
これは、1週当たりの労働時間の裁量労働制が適用されている労働者と、されていない労働者の差をまとめたものなのですけれども、何も制御しないと2.1時間の差がありますと。それで、非適用の方の平均時間が約44時間ですので、2時間差があるというのは、それなりに大きな差のわけですけれども、この属性をコントロールすると、差が1.2時間ほどに縮まると。
ですので、もとより労働時間が長いタイプの属性の方というのが、裁量労働のもとで働いているようなことがあって、属性を制御するというのが極めて重要な操作であるということが、ここから分かります。
同じ業種の中で、裁量労働で働いている人と働いていない人もいるのですけれども、そこは統計的に有意な差がないという結果が得られております。
睡眠時間に関して申し上げても、これは、やはり属性を整理することが重要だということを示唆しているような結果なのですけれども、何もしないと、裁量労働で働いている人と働いていない人は、睡眠時間が同じだというような、先ほどお見せしたような結果が得られるのですけれども、属性を制御すると、むしろ裁量労働で働いていらっしゃる方のほうが、睡眠時間が長いかもしれないというようなことが分かります。(以下略)(第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録抜粋)
l川口教授の分析報告後、小倉一哉・早稲田大学商学学術院教は「これは何かどこかに、分かりやすいですし、出したほうがいいのかなと思ったのですけれども、さっきの概要のところだけだと、やはりコントロールしていないところもいっぱいあるので、そのコントロールをした上で、こういう結果が出ていますというのは、何か分かるように出したほうがいいかな」と発言。
これに対して川口教授は「今の公表の点に関しましては、このたびの分析は、厚生労働科研費の補助を受けておりまして、その関係で報告書を提出させていただいております。そちらのほうは、少なくとも公開されるとしておりまして、加えて、小倉先生から今のような言葉をいただいたということもありますし、また、分析の結果の過程などをしっかりと説明するということも含めて、厚生労働省の方とよく話し合って、公表の方法などを考えていきたいと思っております」と回答。
○西郷座長
川口先生、どうもありがとうございます。(略)それから御協力いただいた黒田先生、どうもありがとうございます。短い時間で膨大な分析をしていただいて、今日、御報告をいただいたのは、多分ごく一部ということだと思います。また、統計法の制約の中で、自由記述についてまで丁寧に分析していただいて、どうもありがとうございました。それでは、今の川口先生の御報告に対しまして、もし質問等ございましたら、あるいは御意見等ございましたら伺いたいと思いますけれども、いかがでしょうか。
○小倉構成員
すみません、ちょっと感想だけ、すごく分かりやすくて、すごく正確にやられているという印象と、それから、私も何回かこういうのを調査したりしていましたけれども、大きなそごは感じなかったといいますか、大体こういう結果なのかなという印象で、しかも日本で一番こういうことにプロの川口先生がやられているので、そういう安心感もあって、大変いい分析だと思うのですけれども、こういういい結果をどういう形で発表されるのか、これは、川口先生の話ではなくて、厚労省のほうかもしれないですけれども、これは何かどこかに、分かりやすいですし、出したほうがいいのかなと思ったのですけれども、さっきの概要のところだけだと、やはりコントロールしていないところもいっぱいあるので、そのコントロールをした上で、こういう結果が出ていますというのは、何か分かるように出したほうがいいかなと思いました。以上です。
○西郷座長
どうもありがとうございます。どうですかね、厚生労働省の報告という形にするのがいいのか、それとも川口先生の研究の成果という形にするのがいいのか、その辺について、もし、川口先生と厚労省のほうで事前に話し合っているとか、そういうことがあれば、では、どうぞ。
○労働条件政策課長
事務局でございます。今、御指摘いただいた点に関しましては、どのような取扱いができるかということを検討し、川口先生とも御相談申し上げたいと思います。いずれにしても、大変貴重な分析をいただいておりますので、これを有効に活用しない手はないと、本当に感じてございますので、大変ありがとうございました。
○西郷座長
どうもありがとうございます。ほかにございますか。
○川口構成員
すみません、今の公表の点に関しましては、このたびの分析は、厚生労働科研費の補助を受けておりまして、その関係で報告書を提出させていただいております。そちらのほうは、少なくとも公開されるとしておりまして、加えて、小倉先生から今のような言葉をいただいたということもありますし、また、分析の結果の過程などをしっかりと説明するということも含めて、厚生労働省の方とよく話し合って、公表の方法などを考えていきたいと思っております。どうもありがとうございました。(第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録抜粋)
第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録(厚生労働省)
「裁量労働制の適用・運用実態等の分析研究」概要
「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録に書かれていたので調べてみると、厚生労働科学研究データベースに「裁量労働制実態調査のデータを用いた、裁量労働制の適用・運用実態等の分析研究」(研究代表者:川口大司東京大学大学院経済学研究科教授)が公開されていた。
この分析研究概要版の「結果と考察」には「裁量労働制の適用が労働時間等に与える影響を分析した結果からは、以下大きく3点のことが結論づけられる」と記載されている。
1 労働時間については、裁量労働制の適用労働者の方が労働時間が長くなることが推定され、階差推定の結果からも裁量労働制の適用を受けることで前年からの労働時間が増加することが見て取れるが、他方で労働時間の変化は適用労働者の属性によっても異なるものであり、労働時間が増える人もいれば減る人もいて、増加の状況についても裁量労働制の対象業務や役職等により変わりうる。
2 健康状態について、適用労働者と非適用労働者及び適用の前後において大きな差は見られなかった。メンタルヘルスの分析においても、裁量労働制の適用によって悪化していると言えるまでの傾向は見られず、睡眠時間についても適用労働者と非適用労働者とでほぼ変わらない結果となり、裁量労働制の適用が労働者の健康状態に影響を及ぼしているとまでは結論づけがたいものであった。
3 処遇その他について、裁量労働制の適用を受けて適用労働者の方が年収が10%強高いということが、回帰分析の結果及びマッチング推定の結果として裏付けられ、非適用労働者と比べて一定程度処遇面での差があることがわかった。また、労働者からの自由回答については、これ自体のサンプル数が多いものではないということもあるが、テキスト分析の結果として、裁量労働制の適用に対する満足度別にみたときに特定の単語に正負の意味づけを見いだせるものではないが、それぞれ同じような観点からの意見の傾向にあるという点については確認することができた。
なお、裁量労働制および裁量労働制実態調査結果の分析・評価は、新たに設置された「これからの労働時間制度に関する検討会」で議論されることになっている。
裁量労働制実態調査のデータを用いた、裁量労働制の適用・運用実態等の分析研究(厚生労働科学研究データベース)
裁量労働制・裁量労働制実態調査に関する記事一覧
今までnoteに投稿した裁量労働制および裁量労働制実態調査に関する記事は次のとおり。
裁量労働制拡大に向け再始動-裁量労働制実態調査検討会1年2ヵ月ぶり開催-
裁量労働制実態調査と裁量労働制適用拡大に関する社説をめぐって
裁量労働制実態調査と新たな裁量労働制検討会の設置-厚生労働省
これからの労働時間制度に関する検討会ー厚生労働省が新たな検討会を設置