つながらない権利が日本で法制化される可能性
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第5回研究会は先月(2024年3月)26日に開催されましたが、その資料「これまでの論点とご意見について」にはつながらない権利は「労契法(労働契約法)上でデフォルトルールを定める方法もあり、労働基準法と労働契約法の接続の問題で議論されるべき」と、第2回研究会でのメンバー(構成員)意見として記載されています。
追記:本日(2024年9月11日)開催の厚生労働省「労働基準関係法制研究会」第13回研究会の資料「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」には「つながらない権利について、労働のON/OFFをはっきりさせた上で、OFFについては基本的に使用者が介入しないものであるのが本来なので、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」と「つながらない権利」法制化に対して否定的な労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)の現実をみていない酷い意見が書かれています。
つながらない権利を否定する労働基準関係法制研究会(厚生労働省)
これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書
2020年12月25日、厚生労働省が公表した「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」に次のように記載されています。
なお、2020年11月16日に第4回「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」が開催され、濱口桂一郎委員によるプレゼンテーションがおこなわれました。
その時の濱口委員が提出した資料「諸外国のテレワーク法制概観(労働政策研究・研修機構 濱口桂一郎)」には「『つながらない権利』には(ドイツ)連邦労働社会省は消極的」としか記載されていませんでした。
日本の国民性はフランスではなくドイツに近いと判断したのかどうかは分かりませんが、日本の厚生労働省は「つながらない権利」についてはドイツ同様に消極的になってしまいました。
これからのテレワークでの働き方に関する検討会(厚生労働省サイト)
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
厚生労働省は「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」を踏まえて、テレワークに関する新指針案「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(案)」を策定しました。
厚生労働省の労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)が2021年3月4日に開催されましたが、議案(3)は「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの改定について(報告)」とされており、厚生労働省が策定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(案)」が資料として労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)に配布されていました。
この「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(案)」には、つながらない権利に関連する事項としては次のように記載されている。
このテレワークガイドライン(案)に対して分科会委員から意見・質問が相次いだそうですが、後日(2021年3月25日)厚生労働省が公表した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を確認すると、ガイドライン(案)と一字一句変わっていませんでした。しかし、つながらない権利という言葉はガイドラインにはありませんでした。
テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針(連合)
連合(日本労働組合総連合会)は2020年9月17日に「テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」を策定し、つながらない権利獲得に向けて、時間外や休日、深夜のメールを原則禁止するとし、またモデルとなるテレワーク就業規則(在宅勤務規程)も作成しています。
これからの労働時間制度に関する検討会
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(指針)は2021年3月25日に公表されましたが、その翌年(2022年)3月29日に開催された厚生労働省の有識者会議・裁量労働制などの見直し関する検討会(正式名称「これからの労働時間制度に関する検討会」)で、「労働者の健康確保に係るヒアリング」が実施されました。
そのヒアリング準備資料「オフの量と質から考える働く人々の疲労回復」(独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター・久保智英上席研究員)24頁には「裁量が高くても不規則な働き方は睡眠の質と疲労回復を阻害する」「労働時間への裁量度が高くても、不規則に働くことは睡眠の質の低下と疲労回復を遅延させる」と記載されています。
また、つながらない権利についても記述があり、37頁の「まとめ」では「『勤務間インターバル制度』や『つながらない権利』は新しい時代における働く人々の疲労回復機会の確保には有効だと思われる」と提言されていました。
しかし、ヒアリングにおいて「『勤務間インターバル制度』や『つながらない権利』といった、新しい時代の過重労働対策」「これは非常に効果的なルールだとは思いますが、これまでの歴史を振り返っても、実情を踏まえないルールだけでは、恐らく風化して、絵に描いた餅になってしまうので、やはり現場の特性、組織の特徴を踏まえて、日本型の制度につくり上げていく工夫が必要だろう」とも指摘しています。
そして、久保氏は「オンとオフが、メリハリが曖昧になってきている」「恐らく、将来、さらに曖昧になっていくと予見されます」「そういった意味では、疲労回復に重要なオフに、物理的に仕事から離れるだけでなくて、心理的にも疲労回復のために離れるといったような組織的な取組、個人的な対応というのが今後重要になってくる」と訴えています。
2022年7月1日に開催の厚生労働省「これからの労働時間制度に関する検討会」第15回検討会の配布資料が公開されましたが、資料1は「これまでの議論の整理 骨子(案)」となっています。
その「これまでの議論の整理 骨子(案)」には「いわゆる『つながらない権利』を参考にして検討することが考えられるのではないか」と記載されています。
「これからの労働時間制度に関する検討会」第14回検討会(2022年5月31日開催)議事録が、2022年7月13日に厚生労働省サイトで公開されました。
この第14回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録には「つながらない権利」に関する発言について記載されていますが、黒田構成員は「テレワークをしている人か否かにかかわらず、つながらない権利というものを広く普及させていくような仕掛けが今後は重要になってくると思っております」と発言されています。
厚生労働省は2022年7月15日、第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催し、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書案を議論し、その日に厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書(本文、概要、参考資料)を公表しました。
公表された「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書 概要には「勤務間インターバル制度について、当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進。また、いわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていく」と記載されています。
また「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書 本文には「テレワークが普及し場所にとらわれない働き方が実現しつつあり、またICTの発達に伴い働き方が変化してきている中で、心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事と離れられず、仕事と私生活の区分があいまいになることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていくことが考えられる」と書かれています。
今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)
厚生労働省は2022年7月15日、厚生労働省有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」がとりまとめた「これからの労働時間制度に関する検討会報告書」を公表しました。
この報告書に基づいて厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会労働条件分科会が裁量労働制の対象業務追加(拡大)などに関する議論を始めましたが、その議論の結果、労働政策審議会労働条件分科会がとりまとめた労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を厚生労働省が2022年12月27日に公表しました。
今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(PDF)
「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書本文12頁に記載されていた「海外で導入されているいわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていくことが考えられる」という個所がありましたが、労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」には「つながらない権利」を参考にして検討を深められたような形跡はまったく見受けられませんでした。
新しい時代の働き方に関する研究会
「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を厚生労働省が昨年(2023年)10月20日に公表していますが、その報告書には特に「つながらない権利」に関する言及はなかったように記憶しています。
「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書(PDF)
ただし第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」(2023年9月23日に開催され、議題は「報告書に向けた議論」)議事録には、次のような水町勇一郎構成員の発言があります。
労働基準関係法制研究会
「労働基準関係法制研究会」は「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労総省(労働基準局)有識者会議になります。
労働基準関係法制研究会の検討事項は「『新しい時代の働き方に関する研究会』報告書を踏まえた、今後の労働基準関係法制の法的論点の整理」と「働き方改革関連法の施行状況を踏まえた、労働基準法等の検討」とされています。
議題は毎回「労働基準関係法制」とありますが、2024年1月23日に開催された第1回研究会ではメンバー(構成員)全員が意見を述べ、2月21日に介された第2回研究会では「労働時間制度について」議論されました。
また、2月28日に開催されたされた第3回研究会では「労働基準法における『事業』及び『労働者』について」、3月18日に開催された第4回研究会は「労使コミュニケーションについて」議論された。
第5研究会は3月26日に開催され、これまで議論された「労働時間制度について」「労働基準法における『事業』及び『労働者』について」「労使コミュニケーションについて」の論点を整理しながら、さらに掘り下げて議論を一巡。
次回(第6回研究会)は、第5回研究会でのメンバー(構成員)意見を踏まえて再整理し、次々回(第7回研究会)からは労使ヒアリングを実施予定。
「つながらない権利」労働契約法上でデフォルトルールを定める
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第5回研究会は先月(2024年3月)26日に開催されましたが、その資料「これまでの論点とご意見について」には「つながらない権利」(Right to Disconnect)は「労契法(労働契約法)上でデフォルトルールを定める方法もあり、労働基準法と労働契約法の接続の問題で議論されるべき」と、第2回研究会でのメンバー(構成員)意見として記載されています。
第5回「労働基準関係法制研究会」資料3「これまでの論点とご意見について」(PDF)
厚生労働省が作成した資料の中の「つながらない権利」に関する箇所は少し理解しにくい記述になっていますが、まず「デフォルトルール」は標準的なルールまたは原則的なルールということではないでしょうか。つまり「つながらない権利」については労働基準法ではなく労働契約法に標準ルール・原則ルールとして規定する方向で議論されるべきということではないでしょうか。
労働基準法と労働契約法の接続の問題で議論されるべき
また「労働基準法と労働契約法の接続の問題」ということはどういう意味か分かりにくいのですが、労働基準法は取締法規ということになりますが、労働契約法にはデフォルトルールといった側面が強いとも思います。つまり「労働基準法と労働契約法の接続の問題」とは取締法規としての労働基準法とデフォルトルールとしての労働契約法を(「つながらない権利」に関して)どう結びつけるかという問題ということだと推測しています。
「労働基準関係法制研究会」に先立って開催されていた厚生労働省(労働基準局)有識者会議に「新しい時代の働き方に関する研究会」がありますが、第14回「新しい時代の働き方に関する研究会」(2023年9月23日開催)で水町勇一郎教授(水町教授は「労働基準関係法制研究会」でも「新しい時代の働き方に関する研究会」で構成員として選ばれた唯一人の存在)が同様の発言をしています。
長くなりますが、水町勇一郎教授は「労働基準法制とその修正で対応できるところと、労働契約法制が基になって、そこで例えば就業規則の合理性とか、ガイドラインに書かれていることは、実は裁判に任せられているところを、政策として法制としてどうするかというときに、例えばデフォルトルール、原則的にはこうしなくてはいけないということを、例えば労働契約法制の中で定めて、ただし、労使コミュニケーションで具体的に議論して別のように決めたら、別のようにしていいですよということを、労働基準法制とまた別の法制の中でルールメイキングしていくと、それを基に労使コミュニケーションが実質化していったり、ちゃんと労使で話し合わないと原則どおりに硬直的なものになってしまうよという議論の中でどうするか」と語っています。
新しい時代の働き方に関する研究会 水町勇一郎構成員発言は重要だから議事録から抜粋(働き方改革関連法ノート)
企業に法令遵守のインセンティブを与える「新たな規制」
東大新聞オンラインは「社会変化に合わせた労働法制を 水町勇一郎教授退職記念インタビュー」(2024年3月19日)と題したインタビュー記事を掲載していますが、そこに水町勇一郎教授(厚生労働省「労働基準関係法制研究会」構成員=メンバー)が「政策提言に携わってきた経験から、日本の労働法制の在り方についてどのような点が課題だと考えていますか」という質問に答えるといった場面があります。
水町勇一郎教授は労働法制の改善のためには「インセンティブを与える政策手法の活用も進めるべきです」と述べていますが、インセンティブ(Incentive)とは、行動を促す「刺激・動機・励み・誘因」を意味する言葉だと一般的には理解されています。
何故インセンティブを与える政策手法の活用が必要なのか、水町教授は「これまでは、労働時間の上限規制や男女差別の禁止など、命令と罰則によって実効性を確保しようとしてきました。しかし、(労働基準監督署)監督官が全ての事業場を常に監督できるわけではない中、労働組合がない中小企業などでは、法令が守られない無法地帯に近い状況も生まれています」を現状を説明していますが、(私の経験からしても)そのとおりだと思います。
そのような無法地帯に近い状況の中では「法令を守らなかった企業に罰則を与えるという方法だけではなく、遵守している企業の情報を積極的に開示する」ことが必要だと、水町教授は語っています。
つまり、「求職者や消費者が、就職活動や消費行動に当たって法令をきちんと守っている企業を選択するように誘導する仕組みを作り、企業に法令遵守のインセンティブを与えることも、新たな規制の方向性だ」ということです。
社会変化に合わせた労働法制を 水町勇一郎教授退職記念インタビュー(東大新聞オンライン)
追記:テレワーク長時間労働で精神疾患発症
弁護士ドットコムニュース『テレワークで労災認定「極めて異例」(以下略)』(2024年4月3日配信)との記事によると、横浜市の外資系補聴器メーカーで働く50代の女性社員がテレワークで長時間の時間外労働を強いられて精神疾患を発症したと、女性社員の代理人が東京都内で記者会見し、その詳細を明らかにしています。
その記事には「2019年入社の女性は、経理や人事などを担当。コロナ下の2020年頃からテレワークで働き始めた。2021年後半から退職者や新規入社が相次いだほか、新しい精算システムの導入作業などで残業が増え、2022年3月に適応障害を発症し、現在まで休職中」「発症前2カ月間の時間外労働(残業)は月100時間を超えており、労基署が労災認定」と書かれています。
また「女性は事業場外みなし労働時間制の適用を受けながら、8時半から17時半まで8時間の所定労働時間(1時間は休憩)として、主に自宅で働いていた」「2021年7月に入社した上司から、チャットやメールを通じて細かく指示があり、自身の業務と並行して上司とのやりとりに労力を割くことになったという」「所定労働時間内だけでなく、残業時間の間にもかなりの数の指示があり、たとえば金曜の深夜に『月曜までに』というタスク指示があり、休日の業務を余儀なくされるようなこともあったという」「PCのログやメール、チャットでのやりとりから労働時間が算出された。遅いときには深夜0時直前のチャットも記録され、具体的な指示内容が残っていた」「女性は会社に何度も自身の働き方を相談したが、改善されなかった」と、その記事に書かれています。
厚生労働省のテレワークガイドライン(正式名称:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン)には「テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対 応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられる」と記載されています。
「役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効」と厚生労働省のテレワークガイドラインに書かれていたとしても、テレワークでの長時間労働の防止とはならないことが横浜市の外資系補聴器メーカーの事例で明確にされました。
長時間労働による健康障害の発生防止のためには「つながらない権利」の法制化が、日本でも必要だということを横浜市の外資系補聴器メーカーの事例は示していると思います。
追記:つながらない権利の法制化はもう期待できない
厚生労働省「労働基準関係法制研究会」の第5回研究会は先月(2024年3月)26日に開催されましたが、その資料「これまでの論点とご意見について」には「つながらない権利」(Right to Disconnect)は「労契法(労働契約法)上でデフォルトルールを定める方法もあり、労働基準法と労働契約法の接続の問題で議論されるべき」と、第2回研究会でのメンバー(構成員)意見として記載されています。
しかし、今日(2024年4月23日)開催の厚生労働省「労働基準関係法制研究会」第6回研究会の資料「労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理」には「つながらない権利」といった言葉は完全に消えていました。これは「つながらない権利」法制化を日本の厚生労働省に「もう期待してはいけない」ということなのでしょう。
労働基準関係法制研究会 これまでの議論の整理(PDF)
佐藤大輝氏は『マネー現代』(2024年4月23日)の記事の中で「制度改革が不要とは思わない上で、取り急ぎの対策としては老若男女問わず、働く人すべてが「自他のつながらない権利」を尊重していく。この意識改革を地道にやっていくのが現実解になるのではないか」と述べていますが、法制化されていないとしても、まさに自他の「つながらない権利」を尊重していくしかないでしょう。
怒りとストレスで携帯電話を投げつける会社員続出…「つながらない権利」を軽視してきた会社を待つ「ヤバい末路」(マネー現代)
追記:つながらない権利の法制化を連合が要望
連合(日本労働組合総連合会)は、本日(2024年5月10日)開催の第7回労基準関係法制研究会(厚生労働省労働局の有識者会議)の労使団体ヒアリングでの資料において「いわゆる『つながらない権利』の立法化を検討すべき」と「つながらない権利」の立法化(法制化)を要望しています。
つまり、連合は資料の中に「労働者は勤務時間外であれば仕事に関わる義務は当然にないが、連合調査によれば、『勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある』と回答した者が7割に及んでいる」「 労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化を検討すべきである」と記載しています。
連合ヒアリング資料(PDF)
連合の要望を厚生労働省はどうする?
東京新聞(デジタル版)は先週の水曜日(2024月7月17日)に『「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか』(「法制化進が」の意味が不明ですが「法制化進むが」の「む」が抜けているのかもしれません)と題する記事を配信しています。
その記事の中に「国内でつながらない権利の法制化が進んでいない理由について、厚労省の担当者は取材に『分析できていない』と説明。連合の法制化の要望については『今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく』と述べるにとどめた」と書かれた個所があります。*さらに詳しくは次の記事をお読みください。
「つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」厚生労働省サイトによると厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会は明日(2024年9月11日)に開催されます。議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。
『資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について』には「最長労働時間規制」「労働からの解放の規制」「割増賃金規制」について記載されています。
資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)
この資料1の7ページ(「労働からの解放の規制」の項目)には第10回・第11回研究会のメンバー(構成員)の意見として「つながらない権利」について「つながらない権利について、労働のON/OFFをはっきりさせた上で、OFFについては基本的に使用者が介入しないものであるのが本来なので、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」と「つながらない権利」法制化に対して否定的なコメントが書かれています。
また「つながらない権利について、フランス等で先進的な事例があるものの、会社が違えばつながらない権利の具体的な形もそれぞれ違うというくらいに、非常に多様。このため、労使できちんと協議することを義務付けている。基本的には労使で、労働実態を踏まえてきち んと協議をし、ルールを定めて具体的に実現するようにすることとするしかないのではないか」とも記載されています。
「つながらない権利はパワーハラスメントの問題として整理できる」
厚生労働省サイトに公開(2024年9月5日)されました第13回「労働基準関係法制研究会」議事録には水町勇一郎メンバー(構成員)は「つながらない権利はパワーハラスメントの問題として整理できるのではないでしょうか」と発言しています。
この水町メンバー発言に対して、黒田玲子メンバー(構成員)は「つながらない権利に関して、水島先生(議事録では『水島先生』となっていますが正確には水町勇一郎早稲田大学教授)のお話を伺いながら、確かにハラスメントの文脈で語るというのもありかなとは思った一方で、オフの時間に何らかの連絡がある、ごくまれだったらいいのでしょうけれども、割とフランクな連絡が頻繁にあるというと、そのこと自体の有害性とか精神負担ということも考えるべきで、必ずしもハラスメントの文脈だけで言えるわけでない。本人がそう感じていないし、相手も感じていないし、けれども、そのことに関する有害性ということは考えるべきで、ハラスメントの文脈だけで語れるかというとちょっと疑問に感じました」と意見をのべています。
労働基準関係法制研究会(報告書)議論のたたき台
厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第14回研究会は(2024年)11月12日に開催され、議題は「労働基準関係法制について」。
また、第14回研究会の資料は「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」となっていますが、実質的には「労働基準関係法制研究会」報告書作成に向けた骨子案と言えると思います。
その「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」には、つながらない権利については「勤務時間外にどのような連絡までが許容でき、どのようなものは『つながらない権利』として拒否できるのか、総合的な社内ルールについて、労使の話合いを促進していくための方策を検討することが必要と考えられる」と記載されています。
労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)(PDFファイル)
労働基準関係法制研究会 報告書(案)
労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が本日(2024年12月10日)開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。
この「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」に記載された「つながらない権利」に関する記述は次のとおりです。
つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を求められる状況は容易に発生し得る。このような場合に、実際にはなし崩しに対応を余儀なくされている場合もある。私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる。
欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。
また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。
こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)
つまり、日本の厚生労働省は「つながらない権利」法制化は到底考えられないからガイドライン程度の策定を検討するという結論でいいのではないかとう労働基準関係法制研究会 報告書(案)ということです。極めて残念です。
労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)
労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)
日本労働弁護団・労働基準関係法制研究会に対する意見書
日本労働弁護団は2024年10月31日に労働基準関係法制研究会に対する意見書を公表しましたが、意見書には「ICT技術の発展によって、時間外・休日の業務連絡が問題となっているところ、いわゆる『つながらない権利』について何らかの法的規制を設けるように議論すべきである」と記載されています。
「労働基準関係法制研究会に対する意見書」を出しました(日本労働弁護団サイト)
追記:つながらない権利は法制化ではなくガイドラインに
「つながらない権利」法制化について「労働基準関係法制研究会」(労働基準法などの見直しを議論する厚生労働省の研究会)では水町勇一郎教授が「労働契約法でデフォルトルールとして規定してはどうか」というアイデアを出していましたが、やはり法制化は困難ということで一度は研究会で議論する論点から消滅していました。
ところが、労働基準関係法制研究会が実施したヒアリングで労働組合の連合が「つながらない権利」立法化の提言を行ったことから「つながらない権利」が研究会の論点の一つに再浮上し、2024年12月24日の報告書(案)では「勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要」と記載されました。
つまり「つながらない権利」は労働契約法ではなくガイドラインを策定するという残念な結論に。
つながらない権利ガイドライン策定-労働基準関係法制研究会 報告書|note
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