紗英加
徒然なるままに書き綴った、私のただの日記です。 ただ、日常の一コマで見た景色や、その瞬間に私の心に浮かんだ言葉、混沌としたイメージを、とりとめもなく書き綴った、私の日記にございます。 それ以上でも、それ以下でもございません。
世界が深い紫一色に染まっていく。 色とりどりな人々が 街を行き交い、 月夜に色彩をもたらす。 空は甘美な香りに酔いしれているようだ。 すれ違ったあの子の香水が 私の頬を妖艶に撫でていく。 冷たい夜風に ほうっと熱い息を吹きかける。 つんと素っ気ない空気が 怪しく私に微笑みかけた。
私は雁字搦めだ。 蜘蛛に囚われた獲物のように その場から身動きが取れない。 冷たい夜風に吹かれながら、 主の帰りを待つのだ。 心地よく頬を撫でる空気が 私を安寧へと誘う。 次の瞬間、 私は混沌に飲み込まれた。
いくつもの足音が聞こえる。 跳ねるように歩く音、 硬く不規則に行き来する音、 優しく静かに過ぎ行く音、 色とりどりのネオンと喧騒の中、 私はただ、待っている。 冷たい空気が私の手を掴んで離さない。 私は時の狭間に落ちてしまったようだ。 ただただ、通り過ぎゆく人を眺める。 ふと、背後から温かな空気が流れてきた。 楽しげに通り過ぎゆく彼らの顔を ぼーっと眺めながら、 私は振り向くことなく ただただ、立ち竦んでいた。
頭がパンクして空気が漏れている。 身体から空気が抜ける度に、 ただただ、床へと沈み込んだ。 止まった瞬間(とき)の中で、 ぼーっと壁を見つめる。 そんな私を、 僅かな隙間から光が照らし出す。 くっきりとした影がじわりと溶け出すと、 私を穏やかな海辺へ連れ出した。 光の波の中を揺蕩いながら、 私はただ、ぼーっと 世界の美しさに酔いしれていた。