【短編】枯れ紅葉

錦秋、晩秋、初冬と暦に添いて変われども、季の狂い気まぐれ風まかせ、風の情や常世に移ろう。
熱や名残りて染まるを待ちわび、青紅葉を仰ぎて溜め息も今は追憶、寒風に燃ゆは紅や紅。
唐紅の紅葉や椛、刹那せつなの命やいのち。あれよあれよと染めあげ、風に。
季の気まぐれに振り回されるも、また可笑しくゆかしきものよ。
斑に錦に紅々と、天に地に水面へと、咲いて描いて紅葉や雅び。
水鏡にや錦絵紅葉、揺れて煌めき秋の宝珠よ。
天晴れ見事なる紅葉、紅葉、紅葉よ。
待ちわび忍んだ甲斐やあったと、微笑みや感嘆の息と咲くや咲く。
秋の風情や名残りて初冬、神の戯れ雪紅葉かな。
刹那の逢瀬の如くに艶めく慕情や雪に露。
人の世すべては神のみわざか戯れよと、可笑しく思いて諦念と望みの渦やこころに。
侘び寂しきは我が心かと。唐紅を仰ぎて溜め息。
景は美し、我がこころは……。

霜の花
落ちるかけらや
恋の塵

さくりさくり、かさりかさり。
過ぎてや師走、霜の花に冬枯れ木。
漸く暦に追いつきし景に、感慨の意。
軒下に長つららはまだ早かろと、独りごちては炬燵に蜜柑。
歩いてさくさく風にからから、気づけば年の瀬、枯れ紅葉。
寒風晒され、枝先の紅葉や揺れる。
蜘蛛の糸に絡まりて晒し首の如くぶら下がるは無念羞恥の極みかと、痛める心は傲慢か。
俯瞰してみれば、なんと見事な枯れ紅葉よと、渋みか燻しか暗褐色に深めて暗紅。
天に地に咲き、秋とはまた違う艶を纏う枯れ紅葉よ。
紅葉に黄葉、小さき扇の簪の如くに……。
地にきらりきらりと煌めくは、枯れ葉の宝珠と思いて感嘆。
情に猛省、枯れ紅葉に詫びては愛で歩む。
紅葉や黄葉、枯れても其なた等は美しい。
扇の簪の雅びやかさなり。
風情も燻され侘び寂び枯山水の如。
艶の渋さは菊の如。
年期があけても女は女、枯れて朽ちても紅葉は椛。
葉の一生や女の一生。
恋の一葉や紅葉の如。
ならば寒風に斬首の恋一葉なれど、誇りてゆこうぞ年の暮れ。
紅葉に恋を弔いて、枯れ葉の艶に救われて、涙や霜の花に舞う。





             — 了—

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