走り出して止まらない
やぁ、祖母ちゃん、元気かい。
霊界の暮らしはどうよ。
オレは元気さ。
え。なんだって?
孫が還暦だなんて!
あはは~そうだよね。
わかるわかる──
☆☆☆
こんにちは。フジミドリです。今回の私物語では、リクエストにお応え致します。
前回、母を語った折り、祖母についても書きました。もう少し、詳しく知りたい──
ありがたいことです。
とはいえ、何を語ればよいのやら。
戦争前後の混乱期に、女手一つ、子供三人を抱えて生き抜いた、波乱万丈の生涯です。
語る話は多過ぎ、選びあぐねておりますと、懐かしい声が聞こえて参りました。
☆☆☆
私は、祖母と交霊できまして──
いえいえ。霊能者などではございませんよ。ごく普通の平凡な一般人です。
怪しい呪文を唱えて、結跏趺坐で瞑想する、なんてこともやりません。
ただ、中真を意識するだけです。
☆☆☆
いやいや。それは、ごく普通の平凡な一般人ではないでしょ。交霊するなんて!
たーしかに確かに。
スビバセン。道術家である私にとって、交霊することは日常茶飯で自然なのです。
妄想夢物語としてお読み下さい。
おっといけない。
祖母が待ち構えております。
気の短い人でしたから──
☆☆☆
改めて、スゴいよね。
祖母ちゃんは、戦争前後の混乱期を乗り越えて、新橋の繁華街にビル建てたんだ。
小さな五階建ての貸しビルだけど、身一つの境遇から築き上げたわけで、学歴もないし、後ろ盾もない、山形の田舎育ち。
しかも、一度は火事で焼けちゃう。
普通凹む。保険なんてない時代だから。でも祖母ちゃん、こんちくしょう、負けるもんかって、ビルを建て直した。スゴいよ。
☆☆☆
祖母ちゃん、本当によく働いた。
ヒロポン打って睡眠2時間。
何が何でもやりぬく!
鋼の意志というのか。オレは圧倒されたよ。とてもじゃないが真似できない。
祖母ちゃん、言ってたね。
人生は決まってるんだ。
変えられない。
だから、やりたいことやらないと勿体ない。決まってるから、やり抜けるんだ!
☆☆☆
お祖父ちゃんとの結婚生活は、辛苦の連続だった。昔気質の職人だから。所謂、飲む打つ買うって放蕩だ。
そもそも、好きな相手じゃない。祖母ちゃんの姉さん夫婦が、弟妹を添わせちゃう。
そういう時代だった。
飲む打つ買うの横暴亭主。酒代工面で、祖母ちゃんの着物が、質屋を出たり入ったり。
そんな境遇でも祖母ちゃん、これじゃ終わらない、夢を叶えてやる、諦めなかった。強い人だよ。祖父ちゃんと合わないね。
走り出したら止まらない。
☆☆☆
離婚して賄いで稼ぐ傍ら、洋裁学校へ通って技術を身につけ、独立した。必死で働く。
洋裁店を始めると、出勤前のOLから寸法を取って、仕事帰りに注文服が仕上がってる。
画期的な商売で大繁盛した。お客さんには、女優さんやら有名人やらもいた。
危ない橋も渡ったね──
世は闇市の時代。生地の仕入れで、泥棒たちの集まりにだって特攻したっけ。
☆☆☆
ホント、猪突猛進だよな。
仕事帰り、睡眠不足でふらふら、心地よい音楽が聞こえ、ハッと気づけば電車の線路。
慌てて歩道へ戻れば、電車がゴーッと走り去っていく。真っ暗な夜空に、月を見上げて、こうやって自殺するんだと溜息つく。
☆☆☆
もちろん時には、行き詰まったり悩んだり、迷ったり怖がったりもあったさ。
でも、一度決めたら突っ走る。
パンパンハウスの経営で荒稼ぎ、てな時代もあったよね。英語なんか話せないから、黙ってお金を受け取るだけだった。
あはは~今の人、パンパンハウスなんて知らない。検索したって出てないもん。
胸に響いたものだよ。
祖母ちゃん、慕われていたね。
雇っていた女性達との交流──
アメリカ兵相手に体を張って、政治家より、日本を支えていたんじゃないかな。
☆☆☆
周囲も大変だったよ。
長女である母さん。幼い弟妹。
祖母ちゃん、いつも帰りが遅い。少女の叔母さんはこっそり家を覗く。帰ってない。その後ろ姿を見て、涙が出たとかさ。
赤ちゃんだった叔父さん、仕事で構えない祖母ちゃんが、キッと睨んだら、這い這いしてきたのに、泣きもせず戻ったとかさ。
母さんも、弟妹の面倒と家事全般、母親代わり、それでも成績優秀、努力したとかね。
☆☆☆
形振り構っていられない。
東京大空襲も命辛々で。
必死に生き抜くだけ。
走り出したら止まらない。
生きて生きて生きて。
黙って、できることをやれ。
☆☆☆
祖母ちゃん、ハッキリしている人だったね。言いたいこと言う。やりたいことやる。
自分の生き様に、恥じる処がない。
決して後悔しなかったもんな。
小柄な細い体に、生きる活力が溢れていた。歯に衣着せぬ物言い。でも、筋が通っているから、いつもビシッと芯に響いたよ。
男勝りなんて言うけど、オレは女の方が偉いと思う。祖母ちゃんを見て悟ったかも。
それでかねぇ。オレはこれまで、男の偉さなんて、一度も考えたことがないんだよ。
☆☆☆
あ。そうだ。
祖母ちゃんが、美容院の経営と着付け教室を同時にやってた頃、住み込みで働いてる若い女の人達。朧げに覚えてるよ。
小学生のオレ、母さんや妹と月一で訪ねる。髪を切ってもらう。可愛がられたな。
祖母ちゃんが慕われてるの、子供心に感じたよ。普段厳しい人だけど、孫には優しくて。
皆さん、どうしていらっしゃるかね。
☆☆☆
晩年は、祖母ちゃんも悠々自適の暮らしで、三味線やら墨絵やら習っていたね。
波乱万丈の人生を、自伝本にしたいと思って出版社へ頼む。売れない作家さんがゴーストライターやって書いたんだよ。
取材に、故郷の山形まで行って貰って、旅費も出してさ。でも結局、完成しなかった。
それで、祖母ちゃんの気に入らない箇所を、オレが書き直して仕上げた。あれってオレはまだ、学生だったかね。
☆☆☆
あはは~やだな。
すっかり忘れていた。
でも今、祖母ちゃんの話してる姿や、頭を捻って工夫するオレの様子が、観えてくるよ。まるで映画みたいだね。
オレは、プロの文章から沢山学んだ。
祖母ちゃんの半生が、活き活きと胸に迫ってきたものだよ。自分ができることに、精一杯の力を注ぎ込む人だったね。
目の前にあるなら、針一本でも誠意をもって接する。選り好みしない。真心込めて──
☆☆☆
凝っと観る。観抜く。
成功譚の中で、祖母ちゃんは、物事をよく観て本質が掴める人って印象だった。
自分で掴んだ本質だから、誰にも相談しないで突き進む。人生は決まってるから。
☆☆☆
思い出すなぁ。
祖母ちゃんと最後に会ったの、ミドリと二人で入院先を見舞った時だ。祖母ちゃん、孫のカミさん気に入っていたもんねぇ。
ミドリが訊いたんだ。お祖母ちゃん、元気になったら、何やりたいですか?
そしたら祖母ちゃんは、外人さんに着付けを教えたい、そう囁いて目を輝かせた。
二人は会えたんだね。
楽しく在てくれて嬉しいよ。
☆☆☆
祖母ちゃんが調子悪くなって、母さん父さんと妹は一緒に暮らした。オレはミドリと結婚する。祖母ちゃん、喜んでくれたね。
懐かしいなぁ。
祖母ちゃんが大切にしたビルだから、古くなっても守らなくちゃ、母さんは頑として譲らなかったけど、倒れちゃった。
父さんも、体が利かなくなって、都内の病院で最期を過ごせたよ。今、母さんも入院中。妹が面倒事をやってくれた。
☆☆☆
ビル売却。この御時世、親族一同、助かったみたい。会社組織にしていたもんね。
母さん父さんも転院できた。
ビルの株でも買えとか、父さんに諭された気がするけど、オレって無頓着だからね。
あはは~何とかなるさ。
決まってるもん。
☆☆☆
祖母ちゃん、ありがとう。
改めて気づけたよ。
オレがこれまで、生きてこられたその元は、祖母ちゃんから学んでいたんだね。
本質を観抜く──
誠意をもって接する。
決まってるから、思い切って進め!
☆☆☆
オレは残りの人生も、中真感覚に磨きをかけていくさ。坦々と心地よくね。
霊界で再会する時、よくやったわ、偉かったね、そう褒めてもらえるように──
☆☆☆
☝シャガの花言葉は決心──
次回、5月22日午後3時です。
明日16日午後6時、西遊記に創作談義。