地獄の沙汰も金次第か
おいらは金だよ。
この世でしか使えねえと思われてる金なの。いやいや~あっちの世界だって、ちゃあんと使えるんだぜ。
ん。あっちじゃねえ。おいらがいるのは現世じゃねえから、こっちだよな。あっはっは。ややこしくていけないぜ。
まぁどっちでもいいさ。
とにかく。地獄の沙汰も金次第。そ。この世もあの世も、おいらがものを言うわけ──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は、お金が主人公。
この人生、お金に振り回されてきたなぁと、つくづくしみじみ思う私です。
そしてまた、現代の経済状況で、悠々自適の年金暮らしになりそうもありません。
日銀どうなる……円は続くのか……狂乱物価……情報が飛び交い、不安を煽ります。
こんな時こそあり方です。
前回、私の土台は中真にある仙骨と再確認できました。ならば、お金にどう対処するか。
では早速──
☆☆☆
おいらは今、十円玉ね。
歩道から公園へ入る石畳の道に落とされた、汚れっちまった十円玉なのよ。
それでね、初老の塾講師に拾われたのさ。
「どしたんや」
隣を歩く女性が訊く。
『落ちてた』
「あらま」
『どうしよ』
「お賽銭!」
『さすが揺さん』
☆☆☆
二人が公園を歩きつつ、あれやこれやお喋りするの、おいらは掌の中で聴いていた。
面白えもんだね。
おいらが宿る十円玉について、それから他の話題へと移っていく二人の言葉。
それぞれの人生で、おいらがどう思われどう扱われたか、スッと流れてくるの。
思わずこう呟いたわけ。
(苦労したんだな)
☆☆☆
『いや本当マジ心底しんどかった』
「わたしも。思い出すとうんざりや」
『イヤだね~金が敵の世の中!』
(待ってくれ。おいらのせいかよ)
「そうやな~悪いんは人の思いか」
『イヤ。悪いのは金だ。金』
(とほほ。勘弁してくんなよ)
「まぁお金に罪はないんか」
『金なんか無くしちまえ!』
(あれ、聞こえんの、おいらの声)
『ん。誰だこいつ。怪しいぞ』
「お金の妖精さんやない?」
☆☆☆
やれやれ。愉快な二人だね。
おいらの声が聞こえる……今どき滅多にない。こちとら、話しかけちゃいるのよ。
けど──
聞いちゃいねえって奴ばかりさ。
動植物の声だって聞こうとしねえ。まして、おいらみてえなモノ、つうか概念は。
一方的なお願いやら感謝やら、愚痴に恨み、語り合うなんて程遠いよ。
☆☆☆
「寂しいことや」
(おいらは別に……)
『え~寂しいのかよ!』
(いや、だから、その)
『あ。付喪神ってやつか』
「フジさん、そら妖怪やで」
(おいら、妖怪じゃねえ)
『なんか用かい!』
(違えって。聞けよ、人の話)
『へぇ~あんた、人なの?』
「あっはっは。こりゃあかん」
(い、いや、あのさ)
☆☆☆
そう思った途端だ。なんてこった、三人とも次現界にいるじゃねえか。やれやれ。
おいらの波動がブレて、二人を引っ張り込んじまったみてえだよ。いいのかね。
まぁでも、来ちまったってことは──
☆☆☆
『わお、次元界にも金があるぜ』
「びっくりやな。奪い合っとるで」
(生きてる間に捨てなかった霊魂さ)
「あの世に行ってまで……」
『亡者は死ななきゃ……あ。死んでんのか』
(地獄の沙汰も金次第なの)
「ほな、こっちの波動が現世へ」
(そうさ。憑りついてんだよ)
『ゲッ、死んでも苦労すんのか』
(済ませちまえばいいんだよ)
「あっちの霊魂、お金は使うてへんな」
『え。どこよ……ホントだ。面白え』
(現世の理解次第で映し出せるのさ)
「外にあるんと違うんや」
『自己実現の物々交換だぜ!』
(は。なんだそりゃ)
☆☆☆
おいら、思わず笑っちまう。面白えこと言うねえ。自己実現の物々交換──
そうだよ。
元々、おいらは物々交換の代わり。人と人を繋いでたんだ。それがいつの間にやら……
おいらの形だけ求める人々の思いが、積もり積もって現世へ響いていく。
☆☆☆
「金額やない。心地よいこと。安心して仲良う暮らせるかや。不安な大富豪もおる」
(ああそうさ。本当の豊かさは何なのかって話だよ。おいらの本質だね)
『本質は1万円札の原価が20円で、1円玉作るのに3円かかるとか……スビバセン』
「ほぉ。自覚あるんや。進歩やで)
『あはは~揺さん、照れるよ~」
(おいらの本質は心地よさの循環さ)
「純粋な気持ちと気持ちを繋ぐんやね」
『ホントか~怪しいなこいつ』
「そこはフジさん、素直に認めんと」
『スバラシイミゴトダウツクシイ』
(やれやれ。貶された方がマシだぜ)
☆☆☆
こうして、次元界の様子を見学しながら、体は現世の神社へ着いたわけ。
『んじゃまたな、付喪神の妖怪』
(だから~おいらはさ~)
「お仲間連れてな。今日は私の誕生日や」
『揺さん、なんか食べに行こう、お祝いだ』
そう言いながら、初老の塾講師はおいらを神社の賽銭箱に放り込んだのさ。
☆☆☆
お読み頂き、ありがとうございます!
次回が4月30日午後3時、明日午後6時は西遊記の創作談話です。
是非、いらして下さい♡