どこで生まれたの?
私は故郷よ。
あなたが生まれた処。
病院じゃないわ。だってそれって肉体が誕生した仮初の場所だから。
私は霊魂の故郷なの。
誰もが私から旅立つわ。時を重ねて様々な経験を積んで必ず戻ってくるの。
霊魂のあなたが生まれた私へ──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は根源への旅。しばらく現実世界のあれこれを忘れ、自由自在な空想次元で軽やかに飛び回りましょう。
私物語──小説のような随筆のような、それでこう名づけました。
根源への旅は生きていく礎、つまり在り方となるかもしれません──
☆☆☆
私は忘れられている。
思い出せる人が少ないの。
なぜかって?
例えば、ここにいる初老の塾講師、何か呟いているわ。ヤなことでもあったかしら。
『やり切れねえよ。いつまで生きなくちゃならねぇ。もうスパッとやめたいぜ。でもさ、そうもいかねえんだよな』
いろいろあって、目の前に並ぶあれこれで、私のことをすっかり忘れているのね。
お金がなくて困ったり、仕事で潰されそうだったり、境遇に共感してもらえず孤独で打ちひしがれていたり。
『どうして生まれてきちまったか』
☆☆☆
やあねえ。
この人だって、私の中にいた頃は、とってもイキイキしていたわ。
何を見ても聞いてもワクワクして、好奇心に満ち溢れていたの。だから私も安心して送り出せたんだけど。
それが今では──
時間に追われ余裕がなくて、体は重たく疲れ果て、心もカサカサに乾いているわ。
☆☆☆
『やれやれ。どうしたもんかなぁ』
あらまあ大変。これじゃあ、いつまでたっても不安が消えないわ。自分自身を頼りにできないんだもの。
何をやっても誰といても、自分の土台がグラグラ揺れ動いているんだから。それじゃあ、うまくいくはずないわ。
『ふうぅ眠くなってきたぜ』
☆☆☆
「おかえりなさい」
『え。ここはどこ?』
「あなたの故郷よ」
『……本当か』
「あらあら。かなりお疲れね」
『ふうぅ。そうかもなぁ』
「ゆっくりしていらっしゃい」
『ああ。オレはここにいた』
「よかった。思い出せたのね」
『すっかり忘れていたぜ』
「いつでもここへ還れるわ」
『マジか……そうなのか』
☆☆☆
自分がどこから来たか忘れちゃう。それで、拠り所を見失って不安に駆られるの。
つい、誰かを頼って、何かに凭れかかって、支えて貰おうとするわけよ。
でもダメね。
頼られる方だって、拠り所を忘れているんだもの。支え切れずに折れちゃうわ。
☆☆☆
『困ったもんだよな』
「大丈夫よ。一人残らず、いずれ必ず私の元に還ってくるの。霊魂が生まれた故郷へ」
『でも、忘れちまってるんだろ』
「うふふ。あなたは思い出せたのよ。伝えてあげたらいいわ。真実のこと」
『は。オレが?』
「ええ。あなたが」
『ヤダよ、そんなの』
「どうして?」
『いやその、なんと言うか。それってなんか危ねえヤツじゃん。そもそもオレの言うことなんて誰も信じないさ』
☆☆☆
うふふ。
あなたが語ることを誰も信じなくていいわ。ただ言葉にするだけで響いていくの。
波紋のように広がって
いつか誰かの心に届くわ
☆☆☆
「息を吐きながら、ここちよいって囁いて」
『うーん。メンドいことばっかだから』
「吸う時は、このままでよいって思うの」
『これじゃダメだって叫んでいたぜ!』
「また吐いて、ありがとう」
『吸うのは鼻からだよな』
「うふふ。自然にそうなるわ」
『ああ元気が出てきたぞ』
「あなたはずっとここにいるの」
『え。マジか……そうなのか』
「ここが霊魂の故郷よ」
『オレは帰ってきたんだな』
☆☆☆
あなたは私の中にある。
他のどこにもいない。そう理解すれば、何もかもスッキリ晴れていくわ。
あなたはそのままでいい。
「いつでもどこでも何をしても誰といても、あなたは私の中にいる。ここに在るの」
『なんだかホカホカしてきたぜ』
「さあ、いってらっしゃい」
『やれやれ。そうするか』
「眠ればまた会えるわ」
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お読み頂き、ありがとうございます!