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心の奥に隠した想い
『ここまで生きると、人間関係いろいろあるのさ。思い出すと消え入りたくなっちまう』
(ふふ。旦那はん、そない恥ずかしがることあれへんどす。ほんま可愛らしいもんやわ)
『あはは~そう言われちまうと……でも、やり直せるなら、何もかも打ち消したいよ』
(せやったら逆に、とことん味わい尽くすとよろしおすえ。中途半端はあきまへん)
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は人間関係についての三巡目でございます。中でも男と女に関して。
思い出すのです。
初恋は幼稚園でした。それから、どれほど揺れ動いたことでしょう。
思い焦がれドキドキそわそわ
血の気も引くほど苦悩して
懐かしいけれど今となっては朧気です。あれは本当にあったのだろうか……
シーズン4、いよいよ完結前。
幽界見聞録あるいは幻想小説としてお読み頂けるなら、嬉しいご縁です。
では早速──
☆☆☆
人生で起こった全て再現できる。忘れたことさえ。幽界はそういう世界。
時間のない世界
食べなくて大丈夫
眠る必要もない
眼前では過去の出来事が映し出される。心の奥に隠した想いも浮かんでくる。
相手の本心も響いてくる。
こんな風に思っていたのか──
☆☆☆
(どないなお気持ちどす)
『……打ちのめされるよ』
(それならよろしおす)
『え。これでいいの』
(はいな。そうどうすえ。味わい尽くさんでは、隠した想いが体を蝕むんどす)
『聞いたことある。癌って漢字は口が三つ。言いたいことを我慢してるとなっちまう』
(せやけど、なかなか言えまへん)
『口論になったり、引かれちまったり』
(心の中で語りかけたらよろしおす)
『なるほど。たーしかに確かに』
☆☆☆
なぜ想うまま言えないか
傷つけるのが怖い
嫌われたくないから
隠してしまおう
心の奥に秘めたまま
想うだけなら伝わらない──
ところが、幽界へ来れば露わになる。何もかも、眩いばかりの光に照らされる。
☆☆☆
『キツいね。すっかり忘れていたからさ』
「起きてる間の特権どす。忘れはるん」
『知らなかったことも幽界では暴露だし」
『そうどすなぁ。逃げ場ありまへんえ」
『味わい尽くすと手放せるものかね』
「生きとるうち祓えたら尚よろしおす」
『死んでからじゃ遅いってわけか』
「多いんどすわ。そういうお方って」
☆☆☆
ミドリが介護ベッドに寝ている。
自宅で介護し始めた頃だ。
「あたし、病院で死にたくないの」
思い出せた。仕事の合間、介護に適した部屋を探す。引っ越しは一人で済ませた。
ああ。そんなこともあったなぁ。
義弟二人と義父母の姿……そう。あの日、見舞いに来てくれたのだ。
もう、あまり食べられなかったミドリは珍しく蕎麦が食べたいと言う。
それを聞いて、義弟たちは家を飛び出すと、近くのスーパーで買ってきた。
☆☆☆
『懐かしいねえ。思い出す』
(素敵なご家族どすな)
『まぁ、色々あったけど』
(最後は仲良くならはった)
『ミドリがよく食べてさ』
(嬉しかったんどすな)
『オレは胸一杯で……』
(そういうもんどす)
☆☆☆
ミドリが食べ終えると、義父は不意に立ち上がった。小柄な背は屈めて目を細める。
ミドリの頭を撫でた。
─えらいねえ
たくさん食べて─
ミドリは、おとなしく頭を撫でられている。ちょっと驚いたような顔つきだった。
家族が帰ると部屋はしんとする。
けれども、寂しさはなく
穏やかな雰囲気が漂う。
☆☆☆
「褒められたかったのね、私」
『……そっかあ。よかったな』
「うん。もう気が済んだわ」
☆☆☆
やれやれ──
何をやっていた。
頭を撫でるだけであれほど喜ぶとは。
なのにオレときたら……傷つけたり悲しませたり無視したり……やりきれない。
ミドリの想いだけではなかった。娘を先立たせる義父母の悲しみ。義弟たちの戸惑い。
あの頃は、慮る余裕さえなく、素通りしたそれらの想いが今、押し寄せてくる。
☆☆☆
『いやホント切ないね』
(今ならどうなさいます)
『……そりゃ抱きしめて……』
(ほな、そうしてくださいませ)
目の前に和服姿が立つ。
彼女の顔はミドリへ変わった。
私は肩に手をかけ
そっとひきよせ
頭を撫でた──
やわらかな光に包まれる
ときが歩みをとめ
しずかな音だけひびく
ここちよい
さざなみのような
かすかな震えに
とけていく
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今日も寒いなぁ。皆さんお大事に。
☆☆☆
お読み頂きありがとうございます!
次回の私物語は12月3日午後3時。仕事に纏わる幽界見聞録お届け致します。
いよいよ完結!
木曜朝8時、西遊記でイラストの朔川揺さんと創作談話です。
是非、いらして下さい♡
ではまた💚
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