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異界へ繋がる電話


 その食堂の前にある公衆電話で、999とか9999とかをダイヤルすると、勝手にしゃべるおじさんにつながる。なんだか訳のわからない事を早口で、録音を再生しているかのように一方的にしゃべるのだ。
 それだけなら良いのだが、無言のこともあるらしい。また古い鉄扉を開けるような、ブランコをこいでいるかのような、古いカートを押しているような、奇妙なキーキー音とか、サーッと雨が降っているような音が聞こえることもあると言う。いくつか番号があって、その番号によってかかる先が違っていたのかも知れないが、定かではない。
 この電話からでなければ起きないということは理解しがたいが、そういう話になっていた。

 自分は一度だけ、999か9999かどちらかに電話したことがあるが、出たのは一方的にしゃべるおじさんだった。正直ホッとした。

 この電話にはジンクスのようなものがあって、おじさんが出ず無言だったり、何か気味の悪い音が聞こえたりしたら、その子はどこかに連れ去られると言われていた。
 急に転校したとか、病気や怪我をして入院したとか、ひどい時には少年院に入ったと噂される場合もあった。
 いま思い返してみれば、電話のせいかどうかは別にして、不自然に居なくなってしまった子どもは確かにいた。

 転校してきた生徒がいたのだが、ごくわずかな期間在籍しただけで、ほとんど会話を交わすこともなく、居なくなってしまった。
 家庭の事情があるという話だったが、よく分からない。

 両親が離婚したのか、お母さんの実家に帰るとかいう話で、遠方に引っ越すので突然転校した生徒もいた。

 上級生に活発すぎる生徒がいて、学校外でもトラブルを起こしていた。
 彼はあまり学校に来ていなかったと記憶しているが、別の学校(たぶん少年院か更生施設のような所)に通っているという話だった。そしていつのまにか完全に居なくなってしまった。

 これだけ噂になっているにも拘らず、その電話に人だかりができるようなことはなかったし、むしろほぼいつも誰もいなかった。色んな話を作った本人たちも、実はほとんど電話していなかったのだろうと思う。

 この話はいったいいつ頃のことだったか、考えてみれば少年院という言葉を使っていたことから、小学校ではなく中学校の時ではないかという気がする。
 今から考えてみるとたぶん、奇妙な公衆電話の話と、居なくなった生徒の話、二つ別々の話が一つになって語られていたのだと思う。

 その食堂はもう営業していないが、看板を取り外した古い建物だけが、あの頃のまま残っている。
 あの録音テープを再生しているかのようなおじさんは一体、何者だったのだろうか。

 ピンク色の公衆電話はとっくに撤去されてしまっているが、その辺りの街並みは今でもあまり変わっていない。

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