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しなやかな日常をつくるフェーズフリー──あたらしい防災のあり方

朝早くからさまざまなメディアから発信された、あの日のこと。東日本大震災から13年経っても、脳裏にはあのときの光景がこびりついています。当時、福岡にいた私はただ茫然とテレビ画面を眺めて、Twitterをリロードするしかできなかった。現実と思えないことが現実に起こって、あまりに変わらない自分の日常との乖離と温度差に、ただただ無力感が募るばかりでした。

今年も1月1日に能登半島地震が起こり、地震から時間が経つにつれ被害の深刻さが浮き彫りになっていくのに、私は相変わらず何もできなくて。「支援はプロに任せて、私たちは寄付などできることを」というのは正論だけど、依然支援が及ばず苦しむ被災者の様子を報道などで見聞きすると、本当にそれだけでいいんだろうか、と思ってしまうのも確かで。

震災の恐ろしさを頭ではわかっているけど、実体験として理解しているとは言いがたい。でも何かできることがあれば……と思っていた私ですが、本日3月11日発売の書籍に関わらせてもらうことになりました。タイトルは『フェーズフリー「日常」を超えた価値を創るデザイン』です。

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著者の佐藤唯行さんは災害工学の専門家で、フェーズフリーという概念を考案し、世に広める活動をされています。フェーズフリーという言葉を聞いたことのある方もいるでしょう。最近コンテナホテルが話題になっていましたが、これもまさにフェーズフリーなサービスの一つです。

フェーズフリーとは、「日常時や非常時などのフェーズ(社会の状態)にかかわらず、適切な生活の質を確保しようとする考え方」のこと。日常時でも非常時でも普段と変わらない、むしろよりよく暮らせるようなモノやサービスをつくるための考え方です。

佐藤さんは防災・危機管理アドバイザーとしてさまざまなプロジェクトに携わりながらも、幾度となく繰り返される災害に無力感を抱いていたのだといいます。予測ではこれくらいの被害が出るはずだから、しっかりと備えよう、大切な人を守ろう……と声高に訴えても、個人はおろか自治体や企業すら予算との兼ね合いで十分な災害対策を取れないことに。

そこで佐藤さんは、発想を転換します。「備えられない」ことを前提とした防災のあたらしい考え方……「フェーズフリー」を提唱しました。災害の恐ろしさを訴えても、多くの人はやがて忘れてしまう。日々を暮らすのに精一杯で、備えられない。企業も行政もコストカットを優先して、最低限の備えしかできない━━。それなら、日常時にも非常時にも役立つ、価値あるモノやサービスが身の回りに増えていけば、より多くの人を救うことができるのではないか、と。

フェーズフリーの考え方を書籍にまとめるにあたり、佐藤さんと担当編集さんが澤田智洋さんの『マイノリティデザイン』を手に取ってくださり、構成を担当した私に声をかけてくれました。フェーズフリーが「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」のように、ごく当たり前のものとして多くの人が取り組むものにしたい、と。

表紙でもあまり「防災」が前面に出ていないのは、あくまで企画立案や発想に役立ててもらうため、より多くのビジネスパーソンの方に手に取ってもらいたい、という佐藤さんの意志あってのこと。本文中でも災害や防災に関する記述はありながらも、モノやサービスを生み出すための発想法やヒント、フェーズフリーの実例などにかなりのスペースを割いています。

価値観やライフスタイル、ニーズなどさまざまなものが多様化するなかで、誰もが認める「共通の価値」をつくるのは難しくなってきています。けれども「人間の暮らしや命を守る」という点、それだけに関しては、どんな人でも賛同してくれるでしょう。(中略)「売れる商品やサービスをつくりたい」「目新しいアイデアを考えたい」といった現実的な理由でもかまいません。どんな動機であったとしても、一人でも多くの方がこのプラットフォームに参加してくだされば、それは「安心して豊かに暮らせる未来」を実現するための力になります。

『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(おわりに P204-205)

上記にあるように、人の営みや命を守ることに異を唱える人は(反出生主義者でない限りは)いないはず。私自身、これまで大きな災害に遭わずに済んでいるけど、いつ何が起こるかわからない。ここ数年、それを実感する毎日だからこそ、もっと多くの方にフェーズフリーの考え方が広まっていくといいなと考えています。少しでも気になった方は、(なんと!)3/17(日)までこちらで全文公開されていますので、ぜひご覧ください!

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読んでくださってありがとうございます。何か心に留まれば幸いです。