日常を変えるやわらかな革命
最近、出かける先々でヘラルボニーのプロダクトによく出会います。カラフルなエコバッグ、ハイアットセントリック銀座東京のアートルームとコラボしたTシャツ……「ヘラルボニー」という言葉に聞き覚えがなくても、アイコニックなアートワークにはきっとどこかで見覚えがあるはず。
直近では本日10月19日から31日までうめだ阪急で「ヘラルボニーアートコレクション」が開催され、9階の祝祭広場がヘラルボニーで埋め尽くされます。
そんなヘラルボニーを経営する松田崇弥さん、松田文登さん著書の『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』がまさに今日、出版されました。
今回、私は編集協力で携わらせてもらいました。さかのぼれば2021年夏、澤田智洋さんの『マイノリティデザイン』を読んだという新潮社の編集さんからお声がけいただき、今回の企画に参加することになりました。
『マイノリティデザイン』は澤田さんのユーモアとセンスがバチバチに決まった一冊なのでぜひ。
もちろんヘラルボニーはアート好きな私としても気になる存在で、澤田さんが「#福祉現場にもマスクを」という企画で協同していたこともあって、「お力になれるようならぜひ!」とご一緒させてもらうことになりました。
崇弥さんと文登さんが経営するヘラルボニーは、障害のある方のつくったアート作品をもとにプロダクト企画やライセンス提供し、アートライフブランドとして展開しているスタートアップ。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2019」など数々のアワードを受賞するなど注目されています。
池田エライザさんによるキービジュアルがめちゃクールで好き。
崇弥さんと文登さんとそれぞれ数回、ときには盛岡の拠点にも足を運んで伺った取材の時間。個人的には「双子で一緒に事業をしている」ことにシンパシーを覚えていて(ご存知ない方もいるかもしれませんが、私は3姉妹かつ双子の姉で、妹もほぼ同業で新聞記者をしています)、エピソードの数々が“双子あるある”で頷くことも多々ありました(すごいニッチな共感)。
そして何より、ヘラルボニーのアートワークやプロダクトから感じられる、やわらかな光の向こうにある、社会に対する憤りや怒り。「未来を変える」という強い意志をお二人から感じて、なんとかそれを伝えられたら……と文章を構成していきました。
崇弥さんと文登さんの兄である翔太さんは、重度の知的障害を伴う自閉症。翔太さんに対する世間の目を変えることが、二人の起業した動機の一つでもある。
今年春に取材を終えて書き進めたのですが、なんといってもスタートアップならではの圧倒的な成長速度で、ヘラルボニーに関するビッグニュースが次々と飛び込んでくる日々。
展示会開催! 髙島屋出店! 成田空港をラッピング! ──。ヘラルボニーのスピードに追いつけない! どうしよう……と迷うこともありましたが、松田さんたちにとって、ヘラルボニーにとって「第1章」を締めくくり、次の「第2章」へと橋渡すような一冊になれば……と思いながら、筆を置きました。
本文中にもチラッと登場する作家の岸田奈美さんが「ここ数年で読んだビジネス本で一番良かった」とおっしゃってくださってめちゃめちゃ嬉しい。
ということで、ここ数年のヘラルボニーをウォッチしてきたファンにとっては既知のエピソードもあるかもしれませんが、時系列で振り返りつつ「そうだったのか!」「そうだよね!」と頷きながら、はたまた新規ファンにとってはヘラルボニーの成り立ちをまるっと総ざらいできる一冊になっています。
工藤みどりさんによるアートワークも素敵な装丁になっているので、本屋さんで見かけたらぜひ手にとってみてください。
あと完全に蛇足ですが、鉄壁と名高い新潮社の校閲部からもらった校正に、大掛かりな赤字はなかったのはめちゃめちゃ自信になりました! 暗中模索のフリーランス、これからもがんばります。
読んでくださってありがとうございます。何か心に留まれば幸いです。