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奇妙な味のショートストーリーズ

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これまでに書いた掌編、短編、ショートショートをまとめています。奇妙な味の作品が多いです。
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2022年9月の記事一覧

【掌編小説】鉄塔の見える家 #2000字のホラー

【掌編小説】鉄塔の見える家 #2000字のホラー

夕暮れになると香奈恵は景色を眺める。
家の裏手にある窓の前で、つま先立ちになって、じっと時を過ごす。
そこから見える物は三つしかない。
空、山、そして鉄塔。
携帯の電波も届かないような限界集落の外れ。
壁まで歪んだボロボロの民家が、香奈恵と父親、二人の住まいだった。

香奈恵はいつも一人で家にいた。
「外に出てはいけない」
ここでの生活を始めるにあたって、父は香奈恵に強く言い聞かせていた。
山の中

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【掌編小説】あいちゃんはネコがすき #2000字のホラー

【掌編小説】あいちゃんはネコがすき #2000字のホラー

あいちゃんはね、ネコがすきなの。
おうちでいっぱいかっているの。
ママもネコがすきだから、いつもひろってきてくれるの。
さわるとホワホワして、とってもきもちいいんだよ。

あいちゃんにはパパがいないけど、ネコがいるからだいじょうぶなの。
いつもネコといっしょだったら、しんぱいなんかないよ。
あいちゃんちにはおかねがないから、ママはジチタイからホゴっていうのをもらってる。
だからママとスーパーにいっ

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【掌編小説】カサンドラ #2000字のホラー

【掌編小説】カサンドラ #2000字のホラー

地を這うように低い走行音にまじって、心地よい女の声が聞こえる。

──何か音楽をかけましょうか?

「ああ、落ち着いたやつを頼むよ」と私は答える。

リン、と小さな鈴を鳴らすような音。それがカサンドラの応答だ。
コンソールのディスプレイに描かれるオーロラのような模様。
ほんの数秒間、彼女は思考する。
わずかな空白の後、車内スピーカーから静かで重いチェロの響きが流れてきた。
そうそう、こういう曲が聴

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