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2017年2月の記事一覧
裏庭には井戸があって【掌編小説】
私の住んでいる家の裏庭には不思議な井戸があって、私はいろいろな要らないものをそこに放り込んできた。水垢のとれなくなったグラス、流行遅れのださいスカート、鬱屈したコンプレックスばかりを書き綴った日記。
数日経つと、放り込んだ要らないものは私の気に入るものになって帰ってきた。一点の曇りもない美しいグラス、雑誌に紹介されているようなスカート、翌月から始まる新品の日記。いつだったか、姉の大切にして
夏の芝生【掌編小説】
翔太が間違って私の右側に立ってしまったことに気がついたのは、歩き出してすぐのことだった。
ぎこちなく私の手を取ろうとして、彼は肩をビクリと震わせた。しゃっくりを無理矢理おさえたみたいに不自然な動きをしたものだから、私はもう少しで吹き出しそうになってしまった。初めてのデートでいきなり気を遣わせてしまって、私も何となくばつが悪い。けれど、大事なところで間の悪い翔太の姿を見ていると微笑ましくもなる