【小説】恋の幻想
「寝て飲んで食べたら何でもできるから。」兄さんがそう言ってくれて、私はそうだ生きていれば何とかなるって考えた。
昨日はこれからが不安だった割にはよく眠れて、睡眠をとると将来の不安も無くなってしまった。
お腹空いたーって考えて、そんな気持ちになったのは何時ぶりだろうって思った。
「本当に親御さん心配してない?もしかすると自分がそう思っているだけかも知れないよ。」ハンバーガーを食べながら聞かれる。
これは何処へ行っても言われるだろうと覚悟していた、18歳は成人だって時代だけど、実際に18歳の人間を見たら、心配する筈だ。
場合によっては誘拐と疑われてしまうから、人間って簡単には行かないんだろうな。
私の親に限ってはそれは無い、私に対する関心は皆無なのだから、そう考えて答えることにした。
「そこは絶対に大丈夫です、だってあの人たち高校を出たら出て行ってくれって言ってたんですから。」
答えるとお兄さんは納得したような困ったような顔に成っている、そうだよね随分迷惑だって思うよね。
「他人には解らないから、その辺は自分で判断するしかないよね。」と裕子さんが言葉を繋ぐ。
人は数時間でも体を寄せ合っていると、その相手の事を考える様になるのかもしれない。
裕子さんは家に居場所が無いって事は理解してくれているらしい、それ以上もきっと想像してくれているのだろう。
あの家にこれ以上は住みたくない、身体も心も壊れてしまう、高校卒業まで何とかしようと思っていたけど、限界になっていた。
そこに一緒に行こうと云う言葉が入って来ると、一も二も無くそれに乗っかってしまう。
これまで生きてきて、自分しか頼れるものは無いと思っていたのに、何故あんな言葉を糧にしようとしたんだろう。
これからは自分で生きよう、決意を新たにしていると、また質問に有ってしまう。
こっちが迷惑かけたんだから、答える義務があるんだよね、ここはキチンと答えなければ。
「高校はもう卒業なの?」と次の質問。
「卒業は出来るんですけど、休みに入っているんです。」もう学校にも行かないつもりで出てきたのだ、それに対しては迷いない。
もっと前に中卒で仕事をするべきだった、後悔がチクッと心に刺さっている。
「卒業前の休みってこんな時期からだったっけ?」少し大きな声で聞かれた。
「まだですけど、そろそろ卒業だし、これ以上家に居たくなかったんです。」言葉がスラスラ出てきて、何とか説明しようと考えた。