【小説】SNSの悪夢
休憩が終わると、あと半日の仕事がある、携帯はバックに仕舞って、もう一度レジに立つ。
ここではいつも笑顔を貼り付ける、何を言われても気にしない、何を言われても反応しない。
例え「なんとか言え」とか、「お前はバカなんか、ニコニコ笑いやがって」と言われても、何も言わない。
言った所で何もできないからだ、言い訳は通じない、お客様がお怒りなのだから、私が悪いと言う訳だ。
取り敢えず、申し訳ありませんから始まる会話は神経をすり減らす、自分が謝る必要性を感じていなかったら、余計にだ。
あと何時間と考えながらレジの仕事をする、でもここが終わってものんびりしている暇はない。
今日は作り置きが無い、総菜でも買って並べて置こうかと思う日も有る、それでも健康を考えると、作った方が良い。
料理はしなければならない、考えると家事も仕事もあっても、休日にも休めない。
こんな日が何時まで続くんだろう、終わりの無い牢獄に居るみたいだ、自分で選んだ道だろうと言われたら、言い返す事は出来ないが。
今日も長時間の立ち仕事を終えて、家で待っている家人の為に早足で帰らなければならない。
疲れた、帰ったらまたSNSを見て、突っ込める話を探して置こう、それしか発散は出来ない。
足を引きずる感覚で、家への道を早足で歩く、料理の匂いがすると羨ましくなる、誰かが作ってくれた料理は何年も食べていない。
女がレジに入り直して、何時間か仕事をしていた、だが今はバックに入って行った、そろそろ帰る時間かも知れない。
バックの出入り口が解っていたので、出入り口で待ってみよう、遠くから見ていればいいのだ。
こんな時には、仕事で色んな役柄をしていたのが役に立つ、前に探偵の役をしていた時に遠くから見て確認していた。
帰り支度なのか、バックを抱えて、早足でマンションの方に急いでいる、この女は自分で不倫したわけじゃ無さそうだ。
杉山某は同族嫌悪だと思うが、こっちは違っているらしい、家族の為に仕事をして、家に帰って家事でもするのだろう。
それでも問題を抱えていない人間は居ない、なにか問題がある筈だ、本人には無くても、家族には有るかも知れない。
そうだ、夫や子供が何かしていないか、それも調べてみる必要がある、プライバシーなんて構うものか。
元々あいつの投稿でこうなって居るのだから、その位の覚悟は持っているだろう。
女を付けてマンションに入って行くのを見つめながら、女の家族は誰か探していた。