【小説】夢叶えます
「・・・・・・・」答えが帰って来ない。
「今すぐに決めるのは難しいだろう、君だって分かっているだろう。」一人が言う。
「自分としては、仕事は多くなって、その上難しくなって、でも給料は昔と同じだったら、ここに居ること自体を考え直さなければならないでしょう、それは解ってくださいますよね。」ここで駄目なら転職かな、副社長の仕事をしてみて、自分に自信がついたので、そんな考えが浮かんでいた。
「解ったよ、給料は今のままと云う訳にはいかないけど、何とか考えてみる。」直ぐに答えが返った。
「もう一つ、副社長で無くなったのですから、責任は取らなくていい地位になるんですよね、上の地位に居るから責任を取るのであって、それ以下なら問題は無いでしょう。」辞めても良いから言いたい事を言おう、随分大変だったのだから。
「・・・・あのね君、責任はついて回るでしょ。」誰も言いたくないみたいで、言いにくそうに言葉を出す。
「地位が高くて、給与も多い人が責任を取るのが普通でしょ、自分は副社長の地位は無くなるのだから、それが責任を取る事でしょ。」
「後でする仕事には責任は無いですよね。」それが言いたかったんだ、だって俺に仕事を任せて何もしなかった人間が、自分の処遇を決めて、それでも仕事はさせたいって、それで問題が在ったら責任を取るのか?
「解った、これからする仕事の責任は君には求めない。」苦虫を潰したような顔で1人が断じた。
「それなら、給与が折り合えば今の仕事を続けます、自分がやっている仕事を、即座に辞めてしまうのは心残りだったんです。」本当の言葉が口から飛び出た。
「じゃ、それで良いかね。」確認された。
俺は頷いてから、足だけを後ろにずらして、ドアの所にまでたどり着いた。
「失礼します。」最後に一言。
心の中に大変だったけど面白さも在った副社長の時間が、張り付いていてこれからもきっと度々思い出すんだろうと考えていた。
「さて、仕事に戻るかな。」声に出しながら、部屋に戻ろうとして、あれ、あそこに戻っていいのかな、疑問が浮かぶ。
何か在ったら言ってくれるだろう、上の地位になってから、身体に沁み込んできた考え方が、自分に教えてくれる。
これで夢叶いますの1つ目はボツになって、元に戻った訳では無いけど、自分の努力も考えればこう落ち着くだろう。
後は裕子がどんな風に反応するか、自分では気持ちは如何しようも無い、副社長の自分が好きなら、もう付き合わないんだろうな、そう思っている。