【小説】恋の幻想
「美味しい、コーヒー大好きなんですよ。」両手でカップを持ちながら忍が話し出す。
「ハンバーガーって体に悪いとか言う人居るけどさ、匂いを嗅ぐと食べたくなってくるよね。」裕子が続いて言う。
「だから買ってきたんだって。」答えて、二人に顔をじっと見て、昨日とは違ってすっきりした表情になっていると感じた。
「後で良いからさ、話してくれるかな、言いにくい話はしなくて良いから。」と続ける。
「ありがとうございます、家を出たんだから、何でもできますよね、昨日はそんな気持ちになりました。」と忍の顔がしっかり上を向いている。
「私はちょっと話したから分かってるんだよね、男の人に言いにくいなら言わなくて良いよ、私が知っていれば。」と裕子が言い出す。
「いえ、お世話に成ったんだから、キチンと言わないと。」と律儀に答えてくる。
「別に大きなお世話だったんだから、気にしなくても良いんだよ。」と言ってみる。
「でも、本当に有難かったんです、だって誰も気にしてはくれなかったから。」と辛そうな言葉。
「ある人と何処かに行こうと思っていたんです私、それで駅で待ってたんですけど、その人は来なかったんです。」それで説明したと言わんばかりに、忍が一気に言う。
「男の人と何処かに行こうと考えてたんだ。」と言葉を引き取る、言いにくそうな時にはこっちから言った方が良い。
「そうです男の人でした、恋人とかそんな感じじゃなくて、友達よりは強い感じって分かります?」と聞いて来る。
何となくは解るが、しっかり解るとは言い難い、一緒に家出するのなら恋人と言って良いんじゃないか。
恋人に裏切られたのなら、言いにくいのは解るけど違うってのは解せんな、などと考えている。
「友達より強いって、私達みたいな関係でしょ。」裕子が俺の方を見て言ってくる。
「元婚約者は恋人だった時期があるんだから、一緒じゃ無いだろ。」物言いに一寸苛ついて、キツイ言葉に為った。
「そうですね、見ていてご夫婦みたいですもん、ちょっと違うと思います。」と忍も言い出す。
「俺たちの事は良いとして、その友達以上恋人未満の奴が現れなかったんだな。」と続ける。
それ以前の話はどうでも良い、親が心配してるんじゃないかって、考えだけが浮かんでいる。
「親や兄はきっとどうでも良いと思ってます、だから誘拐犯になるって心配は無いので。」と答えてくれる。
「本当に心配してない?思ってる以上に親は心配するもんだよ。」と言う。
「その心配はないです。」きっぱりと答えた。