【小説】恋の幻想
俺は保証人になるには若すぎるかな、自分の方が保証人が欲しい位だけどな。
「私が知ってるところは保証人も何も要らないから。」自慢げに裕子が言う。
「お前が自慢する話じゃ無いだろ。」と俺がすかさずちゃ茶を入れてしまう。
「本当に保証人が要らないんですか?」俺の言葉には反応せず、忍が裕子の方に声を出す。
「旅館って昔は何かから逃げてきた人とか、行き場の無い人とかが仕事していたみたい、今はそうじゃ無いんだけど、ここは今でもそんな人を雇ってみる時が有るのよ、可愛いから変な人に付き纏われない様しないとね。」と答えている。
昨日から連れてきた女の子の顔を俺は確認するように見た、確かに可愛い顔をしている。
日本人形みたいなおかっぱで、色白の肌にぽっかりとアーモンド形の瞳とすらっとした鼻、薄い唇が印象的だ。
この子の顔には忍という名が良く似合っている、ちょっと昭和な顔立ちに見えた。
「本当だ可愛いんだな、変な男に気を付けないと。」初めて見たみたいに言ってしまった。
「昨日から顔は変わってないよねー、失礼な男だよね、今気付いたみたいに。」裕子お得意の拗ねたような口調だ。
「ありがとうございます、気に掛けて貰っただけで有難いです。」忍がまたありがとうだ。
「あんまり、ありがとうって言い過ぎない方が良いよ、ありがとうの有難味が無くなるから。」と言ってやった。
「そうだね、ありがとうって良い言葉だけど、言い過ぎなくていいんだよ。」裕子も同意している。
「それより、仕事はする気有る?すぐにでも紹介するよ、住む所も探すんだったら、そっちも一緒に問題解決になるでしょ。」と続けた。
「決まらなかったら、何日かここに居ても良いけどね。」困って追い出す真似はしたくなかったから、そこは大きな声で言った。
「何処かで働くつもりだったので、紹介してもらえると有難いです、この近くなんですか?」忍もその気になっている。
「ここよりは山の方だけど、近くに高校が有るって言ったら解る?」
「解ります、そこ私の高校の近くかも知れない。」一寸した偶然に興奮気味だ。
「だったら、高校の卒業までアルバイトって話にして、住みながら働いたら良いよ、人が多い所だったら、家族が理不尽に言ったりしても、誰かに助けてもらえるでしょ。」家族と上手く行っていない彼女の話を聞いて、裕子は考えていたのだろう。
「そうですね、1人暮らしだったら兄が押し掛けてきても、自分じゃどうにもならなかったかもしれないから。」俯きながら忍が答えた。